菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

カナリアLIVE『金糸雀』

カナリアLIVE『金糸雀』 [DVD]カナリアLIVE『金糸雀』 [DVD]
(2012/02/15)
カナリア

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カナリアの漫才やコントを収録したDVD『金糸雀』が、先日リリースされた。彼らが単独名義でDVDをリリースするのは、2010年1月に発表した『ヒッシノパッチ』以来、およそ二年ぶり。『ヒッシノパッチ』は漫才ライブとコントライブからベストネタを選抜して収録するという触れ込みでリリースされたが、本作『金糸雀』はベストネタライブを収録しているという。ベストの次もベストって、よもやこの次もベストではあるまいな。そして最終的に、三枚のベストを集結したスーパーベストをリリースしていたり……って、どっかの大御所ミュージシャンじゃないんだから。

カナリアは東京吉本に所属するお笑いコンビだ。“ババリア”というコンビで活動していたボン溝黒と、“シュガーライフ”というコンビで活動していた安達健太郎によって、2003年に結成された。彼らはともにNSC大阪校出身で、プロの芸人になってからも大阪を拠点に活動していたのだが、カナリアの結成と同時に上京。現在も、東京を中心に活動を続けている。“最後のM-1”こと「M-1グランプリ2010」の決勝戦に進出したコンビの一組としても知られているが、トップバッターという順番の悪さもあってか、九組中最下位という厳しい結果が印象に残っている。翌年の2011年に開催された「THE MANZAI 2011」にも出場したが、認定漫才師には選ばれていない。そんな彼らの現状を思うと、とてもベストネタDVDをリリースしている場合ではないような気もするのだが……って、余計なお世話もいいところだけど。

本編を再生してみると、暗い部屋の中で格好つけている二人の姿を映したオープニングVTRが始まる。いきなりの余談で失礼するが、単独ライブのオープニング映像って、どうして皆格好つけたがるのだろう。これから格好悪いことをするから、最初くらいはちょっと格好つけておこうかな……ということなんだろうか。しかし、ネタをやっている姿も、見方によっては格好いいともいえなくもないように思うのだが……と、呑気な事を考えながら、ぼんやりと映像を眺めていると、一瞬だけ野性爆弾・川島の姿が映し出されて、びっくりする。多くの人が油断しているだろう場面で、さりげなく仕掛けてくるとは……実に気が抜けない。思わず兜の緒を締めたりして。被ってないけど。

オープニングVTRが終わると、いよいよライブの幕開けだ。カナリアの漫才とコントが、交互に流れていく。漫才はいずれも安定して面白い。安達が道端で出会った訳の分からんおっさんのことを説明しようと、意味の分からない単語を使い始める本末転倒な『訳の分からんおっさん』、最近の子どもは洋式便所に慣れて和式便所の使い方を知らないらしいから、ここでイチから説明してみよう!と安達が張り切り始める『正しい和式便所での用の足し方』、結婚式で最も歌われている楽曲「土下座のマリオネット」って何?『ウェディングソング』など、何度か目にしたことのあるネタも含めて、実にきちんと面白かった。中でも、多くの人が正しい形を理解しているものの、それなりにボケる余白もある『正しい和式便所での用の足し方』は、なかなか良い切り口だったのではないかと思う。

一方のコントはというと、ダスティン・ホフマンの映画の様に花嫁を奪還しようとした男が、とんでもないミスを犯してしまう『卒業』、虚無僧の虚無僧による虚無僧のためのCSバラエティ番組『CS5630ch』、水泳部のエースがとある事情により大会への出場を停止されてしまう『青空』など、シチュエーションに凝ったネタが多く見受けられる。こちらも非常に安定感があって、どのネタも楽しく観ることができた。中でも、印象に残っているのは、読み上げていく内容に対して「いや知らん!」とツッコミを入れながらカルタ取りを行う『いやしらんかるた』。コントというよりは、いつもここからを彷彿とさせるようないわゆる一言ネタで、こういう演出もあるのかと感心させられた。あと、安達のツッコミは、ちょっと千原ジュニアからの影響を感じた。好きなのか。

本編を再生し始めてから一時間超が経過したところで、ベストネタライブは終了。ここからは、トークライブ「カナリアのおもしろい話をする会」に移る。本作の最大の特徴ともいえるのが、この“前半にネタ・後半にエピソードトーク”という特殊な構成だ。他にも同様の構成をとっているライブDVDは存在しているのかもしれないが、少なくとも僕は本作で初めて目にした。演出も面白い。舞台に二つの高座が設けられ、二人はそれぞれの座布団に座る。彼らの脇にはトークのタイトルが書かれた垂れ幕が配置され、それを元に、二人がそれぞれ持っているエピソードトーク(要は「すべらない話」)を展開する。ネタの後にフリートークを展開するという流れは、例えば地方での営業ライブなどではよく見かける光景だが、コンビの片割れが持っているトークを相方を介入せずに展開していくという演出はかなり珍しい。面白い試みだと思う。

肝心のトークも、なかなか面白い。安達が山手線の中で見かけた不憫なおばあちゃんの思わぬ言動を報告したかと思えば、ボン溝黒キングオブコントのエントリー用紙を巡る先輩たちの攻防を暴露する。安達が道端で千原ジュニアを見かけた話が出てくると、榮倉奈々ボン溝黒のことを好きだという噂が赤裸々に飛び出してくる。この他、営業の話、マネージャーの話、プライベートの話など……積もり積もった“すべらない話”がてんこ盛り。二人で共にトークを展開するのではなく、各自が持参したエピソードトークを展開しているので、コンビとしてではなく芸人個人としての良さが浮き上がってくるのがとても良い。この演出、かなり冴えていると思う。この上、更に特典映像として、野性爆弾・川島とライセンス・藤原の二人がカナリアライブを解説するという、衝撃的なVTRも収録されている。この二人が並んでトークしているところなんて、僕は初めて観たよ!

お笑いのDVDとして、一つの完成された形といっても過言ではない本作。カナリアのファンならば絶対に確保しておくべきだが、お笑いファンも一度は観ておくべき作品なのではないかと思う。とにかく構成の妙。漫才とコント、そして“すべらない話”……うーん、しつこいようで悪いけれども……素晴らしい。


・本編(129分)

【漫才】「訳の分からんおっさん」「正しい和式便所での用の足し方」「母の日本昔話」「あの日、僕の大きすぎる期待に耐え切れず声にならない声で叫んだんだ」「ウェディングソング」

【コント】「卒業」「CS5630ch」「いやしらんかるた」「世界の歌姫」「青空」

カナリアのおもしろい話をする会】エピソードトーク全23本

・特典映像(37分)

野性爆弾・川島&ライセンス・藤原がカナリアLIVEを解説!?」