菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バカリズム案4』

バカリズムライブ番外編「バカリズム案4」 [DVD]バカリズムライブ番外編「バカリズム案4」 [DVD]
(2011/12/21)
バカリズム

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シュールな笑いを生み出し続けているピン芸人バカリズムが2011年5月に行ったライブ「バカリズムライブ特別編「バカリズム案」」の模様を収録したDVDが、同年12月にリリースされた。“バカリズムが思いついた案をひたすら発表していく”ことをコンセプトとしたライブ「バカリズム案」がDVD化されるのは、本作で四回目。ちなみに、ピン芸人になったバカリズムが単独ライブの模様をDVD化するのは、これで十二回目。年に二回のペースで単独ライブを行う芸人も少なくないが、テレビに出演する機会も増えてきたバカリズムがこれだけの回数をこなしてきたということに、驚きを隠せない。あまり安易に使いたくない言い回しではあるが、まさに“天才”的所業である。ギアをトップに入れっぱなし。

冒頭にも書いた様に、バカリズムのネタといえばシュールというイメージが強い。あるシチュエーションを唐突に終わらせてしまう紙芝居『トツギーノ』を初めとして、何の理由もなく日本史の授業をイニシャルトーク風に進行する『NHSNJG(イニシャル授業)』、卒業式に教師が別に言葉にする必要のないような話を生徒たちに捧げる『贈るほどでもない言葉』、様々な都道府県の持ち方を教える『1年D組 地理バカ先生』など、他に類を見ない独特の発想を活かしたコントの数々は、どれもこれも強く記憶に残っている。そのスタンスは「バカリズム案」においても同様で、過去には「投げたら戻ってきそうなひらがなランキング」「小銭を拾いにくそうな漢字ランキング」などの奇妙な案が発表されてきた。

しかし、本作において、バカリズムはそれらのシュールな側面を控えめにしている。その代わりに、彼が存分に引き出しているのは、キレ芸人としての側面だ。「人志松本のゆるせない話」「ゴッドタン」などの番組で見たことのある人もいるだろうが、そのシュールな芸風に対して、バカリズムはほんのちょっとしたことに対しても、すぐさま腹を立ててしまうところがある。本作では、そういったバカリズムのキレ芸人ぶりが炸裂している。ただ、キレ芸人といっても、安直に怒鳴り散らしているわけではない。それらの案の中に、たっぷりと悪意を染み込ませているのである。

『番組に関する案』において、バカリズムは「これからのテロップ」について言及している。例えば、テレビバラエティでぞんざいに扱われた食べ物について、“*このあとスタッフがおいしくいただきました”というテロップが流れることがあるが、こういった念のために入っているテロップはこれからどんどん増えていくのではないかとバカリズムは考える。そんな、これから必要になるであろう新しいテロップを発表していこう、というわけだ。最初に提示されたのは、夫婦と思われる男女が食事をしているドラマのワンシーン。ここには、こんなテロップが入る。

*この2人は実際の夫婦ではありません。

余計なお世話もいいところだ。この時点では、まだバカリズムの悪意は発揮されていない。むしろ、いわなくてもいいことをわざわざ言葉にしているという意味で、『贈るほどでもない言葉』を彷彿とさせる。しかし、次々とテロップが繰り出されていくごとに、少しずつバカリズムの悪意が見えてくる。若手芸人と思われる男性が、ハリセンを使って年配の芸能人を叩いているバラエティ番組のワンシーンには、こんなテロップが。

*○○は事前に楽屋に挨拶に行っています。

バカリズム「大丈夫ですよ!同意の元ですから!こんなことで、あの人は干されたりしませんよーっていうことをね、ちゃんと教えて、視聴者を安心させますね」

何かを含んでいるようにしか見えない。

この後も、バカリズムの悪意はダダ漏れ続ける。『行事に関する案』では、成人式で暴れる若者たちのスケジュールを想像し、暴れるに至るまでの細かい計画を暴露してみせる。彼らの最も見られたくない部分を白日の下に晒してしまう、バカリズムのサディストぶりが如何なく発揮された案だ。また、『星座に関する案』では、星の配列に対して、あまりにも強引に描かれているイラストに対して、バカリズムが一石を投じている。その配列に合わせて、(ナンセンスな笑いにはなっているが)ちゃんとした代案のイラストを提示しているところにも、悪意を感じずにはいられない。

そんなバカリズムの怒りが頂点に達するのが、『時間に関する案』における「人生のタイムロス」である。過去の「バカリズム案」でも、彼は人生における無駄な時間に対して怒りを訴えていたが、今回はその比ではない。喫茶店でコーヒーを頼んだ時にアイスかホットかを聞かれる時間、からあげにレモンを絞っていいかどうかを尋ねる時間などに対して、少しずつ怒りを噴出していたバカリズムが、最後の最後に提示した人生のタイムロスで、これまでに見せたどんな怒りよりも大きな激怒を爆発させるのである。その、人生のタイムロスとは……これについては、実際に目にしていただきたい。本編69分の時間は、決して貴方の人生のタイムロスにはならない……筈だ。


・本編(69分)

「自分に関する案」「番組に関する案」「行事に関する案」「音楽に関する案」「想像に関する案」「星座に関する案」「時間に関する案」

・特典映像(25分)

「没案」「雑案」