菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

第十三回 東京03単独公演『図星中の図星』

第13回東京03単独公演「図星中の図星」 [DVD]第13回東京03単独公演「図星中の図星」 [DVD]
(2012/06/20)
東京03

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本能のままに生きられる動物とは違い、理性を持つ人間はいつだって素直に生きることが出来ない。それがどんなに本音であったとしても、やはりそこには「人に見られる」ことを意識した内容となってしまうからだ。そういう意味では、ありとあらゆる人間には、詐欺師になる才能があるといえるのかもしれない。しかし一方で、世の中にはその本音を巧みに見つけ出す能力に長けている人間も存在する。彼らは時に、その隠された本音を暴き、白日の元に曝け出す。だが必ずしも、本音を明らかにすることが正しい行為であるとは限らない。そう、図星の図星を突くことが、必ずしも正しいとは限らないのである。それでも人は、図星を突き続ける。突かれることの憂鬱を経験していながら……。

飯塚・豊本・角田の三人で構成されているお笑いトリオ、東京03。彼らのコントは常に人間の本質を突いてくる。なんとなく見過ごされているコミュニケーションの歪み、なんとなく忘れてしまっている人間が持つ気質の曖昧さ。それらの本質を、彼らはコントの設定にして笑いへと昇華していく。特に近年はその傾向が強くなっており、と同時に、コント師としての評価も格段に向上。その人気は全国ツアーを開催するほどのものになっている。そんな彼らが2011年に開催した単独公演が『図星中の図星』だ。

『図星中の図星』においても、東京03はこれまでと同様のスタンスを崩さない。合コンへの誘いに乗りたいんだけれど、すぐさま乗るのは格好悪いので、どうにか体裁を繕おうとする二人の姿を描いた『一人足りない』。ちょっとした夕食会で行われる軽めの説教に、第三者たる同僚がフォローを入れようとするのだが、その下手さが故にどんどん説教が盛り上がっていく『フォロー』。息子のためにどうにか手に入れたラジコンが壊れるも、そこに思わぬ才能を隠し持っていた男が登場し……『救世主』。酒の席で意気投合した友人の友人ともう一度会ってみると、なんだかよそよそしくて、あの日のように楽しめない『友人の友人』。どれもこれも、他者とコミュニケーションを図る上で、起こり得るシチュエーションばかりだ。それでいて、シチュエーションだけに頼らないところが、実に素晴らしい。中でも、飯塚のツッコミ師としての腕は流石。ボケを一言でズバッと処理する様は、まさに職人芸だ。これがテレビバラエティでも活かせられれば……。

しかし一方で、これまで以上にちゃんとした結論に導けていないコントも多かったように思う。シチュエーションに重きを置き過ぎて、その状況の置きどころを見据えていない……とでもいうのだろうか。例えば『フォロー』は、フォローする人間のフォロー下手が故に、フォローされる人間が窮地に追い込まれるところに端を発するコントだが、冷静に考えてみると、フォローする人間もフォローされる人間も、またフォローされる人間を叱っている上司も、誰も悪くは無いためか、なんとも曖昧な終わり方をしている。まあ、それまでの経緯がとてつもなく面白いので、さほど気にするほどのことでもないのだが。彼らでも、最後まできちんと処理できないシチュエーションもあるのだと、改めて人間の複雑さを考えさせられる次第である。

なお、特典映像には、「おぎやはぎ」「浜野謙太」「Gentle Forest Jazz Band」をゲストに迎えた“悪ふざけ”、『脇役達の大冒険』が収録されている。本公演とはまったく違った色合いの、まさに“悪ふざけ”と呼ぶに相応しい豪華なコントショーが展開されているので、是非とも確認してもらいたい。……いよいよ、東京03シティボーイズの後継者らしくなってきたな。


・本編(116分)

「一人足りない」「フォロー」「山の上の別荘」「救世主」「友人の友人」「誰?」「ラブホテルの攻防」

・特典映像(57分)

「図星中の図星」特別公演:「脇役達の大冒険」「千秋楽 舞台挨拶」

・音声特典

東京03による副音声解説