菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ロッチ単独ライブ『ストロッチベリー』

ロッチ単独ライブ「ストロッチベリー」 [DVD]ロッチ単独ライブ「ストロッチベリー」 [DVD]
(2012/02/22)
ロッチ

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ワタナベエンターテインメントに所属するお笑いコンビ、ロッチが2011年11月に行った単独ライブ『ストロッチベリー』の模様を収録。ライブが開催された当時、お笑い評論家として名高いラリー遠田氏が“集大成”“最高傑作”などと評価していたので、これはさぞ面白いことになっているのだろうなと期待に胸を膨らませながら鑑賞したのだが……なんとも評価し辛い内容だった。いや、確かに面白かった。笑えるという意味では、ひょっとしたら史上最高といえるかもしれないクオリティではあった。ただ、これを最高傑作と絶賛することに対して、僕は違和感を覚えずにはいられない。それは少し、ロッチというコンビを見くびってはいないか。どうも氏は、この時点で最高傑作と称賛するということの重大性を、イマイチ理解していないように思う。……って、これは別にラリー氏を批判するための文章ではない。『ストロッチベリー』の話をしよう。

以前にも何度か触れてきたが、ロッチというコンビの個性は“哀愁”にある。例えば、釣り人として先輩風を吹かそうとした男が説明することと実際に起こることが全て裏目に出てしまうことで生じる、ほのかな哀しみ。催眠術の師匠が弟子に「そう簡単に催眠術なんてかけられない」といった傍から弟子が仕掛けた催眠術にかかりそうになってしまうことで生じる、ほのかな哀しみ。第三者にしてみれば間抜けも間抜け、だけどもよく考えてみるとそんな間抜けな部分が自分の中にも確かに存在している。だからこそ感じられる、ほのかな哀しみ。これこそがロッチの個性である。しかし、今回のライブでは、そんなロッチの愛すべき哀しみが控えめになっていたように思う。

『Xphone5』というコントがある。Xphone5を手に入れるために発売の何日も前から店の前で待ち続けていた男(中岡)が、うっかり眠りこけてしまって購入しそびれてしまうという状況で始まるコントだ。始まった早々、既に哀愁が漂っている。人の業がマイルドに沁み込んだ、いい哀愁だ。そのうち、少しずつ真実が明らかになっていく。当日の朝までは起きていたこと、男の後ろに並んでいた人から貰ったビールを飲んで寝てしまったこと、そして自分が持っているXphone4が割れていること……。そこには確かに哀愁がある。あるのだが……その哀愁を引き出すために、中岡を悲惨な状況へと追い込んでいく様が露骨過ぎるように思う。特に、Xphone4が割れていることが発覚して以降の展開は、なかなかに悲惨だ。勿論、これはこれで笑える。笑えるが、そのためにロッチがこれまで作り上げてきた笑いの世界が、おざなりにされているように思えて仕方がない。今回のライブでは、この他にも『サプライズパーティー』『プラマイゼロ』などで、彼らの哀愁を取り入れた笑いを演じていたが、どちらも演出が過剰に見えた。これを果たして、進化したといってしまっていいのだろうか?

そういう意味では、今回はロッチらしさを追求していないコントの方が面白かったといえるかもしれない。中でも、三年ぶりに刑務所から出てきた兄貴を、舎弟がよりにもよって自転車で迎えに行ってしまった『おつとめご苦労さまです』は、シチュエーションのあまりのバカバカしさに笑いが止まらなかった。足がつかずにバランスを取るため、兄貴の肩をギュッと握り続けるダメっぷり……たまらんね。あと、コカドがボケ(?)に転じる『タイトルマッチ』も、後に何も残さないという意味では実に面白かった。思いつきのみで展開する小細工なしのコントは、本当に何も残らない。いい意味で。

笑いを追求するために、更なる展開を見出そうという姿勢は決して悪くないんだけれど、もうちょっと自分たちならではの良さを意識してもらいたかったなあ、というのが正直な感想。いや、意識した上で、こういうコントに辿り着いたのかもしれないけれど……なんかちょっと、作家の匂いがしたんだよねえ……。それ自体はダメじゃないけれど、それで本質がボヤけてしまうのは宜しくない。ひとつ、慎重にお願いしますよ。ホント。


・本編(74分)

「いちご亭ジャム丸」「Xphone5」「おつとめご苦労さまです」「八雲源五郎」「タイトルマッチ」「目撃者ムラサワ」「サプライズパーティー」「ご本人さんが…」「プラマイゼロ」

・特典映像(17分)

「ロッチ知名度調査」「中岡presents コカドくんにカニのむき方教えたるで!!」「コカドのこだわり1」「コカドのこだわり2」「ストロッチベリーグッズ紹介」「「ムラサワ」本人登場」

・音声特典

「ロッチによる全編副音声コメンタリー」