菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『M-1グランプリ the FINAL PREMIUM COLLECTION 2001-2010』

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(2011/03/09)
V.A.

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島田紳助、不祥事により引退。

近年稀に見る、衝撃的なニュースだったのではないだろうか。少なくとも、僕にはそう見えた。……もちろん、どういうわけだか今年に入ってから立て続けに伝えられている数々の訃報と比べてみれば、その衝撃の大きさは段違いではあるのだが。しかし、多くの視聴者に少なくない反感を受けていたとはいえ、数々のバラエティ番組で司会をこなしていた彼が、こういう形で芸能界から姿を消すことになるだなんて、果たして誰が予想できただろうか。それも、こんなに突然、何の前触れもなく。

本件について、何の疑問も抱くことなく、ただ純粋に彼がテレビから消えてしまうことを喜んでいる人も少なくないらしい。まあ、はっきり言って、その感情は分からなくもない。近年のバラエティ番組における紳助氏の所業はともかくとして、売れていない芸能人を世間に知られるスターに仕立て上げた功績を自慢するかのような彼の言動には、僕も少なからず腹立たしいと感じていた。とはいえ、この件を心の底から称賛するという気持ちにはなれず、かといって彼に同情しようなどという気持ちにもなれず、ただぼんやりと佇んでいるだけの状態に陥っている。もし、僕が村上春樹だったとしたら、この釈然としない気持ちを抱えたまま、行きずりの女性とベッドに入っていることだろう。やれやれ。

ひとまず、この気持ちを紛らわせるために、日常ではあまり口にすることのないビールでも飲みながら、これ以後の文章を書いていくことにする。……おい、参ったね、しゃっくりが出そうだよ……ムッ……。

島田紳助といえば、僕と同世代の人にとっては「嗚呼!バラ色の珍生!!」における徳光和夫の隣で感動している人というイメージがあるのではないだろうか。少なくとも、僕にとっての彼はそういうイメージである。ただ、僕はくだんの番組を殆ど一度も見たことがない。それでもそういうイメージが強く残っているのには、理由がある。ものまね芸人のコージー冨田が、この番組で感情のこもっていない言い回しをしている彼のモノマネを得意としていたからだ。

実のところをいうと、僕は近年の鬱陶しいほど自己を主張し始めた島田紳助以前の彼に対しては、殆ど何の印象も持っていなかった。もちろん、彼が出演している番組を見たことはあったし、なにより僕が漫才の最高傑作と崇めて止まない中田ダイマル・ラケットの漫才を初めて観た番組の司会が彼だった(余談だけれど、中田ダイマル・ラケットの漫才は一度観ておいたほうが良いと思う。あれを観た直後じゃ、どんな漫才も観られない)。それでもまったく記憶に残っていないのだから、不思議なものだ。この状況は、M-1グランプリが開催されてからも、それほど変わらなかった。今になって思うに、当時の紳助氏は自己を消し続けていたのではないだろうかと思う。少なくとも、全国区の番組では。

そんな島田紳助の最大の功績といえば、やはりM-1グランプリの大会委員長になったことだろう。もし、彼が大会委員長になっていなければ、あのそうそうたる審査員を集めることは出来なかっただろう。そして、あの審査員がいなければ、M-1グランプリはここまで多くの人たちに見つめられる大会には成り得なかっただろう。全ては島田紳助の存在あって……とまで書くのは大仰だが、M-1において彼の存在が重大だったことはだれにも否定できない事実である。

M-1グランプリの終了を機にリリースされた『M-1グランプリ the FINAL COLLECTION 2001-2010』は、結果として島田紳助の置き土産となってしまった様だ。本作はM-1グランプリの一資料として、また記念品としての立ち位置にある作品だが、その一方で島田紳助が本大会にどのように関わってきたのかが間接的に(時に直接的に)伝わってくる内容にもなっている。中でも分かりやすいのが、歴代チャンピオンのネタ前に挟み込まれる紳助による各年の総評だ。ここで語られているのは、テレビ視聴者向けではない“島田紳助”という漫才師の視点で切り出したM-1グランプリの肝だ。特に、自身が審査員として参加していない2004年大会における南海キャンディーズへのコメントは、なかなか目を見張るものがあった。

これから先、どうなってしまうのかは分からない。が、とりあえず芸能界から引退することを発表してしまった以上、今後島田紳助を観る機会は失われてしまうのだろう。それによって、テレビから不快感は幾らか解消されるのかもしれない。だが、果たして、その状況は継続されるものなのだろうか。“白川の清き流れに魚棲みかねて 元の濁りの田沼恋しき”という言葉もある。いずれ僕らも、彼のことを……。


・本編DISC-1(137分)

「歴代チャンピオン漫才 & 島田紳助撮り下ろしインタビュー」

「歴代チャンピオンのM-1初挑戦映像 初-1グランプリ」

・本編DISC-2(158分)

M-1 10年物語」

島田紳助松本人志が絶賛!そのネタとは…?」(決勝ネタの一部を収録)

M-1グランプリの申し子・笑い飯」(M-1で披露した全漫才を収録!)

M-1グランプリ秘宝館」