菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『兵動大樹のおしゃべり大好き。5』

兵動大樹のおしゃべり大好き。5 [DVD]兵動大樹のおしゃべり大好き。5 [DVD]
(2011/06/22)
兵動大樹矢野・兵動

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いつまでも若いままでいられるわけではないということを、若い頃は漠然と理解しているつもりだったけれど、いざ自分が若者と言われる年齢から少しずつ離れ始めていくと、それがなんだかとても勿体無い様な気持ちになる。でも、だからといって、僕たちは年齢を例えば冷蔵庫か何かに保存しておくことは出来ない。誰もが平等に年を重ねていく。少年は青年期を、青年は中年期を、中年は老年期を迎えるものなのだ。かくして僕も少年と呼ばれた時代を終えて、もう青年と呼ばれるのもあと数年というところまできてしまった。

さて、これまでの人類の歴史が物語っている様に、青年期を終えようとしている僕はそろそろ家庭を築くべき年頃になったといえるだろう。事実、僕と同じ年頃の友人たちは、特に何がどうしたというわけでもないのに、まるで示し合わせたかのように同じ時期に結婚していった。つまり、そういうことをするのに適した年頃なのだ。そして有難いことに、僕の周辺には僕と同様に青年期を終えようとしている女性たちが少なくない。もし、僕が本当に家庭を築く決心を固めてしまえば、きっとすぐにでも結婚することは可能だろう(あくまで憶測に過ぎないけれど)。

でも僕は、自らが家庭を築くべき年齢だと理解しているにも関わらず、それを実行しようという気持ちにはなっていない。その理由を挙げると、ちょっとキリがない。それでもいくつかの理由を挙げてみると、「やれることが制限される」「使うことが出来るお金の金額が減る」「心配事が増える」……など、いずれも実に他愛がない。しかし、これら他愛のない原因を全て含めて“責任”という言葉にまとめると、それは急に重たくて扱いにくい代物になる。家庭を築くことで生じる責任……これこそ、僕が結婚への道を一歩踏み出そうにも踏み出せない原因なのである。

大阪を中心に活動している漫才師、矢野・兵動のボケを担当している兵動大樹には三人の家族がいる。一人の妻に二人の娘。一家の大黒柱が芸人であることを除けば、何処にでもあるごく普通の家庭である。ところがある日、そんなごく普通の家庭が危機的状況に見舞われる。ほんの小さな事件から始まったその一連の出来事を、後に兵動は「人生最悪の五日間」として述懐する。笑いの聖地と呼ばれる“なんばグランド花月”のステージ上、たった一人きりで紡がれるトークの中で。

人志松本のすべらない話」でも高く評価されている兵動のトークは相変わらず面白いけれど、その内容はなかなか悲惨だ。訪れた危機を強引に回避するも、自らの失態によって不始末が生じる。その不始末をカバーするために更に失態を重ね、全てが落ち着いたかと思えば、また新しい危機が訪れる。そこに描かれているのは、「てんやわんや」「すったもんだ」などという生半可な言葉では表せない、文字通り“怒涛”である。その中でもんどりうっている兵動の姿は実に滑稽だが、一方で感動の様な感情も覚える。テレビやライブと芸人の仕事をこなしつつ、油断と失敗を繰り返しながらも、家族のために懸命になって動き回っている兵動は間違いなく家庭の責任を背負っているからだ。とても今の僕には務まりそうにない。事実、話の中で語られている兵動も、限界ギリギリまで追い詰められている。ところが、家族のある表情を目にして、兵動の顔つきが変わる。

それは、夜中に長女が熱性痙攣を起こした時のこと。幼い次女を妻に任せて、兵動は長女とともに救急車に乗り込んで、病院に向かった。診察の結果は、大事には至らない。親戚のおじさんに迎えに来てもらい、娘を連れて家に戻る。鍵を開けて「ただいま」というと、返事がない。嫁が寝ていると思い、苛立ちを募らせる兵動。ところがリビングに行くと、次女に母乳をあげながらウトウトとしている嫁の姿。その当時について、兵動は語る。「……なんか、この人一番寝てないやんって思たん」。その気持ちのまま、仕事へのタクシーに乗った兵動は自分に言い聞かせる。「全然っ、眠たない!」。

映画やドラマでは嫌というほど語られているけれど、この話を聞いて、僕は改めて「家庭は一人で築くものではない」ことを知った。一人で家庭の全てを背負おうとすれば、潰れてしまうのは当然なのである。無理な話なのである。だが、そこにはパートナーがいる。共に家庭を支え、維持していこうという仲間がいる。だからこそ、頑張れる。ベタな人情ドラマを見ているかのようではあるが……それも一つの真理だといえるだろう。「もう、これでええわ!いらんことせぇ!それでええ!」。そう言いながら涙する父親に、いつか僕も成れるのだろうか。

ちなみに。本作は二枚組となっており、ここまで書いたのは一枚目のレビューである。二枚目には兵動の芸人友達関係についてのエピソードと「すべらない話」で披露したトークの原形、更に「人生最悪の五日間」を彷彿とさせるもまったく逆のエンディングを迎えた家族の話を収録している。また、エピソードの中で語られた芸人友達とともにバーベキューに行くという、なんとも陽気な特典映像も収録。泣き笑った後、もう一回笑うのにお使いください。


・一枚目本編(159分)

兵動大樹のおしゃべり大好き。In NGK ~やることいつもと一緒です~」

「公演当日の舞台裏映像「本番3時間10分前」」

副音声:後藤ひろひと(Piper)×兵動大樹スペシャルトーク

・二枚目本編(111分)

兵動大樹のゆかいな仲間たち】【すべらない話特集】【兵動パパ】

・特典映像(40分)

兵動大樹とゆかいな仲間たち ~おっさん5人のご陽気珍道中SP~」