菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「男子はだまってなさいよ!7 天才バカボン」(2011年9月7日)

男子はだまってなさいよ!7 天才バカボン [DVD]

男子はだまってなさいよ!7 天才バカボン [DVD]

 

僕が赤塚不二夫の作品を読むようになったのは、氏が亡くなってからのことだ。要するに、ニュースで話題になっているから読んでみようかな、などと不届き千万な態度でもって、氏の作品に触れたにわかである。

ただ、それまでに赤塚作品を一度でも読んだことがないのかというと、そうではない。僕の家には、どういうわけか昔から『おそ松くん』の単行本が何冊か置いてあって、たまにそれを読んで楽しんだ記憶もある。でも、当時の僕はどちらかというと藤子・F・不二雄の短編を愛読していたためか、『おそ松くん』にあまり深い印象が残っていない。なにせ、チビ太と六つ子がよくケンカしてたっけ……という程度の認識しかないから、余程である。つまり、やはり僕は赤塚作品においてにわかであるのだが、それでも『おそ松くん』の記憶が残っている以上、同世代の人たちよりは赤塚作品を知っているつもりではあった。

ところが、赤塚氏の死後に『天才バカボン』を読んで、驚いた。そこに描かれていたのは、お馴染みの登場キャラクターがドタバタ喜劇を繰り広げていた『おそ松くん』とは似て非なる、過激かつ攻撃的なギャグの世界だったのである。登場するキャラクターはポップでキュート、なのにやっていることといえば殴ったり蹴ったりの暴力三昧……それどころか、人が死ぬことも珍しくない。更に、他所の漫画に出てくるキャラクターが登場して好き勝手なことをやっていたり、登場人物全員がビールに変身してしまったり、ハチャメチャもいいところ。赤塚不二夫は『天才バカボン』のことを“ナンセンスに近付いた”と語ったらしいが、確かに無意味で何も残らない世界がそこにはあったのである。

2010年7月、そんな『天才バカボン』が舞台化された。このハチャメチャな世界観を舞台化するのは無理だろうと思いながら詳細を見ると、手掛けるのは“男子はだまってなさいよ!”だという。男子はだまってなさいよ!といえば、シティボーイズミックスの演出を手掛ける細川徹を中心に、徹底してナンセンスなバカを提言し続けてきたコントユニットである。赤塚不二夫のバカと細川徹のバカの融合……となると、気にならないわけがない。更にキャストを見ると、荒川良々釈由美子松尾スズキと興味深い面々が揃っている。これは、もしかしたら、面白いライブになるのではないだろうか……と当時から思っていた。

そして今回、その公演の模様を収録したDVDがリリースされた。

舞台版『天才バカボン』は、バカボン荒川良々)を中心に、バカボンのパパ松尾スズキ)、バカボンのママ(釈由美子)、本官さん(大堀こういち)、ウナギイヌ皆川猿時)、レレレのおじさん(坂田聡)などのお馴染みの面々が不定形な寸劇を繰り広げる、まごうことなきコントライブだった。その内容は原作と同様、ハチャメチャで過激。バカボンが某北の国の人を連れてきたかと思えば、ウナギイヌが合コンで知り合った女性と結婚を約束。本官はバカボンのパパにうんこを一ヶ月ガマンしたら百万円をやると約束し、そのパパは脳味噌を交換して世界観を一変する。そこで生み出されていたのは、想像していたよりもずっと『天才バカボン』な世界だったのである。とはいえ、本来の男子はだまってなさいよ!が持っているバカさも健在。五月女ケイ子扮する「バカ短大のキ○タマ研究家」がやってきて、キン○マの使い方を提唱する場面は、まさに従来の男子であった。あと、荒川良々がなかなかのサディストだったのも、新しい発見ではあった。演者を追い込む追い込む。

原作『天才バカボン』のバカと、コントユニット“男子はだまってなさいよ!”のバカが、お互いにぶつかり合うことなく、一つのバカとして見事に昇華されていた本作。間違いなく傑作なのだが、アニメ版『天才バカボン』をイメージした人や、釈由美子目的で来た人は間違いなく呆気に取られたことだろう。


・本編(約116分)
「オープニング」「バカボンとママとキムジョンイル」「バカ大にパパとバカボン」「本官の合コン」「ウナギイヌと実家」「バカボンと今野君」「キンタ○の使い方」「ウナギションベン男」「1+1」「ノウミソの交換」「本官の整形」「家庭訪問」「ラスト」