菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『清水ミチコのお楽しみ会 バッタもん』

Live! 清水ミチコのお楽しみ会 ”バッタもん” [DVD]Live! 清水ミチコのお楽しみ会 ”バッタもん” [DVD]
(2011/12/07)
清水ミチコ

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座右の銘は「隣人は芸の肥やし」。

1983年のデビュー以後、絶えることなく様々なバラエティ番組で活躍し続けるモノマネ芸人、清水ミチコ。そのクオリティの高さとバリエーションの広さから、“モノマネの女王”という呼び声も高い。しかし、その一方で、誰をターゲットとしているのか分からない危険度の高い笑いを追い求める傾向もあり、火傷することも少なくない。それでも、ツボにハマった時の当たりは大きいのだから、困りものである。まさにハイリスク・ハイリターン

そんな清水ミチコの魅力を詰め込んだDVDが、『清水ミチコのお楽しみ会 バッタもん』である。清水が自身のライブを収めたDVDをリリースするのはこれが二度目になるが、前作は正直言って物足りなかった。とにかく値段が高い割に収録時間は短く、副音声は中途半端にしか収録されておらず、尚且つ編集されている場面も非常に多い。鑑賞後には思わず、「果たしてこれを商品化する必然性はあったのか?」と疑問を覚えたほどである。……というのは、些か言い過ぎかもしれないが、これはそれだけ内容に期待を寄せていたということなんだと理解して頂きたい。そのような経緯があったため、本作もまた中途半端に宜しくない出来なのではないかと、鑑賞前には些かの不安に駆られもした。

ところが、そんなことはまったくの杞憂であった。まさに再生した瞬間、全ての不安は吹っ飛んでしまったのである。なにせ、本編を再生した直後、清水扮する北朝鮮のニュースキャスターがライブの諸注意を力強く語り上げ、続けて某有名青色ロボットを模したバッタもん兄弟(※モザイク)が勢揃いのオープニング映像が流れ、そしてすぐさまステージ上に某万博のテーマソングを歌いながら清水が登場するのだから、たまらない。初っ端からここまでブッ飛ばしているのに、この後の内容が中途半端な編集で片付けられるわけがないのだ。

そして事実、この後も清水の暴走は止まらない。観客のリクエストから某女優の歌唱力をテーマにした『MY BLACK EYES』を歌ったかと思うと、今度は某フォークシンガーの超名曲を替え歌で「声自慢~♪」とニヤニヤしながら歌ってみせる。かと思えば、某有名尼僧になりきってお布施をせがんでみたり、某有名外国人タレントになりきって外タレ講演会を行ったり、某イマジンアーティストになりきって「ケンカを売っているのではありません、むしろケンカを止めているのです」と言ってのけたり……これがまた、いちいち似ているからたまらない。それでいて、やはり根底には悪意が垣間見える。

モノマネ芸人がそのモノマネの中で見せる悪意は、あくまで表面のみを対象としていることが殆どだ。何故ならば、その程度の悪意であれば、観客が無邪気に笑うことが出来るからである。コロッケのモノマネを見れば、そのことがよく理解る。ロボットと化した五木ひろし、牛になった瀬川瑛子、ハエを追いかける堀内孝雄などなど……。どんなに不愉快に見えても、それらはモノマネ芸人の単なる悪ふざけとして捉えることが出来る。ところが、清水ミチコのモノマネは違う。清水は対象となっている芸能人の表面の部分を見据え、その裏側に秘めた悪意を妄想し、モノマネへと昇華するのである。それは時に、芸能人への鋭い批評となることもある。だから、清水のモノマネには、他のモノマネ芸人には見えないドス黒い悪意が感じられるのだろう。

本編は、一旦の終了の後に、松任谷由実っぽいオリジナルソング『青春のメディスン』を経て、矢野顕子のカバーソング『達者でナ』をカバーして終息を迎える。“達者でナ”“また逢おナ”という歌詞は、だだっ広い会場で行われた悪意にまみれた密室芸を最後まで共に体感した仲間たちに向けられているようだった。清水の悪意よ、永遠なれ。誰かに本気で怒られる、その日まで。……いや、その日が来たとしても。


・本編(約122分)

「開演前の諸注意」「オープニング」「登場曲」「リクエスト」「私のフォーク・メドレー」「機内にて」「目マン」「絵本朗読」「シャンソン子守唄」「BATTAMON講演会」「シャンソン子守唄」「ミチコの部屋(ゲスト:黒柳徹子)」「台湾へいらっしゃい」「ブス5段活用」「ほぼ半世紀メドレー」「Lover,Come Back To Me」「アンコール:YOKO OH,NO! INTERVIEW」「アンコール:青春のメディスン」「アンコール:達者でナ」

・特典映像(約28分)

「青春のメディスン(ヴィデオ・クリップ)」「青春のメディスン(カラオケ・ヴァージョン)」「ミチコの部屋未公開映像」「WOWOW放送番宣スポット」「機内にて追加映像(日本青年館)」