菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『こんぺいとう』(ニッチェ)

こんぺいとう [DVD]こんぺいとう [DVD]
(2011/12/21)
ニッチェ

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島根県出身の江上敬子三重県出身近藤くみこによって結成された女性お笑いコンビ、ニッチェ。遠く離れた場所で生まれ育った二人は、映画スタッフを多く輩出する日本映画学校で出会った。当時、二人はともに女優を志していたのだが、同校の講師に「女優は無理だ。お笑いに行け」と忠告され、2005年にコンビを結成し、芸人としての活動を開始する。講師の言葉は正しかったようで、二人はコンビ結成四年目で若手芸人出演のお笑い番組のレギュラーとなる。後に番組は終了するが、その後も芸人として着実に成長を遂げ、2011年には「お笑いハーベスト大賞」「NHK新人演芸大賞」をダブル受賞。今、最も注目すべき女性コンビとして、評価されつつある。勢いあるね。

ニッチェの二人が「お笑いハーベスト大賞」「NHK新人演芸大賞」を受賞したネタは、いずれも同じコント『子役オーディション』だ。その内容は、近藤扮する子役志望者が初めてのオーディションに緊張していると、江上扮する芸歴五年目の子役がやってきて先輩風を吹かし始める……という、設定自体はごくありきたりなもの。中身に関しても、こういうコントではありがちな「高い目標を自慢する」「演技の凄さを見せつける」「本番に弱い」などの、実にオーソドックスな展開を見せている。だが、江上が演じる子役のアクの強さが、その盤石の設定・展開に大きなうねりを生み出す。この“うねり”によって、『子役オーディション』は単なるオーソドックスなシチュエーションコントの域を脱し、一味違った濃厚な世界へと変貌を遂げる。

『子役オーディション』の最大の見どころは、なんといっても先輩子役が尊敬している役者としてカツシン(勝新太郎)の名前を挙げる序盤のくだりである。決して否定するわけではないが、子役が目指すには高すぎる、それでいて渋すぎる目標だ。そのギャップだけでも面白いのに、更に彼女はカツシンの演技(恐らくは『座頭市』を意識)をしてみせる。これがまた、絶妙に上手い。カツシンのことをちょっと知っている程度の人間が見ても、それがカツシンであるとすぐさま理解できるだろう。

ニッチェによる初めての単独DVD『こんぺいとう』には、『子役オーディション』を含む12本のネタが収録されている。そのうち8本がコントなのだが、やはり『子役オーディション』が抜群に面白い。これ以外のコントもかなり高い水準にはあるのだが、ややキャラクターの個性に頼っているきらいがある。カツシンレベルの“うねり”は、そう簡単に見せてはくれないようだ。ただ、江上のおばちゃんキャラ全開の『社員食堂のおばちゃん』は、一見の価値あり。完成されたキャラクターもさることながら、生々しい品のなさがなんともたまらない。「丁度いいじゃないか。あんた、男も日替わりだもんなあ……」。

残りの4本には漫才が収録されている。ニッチェといえばコントのイメージが強いが、実は漫才もなかなかイケる。ここでの江上は素の状態だが、言動はコントのそれと同様に濃厚だ。中でも、泣いている女友達をなぐさめるのが苦手だという江上が、近藤を相手になぐさめる練習をする『女友達のなぐさめ方』は、人間の表面的な付き合いの面倒臭さを浮き彫りにしたメッセージ性の強い漫才である。……いや、メッセージはないかもしれないが、ズバズバと本音を口にする姿は実にロックンロールであった。「話聞いてやってんのに、なんで飯奢んないといけないんだよ!」。その江上もまた、打算的な理由で女友達と繋がっていようとしているところが、また生々しい。どんなに否定しても、彼女もまた性という枠組みに捉われているのである……って、だからそういうネタじゃないってば。

高いポテンシャルを持ったコンビ、ニッチェ。しかし、既にテレビバラエティでは、多種多様の個性溢れる女性芸人たちがそれぞれの住処を定めている。彼女たちも、いずれそこに飛び込まなくてはならない。漫才やコントが出来たとしても、その能力がバラエティでも活かされるとは限らない。果たして、彼女たちはどの様に注目され、世に出ていき、どのような場所に落ち着くのか。勝手ながら、気になる次第である。


・本編(61分)

「子役オーディション」「社員食堂のおばちゃん」「ガールズトーク」「ヤンキーのひみつ」「女友達のなぐさめ方」「面接」「島根」「カリスマ美容師」「逆ナン」「保育園の先生になりたい」「海女と真珠」「お母さんの告白」

・特典映像(3分)

「ニッチェとサマーデート ~ケイコとクミコどっちが好きなの?~」