菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

うしろシティ『街のコント屋さん』+さらば青春の光『なにわナンバー』

ますだおかだアメリカザリガニ安田大サーカス、まえだまえだ……松竹芸能に所属している芸人といえば、どうしても漫才師のことが真っ先に浮かんでくる。まあ、安田大サーカスやまえだまえだを漫才師として捉えることに疑問を覚える人もいるかもしれない。でも、彼らにコント職人としてのイメージがあるかというと、そんなことはないだろう。彼らがセンターマイクを囲み、素の喋りからコントへと突入していく様は、間違いなく漫才師のそれである。

では、松竹芸能コント師はどうかというと、これがどうもパッとしない。勿論、実力のある芸人がいないわけではない。シュールなコントの使い手として人気を博したよゐこや、その後継としてナンセンスコントに精を出しているチョップリンなど、独自の色合いを持ったコンビも少なくない。だが、彼らの芸風はどうもマニア受けしてしまっている傾向が見えて、先の漫才師たちに比べて陰日向の存在になってしまっている感がある(「キングオブコント」決勝の舞台に立っているTKOの様なコンビもいるが、その数を考慮すると、彼らはむしろ特例といってしまうべきだろう)。少なくともここ数年、松竹芸能では西高東低ならぬ漫才高コント低な状態が続いていた。

ところが、そんな状況に不安を感じ始めたのか、最近になって松竹芸能がコントにも力を入れるようになった。いや、力を入れるようになってきたというよりも、偶然にも力のあるコント師が出てきたというべきなのかもしれない。とにかく、これまで漫才師ばかりが注目され続けていた松竹芸能にコントの追い風が吹き始めたのである。

今回、そんな松竹に吹きすさぶ新しい二つの風が、DVDをリリースした。一枚はうしろシティ『街のコント屋さん』、もう一枚はさらば青春の光『なにわナンバー』。「キングオブコント2011」準決勝戦にも進出した彼らは、近い将来、松竹の中枢を担う存在になるのかもしれない。ならないのかもしれない。なったらいいなと思う。いや、きっとなるんじゃないかな(byさだまさし)。

 

うしろシティ『街のコント屋さん』(本編65分+特典10分)

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(2011/10/26)
うしろシティ

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うしろシティは新潟出身の金子学と神奈川出身の阿諏訪泰義によって、2009年に結成された。コンビとしての活動期間はまだまだ短いが、金子は“ナナイロ(あ・うん所属)”、阿諏訪は“ワンスター(人力舎所属)”というユニットで活動していた経緯があるので、芸歴はさほど短くない。

うしろシティのコントは、日常の中にふっと生じた複雑な状況に、二人が翻弄されてしまうスタイルのものが多い。例えば、「駅で道を尋ねた相手が近視で地図を見ることが出来ないので自分の眼鏡を貸すのだが、今度は自分が地図を見ることが出来ないので、仕方なしに眼鏡を交代で使うことに」というものや、「電車のホームで眠っている男から財布を取ろうとすると、相手が目覚めてしまったので、つい反射的に寝たふりをすると、相手もスリで自分の財布を抜き取ろうとするので、今度は起きたふりをして相手を撃退する」というものなど。その流れを説明すると実にややこしいが、これを彼らは舞台で実にスムーズに表現し、また上手く展開してみせる。

その中でも、個人的に衝撃を受けたのは『ローマ旅行』というコント。少し前に「オンバト+」でも披露されていたネタなので、知っている人も多いのではないだろうか。二泊三日のローマ旅行を計画していた二人の男のうち、一人がお金を溜めるのに失敗して旅行に行けなくなってしまう。ところが、その男が町内会の福引きでローマ旅行を引き当てる。「これで旅行に行ける!」とはしゃぐ二人。しかし、そのチケットを見てみると、“ローマ旅行五泊六日”を書かれていた。旅行の滞在日数でモメるという設定が独創的だが、しかし決して非日常的ではないところが実にたまらない。自分より三日も先にローマで過ごすことになった相手に「お前、その三日間でローマに慣れるじゃん!」と言い切ってしまう情けなさが、妙に共感を呼ぶのも素晴らしい。

その一方で、ちゃんと(ちゃんと、というのも変だけど)下らないコントも作れるから侮れない。喧嘩の待ち合わせ場所で捨て犬を見つけてしまった不良二人を描いた『タイマン』や、卒業とともに離れ離れになる親友への別れの言葉を忘れてしまう『卒業』などは、シンプルでとても下らない。ただ、まだまだ“うしろシティならではのスタイル”を、彼らは見つけられていない感もある。これからの進化が楽しみなコンビといえるだろう。

……余談だけど、うしろシティってコンビ名って、何気にカッコイイよね。夕暮れの都市を背景に佇む二人、みたいで。

さらば青春の光『なにわナンバー』(本編61分+特典10分)

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(2011/10/26)
さらば青春の光

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さらば青春の光は大阪出身の森田哲矢東口宜隆によって、2008年に結成された。こちらもコンビ歴は短いが、それぞれ別のコンビで活動していた経歴を持っている。ちなみに、コンビ名の由来となっているのは名作映画『さらば青春の光』で、名付け親はピーマンズスタンダード南川聡史アイヒマンスタンダードの方)だという。

さらば青春の光のコントもまた、うしろシティと同様に日常の中にふっと生じた状況をモチーフとしていることが多い。ただ、うしろシティが作り出す状況が決して日常世界から逸脱しないのに対し、彼らのコントは徹底して不条理へと落ちていく。「マジシャンになろうと思っている男がバイト仲間から借りた一万円を消失するマジックをするたびに、お金がどんどん消えていく」「御臨終を伝える医者が腕時計を失くしてしまい、遺族を無視し時計を探して回る」「部下を説教するたびに覚えたばかりの言葉をことごとく使い続ける上司」など、現実ではおよそ有り得ないシチュエーションのコントを、彼らは演じてみせている。

不条理な世界観のコントといえば、よゐこチョップリンなど、同じ事務所の先輩に当たる芸人たちが得意としていたスタイルだ。だが、さらば青春の光が演じる不条理さは、それら先輩芸人たちに比べると実にマイルドで口当たりがいい。その原因は恐らく、彼らのコントの根っこには観客が共感を得られる要素が組み込まれているからなのだろう。マジックの成功よりも目の前の銭が惜しい、患者の死亡よりも自分の時計が何処に行ったのかが引っ掛かる、覚えたばかりの言葉を嬉々として使いたがる……それら人間の欲望ともいえる感情が、彼らのコントには染みついている。だから観客は、その世界観に慄くことなく、笑うことが出来るのだろう。

個人的に面白かったのは、親友二人が大学入試の合格発表を見に行く『合格発表』。二人とも合格していることに浮かれ、思わずほっぺたをつねってみるのだが、片方だけが何故か「全然、痛くない……」。ネタの発想自体は決して物珍しくはないが、その後の展開がなかなかに素晴らしかった。これほどに「どういう状況やねん!」というツッコミの合うシチュエーションは他にない!

見た目にはちょっと地味だけれど、まったく違った個性を放っている二組。いつかきっと、「キングオブコント」決勝の舞台に立つことだろう。立たないいかもしれない。立ったらいいなと思う。いや、きっと立つんじゃないかな(byさだまさし)。