菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「びしょ濡れレポーターおかもとまり~噛んだら濡れる、笑いと涙の凱旋帰郷~」(2011年4月27日)

僕はあまり社交的な人間ではないので、知らない人に対しても積極的に対話を試みる人を見かけると、尊敬の念に駆られてしまう。例えば、居酒屋で飲み会をしている最中に、他の席のまったく知らない人と当たり前に合流している人の姿などを見ると、もう思わず表彰したい気持ちになる。ああいった人たちは、どうしてあんなに簡単に人と人の間にあるハードルを乗り越えられるんだろう。生まれ持った才能なのか、育ってきた環境なのか。何にせよ、そんな彼らの姿を見て、僕は感心せずにはいられない。

同じような理由で、レポーターという仕事をこなしている人たちにも、少なからず敬愛の念を抱いている。恐らくは、テレビに映し出されるまでに何度か打ち合わせも重ねているのだろうけれど、それでも殆ど初対面の人たちと陽気に会話を繰り広げている彼らの姿には、憧れのような感情を抱かずにはいられない。なんとなく、スタジオでトークを繰り広げている人たちに対して、レポーターは下に見られているような気がするんだけれど(なんだか本部と支部の関係に見えるからだろうか)、実はとても大変な仕事だと思う。こういう書き方は小学生の作文みたいだけれど、僕にはとても出来そうにない。

本作は、ものまね芸人として活動しているおかもとまりが、“噛んだら水をぶっかけられる”という罰ゲーム付のレポーターを強要される企画DVDだ。聞いたところによると、本作がおかもとにとって初めてのバラエティDVDだという。過去、おかもとは単独名義によるDVDを二枚ほどリリースしているが、それはいずれもグラビアを中心としたプロモーション作品だった。芸人であることを公言しているおかもとにしてみれば、本作は待ちに待った企画だといえるのかもしれない。だが、 “噛んだら水をかけられる”という本作のコンセプトを見れば分かるように、この作品の本質は、はっきり言って古き良き時代に放送されていた深夜のお色気バラエティのそれである。おかもとのグラビアアイドルとしての一面が無ければ、間違いなく成立していない。

いざ本編を見ると、レポーターの仕事を引き受けるおかもと、レポート中に噛んで水をぶっかけられて呆然とするおかもと、セクシー衣装に着替えさせられて困惑するおかもと……と、予想していた通りの展開が。しかし、これが意外と面白い。変な仕事をやらされていることに違和感を覚えているとはいえ、スタッフの言うことにいちいち口答えするおかもとの姿は些か大人げなく、水をかけられても仕方がないような気分になってくるのだ。そのうち、どんどん水をかけていけばいいという気持ちになり、気付けば「ここは水をかけるところじゃないの?」と気持ちが先行してしまう始末。女性の若手芸人という立場が故か、テレビではあまり指摘されることがないおかもとのダメな部分が次々に批判されていく様は、申し訳ないが実に面白かった。

ところが、スタッフのおかもとイジりは、少しずつエスカレート化していく。最初はそれでもまだ笑えたのだが、だんだんとそのイジりの内容が悪質になるにつれて、こちらもだんだんと笑えなくなっていく。中盤からスタッフが声を荒げ始めたのには、ちょっと驚いた。イジる側がイジられる側を怒鳴りつけているところを見て、何処を笑えというのだろうか。なにやら若手タレントに対するスタッフのセクハラを見せつけられているかのようで、気付けばすっかり憂鬱な気持ちになっていた。

それでも、エンディングではそれなりのオチを見せてくれるのだろうと、どうにか踏ん張って最後まで見続けたのだが……そこにあったのは、こちらが予想していたレベルの最悪のオチだった。もはや人に薦めたくないレベルの作品なのでネタバレしてしまうが、この作品のオチは「スタッフがおかもとに冷たく当たっていたのは、彼女の母親からの手紙が理由だった」というモノ。つまり、おかもとに対するセクハラも恫喝も批判も全て、母親から届いた手紙にほだされたスタッフたちの彼女のことを考えての言動だった、ということだ。

……馬鹿じゃなかろうか?

僕は、フィクションだからと言って、こんなオチを堂々と見せられる作り手が理解できない。本編におけるおかもとイジリは、もはや限度を超えているとしか言いようがない場面が少なくない。着替えのためのロケバスに隠しカメラを仕込む、対抗役として別のレポーターを呼ぶ、温泉のレポートで胸を出せと声を荒げる……その光景はもはやイジリじゃなくてイジメの領域だ。その全ての責任を、母親からの手紙なんぞに押し付けてしまうなんて、言語道断である。「たかがフィクションじゃないか」と言う人もいるかもしれないが、むしろ「フィクションだから許されると思ってんの?」と言わせていただきたい。それはフィクションに対する侮辱以外の何物でもない。

それでも、それでもまだマシンガンズ参加の副音声に期待していたのだが、まさかの彼らまでスタッフ側に立ってしまう展開で、思わず唖然としてしまった。この作品に必要なのは、第三者による作品の姿勢自体に対する批判だったと思うのだが……流石にそこまでの技術を彼らに期待するのは間違いだったか。だが正直、この作品には『カンニング竹山単独ライブ 放送禁止3』の副音声ばりのフォローが必要だったと思う。

フラストレーションを溜めさせるだけ溜めさせておいて、それを昇華させるチャンスを堂々と無視し、不快極まりない世界観を完成させることだけに集中している本作。これまで、ただただつまらない作品は幾つも目にしてきたが、ここまで不快感を覚える作品は無かった。僕は以前、とある作品を人生史上ワースト作と評したことがあったが、本作でその記録は更新されてしまったと言っていいだろう。とっとと廃盤になってしまえ。


・本編(81分)
「本編レポート」「グルメレポート」「体験レポート」「温泉レポート」
・特典映像(10分)
本編メイキング
・副音声
おかもとまりマシンガンズによる全編副音声コメンタリー