菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ジャルジャルのいじゃら』改メ

ジャルジャルのいじゃら [DVD]ジャルジャルのいじゃら [DVD]
(2012/01/01)
ジャルジャル

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2012年1月1日、年明け早々にリリースされたのが本作『ジャルジャルのいじゃら』だ。ジャルジャルがDVDをリリースするのは、ロンドンでの公演を収録した『ジャルジャル イン ロンドン』(2010年9月)以来、およそ一年と三ヶ月ぶり。若手のコント師たちの多くが、一年に一回は単独ライブをDVD化している現状を思うと、やや時間がかかっていると見るべきかもしれない。とはいえ、それで内容が良ければいいのだろうが、中には下手な鉄砲も……といわざるを得ない作品もあったりするので、むしろ、多少の時間をかけている作品の方が立派なのかもしれない。……誰とはいわないが。

本作には、2011年10月に行ったライブの模様が収められている。収録されているコントは、キングオブコント2010決勝で披露された『おばはん絡み』を含めた、全11本。収録を前提としたライブということもあってか、どのネタも実に面白い。以前のジャルジャルは、もっとシンプルで余計な要素を徹底的に削り落した、まるでアスリートの様なコントを演じていたが、今の彼らは、ちょっとずつ余計なモノを付け足して、以前よりもその世界観を膨らませているように見える。YouTubeで初めて目にした『しつこいひったくり』の衝撃から数年、ジャルジャルのコントは確実に進化を遂げているようだ。

それにしても、頭のどういうところを使えば、こんなコントが思い浮かぶのだろう。なにせ、一発目のコントから『屁の足音』である。なんだよ、『屁の足音』って。演目からまったく内容が想像できない。そして、実際に見てみると、本当にこれだけの内容だから、また驚く。秘密組織に所属する二人のアジトに謎の足音が近づいてくるのだが、その正体が屁……即ち、屁が発射されるまでに足音が聞こえてくるという、本当にそれだけなのである。冷静になると、屁で爆笑するなんて小学生男子じゃあるまいし……と思うのだが、それでも実際に目の当たりにすると、どうにも笑いが止まらない。緊張と緩和、ナンセンス、様々な要因がそこにあると思うのだが、そういった理屈を考えることを放棄させるバカバカしさ。なんだろうね、どうも。

これ以外のコントも、どうにもこうにも下らない。例えば、間も無く行われる文化祭でクラスの出し物をどうするのか決める会で、場を取り仕切ろうとする男が角刈りであるという理由だけで糾弾される『角刈りのくせにクラスのメインになろうとする奴』。いいじゃないか、別に角刈りでも。そう。別にいい。いいんだけれど、一度指摘されると、角刈りであることが気になってしょうがない。『新入社員説明会』も面白い。新入社員の前で、様々な社員の心得を教えていく二人の教育係が、それを覚えさせるべく何度も何度も同じことを繰り返していく。同じギャグを何度もやらされる『変なキャラ練習させられてる奴』を彷彿とさせるコントで、言葉のニュアンスがたまらなく可笑しい。

中でも、個人的に気に入ったのは『めっちゃふざける奴』。就職の最終面接に臨む学生(後藤)と、それを担当する面接官(福徳)のコントだ。事前に連絡を入れてから試験会場を訪れるなど、とにかく生真面目な印象を与える学生が、いざ面接が始まった途端、いきなり自らを(※ネタバレになるので省略するが、子供レベルの下ネタである)と名乗り出す……という破壊ぶりが、実にたまらない。更に恐ろしいのは、この後も同じ言葉を絶妙に変化して使い続けているところだ。小学生の下ネタレベルの言葉でも、センスや演出次第で、ここまで面白くすることが可能なのだということをまざまざと見せつけられてしまった。うーん、侮れない。

これらのコントに加え、特典映像には2011年7月に行ったロンドン公演の模様も収録している。前回のロンドン公演は単独でDVD化されていたが、今回はまさかの特典映像扱いに。事実、収録時間でいえば、本編よりもこちらの方が長い。……前作が余程売れなかったのだろうか。ところで、前作では「字幕を使用しなかった=言葉のニュアンスを用いたコントが演じられなかった」ことが一つのネックとなっていたが、今回は字幕を使用することで、多少の日本語はきちんと伝わるように配慮されている。そのため、コントのバリエーションも豊富になっていて、単独作品でも通用するクオリティになっている。それを特典映像にしているんだから、なんとも太っ腹だ。

収録されているコントの中には新作もあったが、それよりも目を見張ったのは旧作『椅子とりゲーム』の演出を大幅に変更していたことだ。ジャルジャルのコント『椅子とりゲーム』とは、椅子とりゲームに興じる二人が、そのルールを勘違いしているために、どんどん本来のルールから離れていく……という、無知の加速を描いた一本である。そして、以前の『椅子とりゲーム』も、今回の『椅子とりゲーム』も、同様のシステムを取っている。但し、以前の『椅子とりゲーム』では、二人が混乱していく様を会話を交えながら繰り広げていたのに対し、今回の公演からは二人の会話が完全に省かれて、BGMとパントマイムのみで演じられている。海外公演であるからこそ取られた策だったのかもしれないが、おかげで以前よりも、このコント本来の面白さが浮き彫りになっていた様に思う。

2010年のジャルジャルは、様々な出来事の影響で心ない視聴者からバッシングを受ける立場になっていた。その関係で、彼らのコントを「つまらない」と一刀両断する輩も少なくなかった。だが、ここではっきりといっておきたい。ジャルジャルは今、もっと真剣に注目すべきコント師の一組である。曇った眼で見ている場合じゃない。


・本編(日本公演/79分)

「屁の足音」「角刈りのくせにクラスのメインになろうとする奴」「放浪口笛師~第1話~」「めっちゃふざける奴」「新入社員説明会」「放浪口笛師~第6話~」「おばはん絡み」「屁我慢してる面接官」「男か女かわからん奴」「放浪口笛師~最終話~」「逆ー!!!」

・特典映像(ロンドン公演/91分)

「リストラ」「相撲」「消臭」「仕立て屋にて」「KUMO」「椅子とりゲーム ~なんかおかしい~」「鼻くそ」「ひったくり」「日本の商談」「大きな車」「写真撮影」「サイクル」

・副音声:後藤の新居で収録した副音声解説