菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

THE GEESE『Poetry Vacation』

THE GEESE Poetry Vacation [DVD]THE GEESE Poetry Vacation [DVD]
(2012/07/24)
THE GEESE(ザ・ギース)、ザ・ギース 他

商品詳細を見る

日本一のコントを決定する「キングオブコント」が今年も開催されている。先日も準々決勝戦が行われた。これを勝ち上がると、準決勝戦に進出することが出来る。「キングオブコント」における準決勝戦進出は、他の大会におけるそれよりも重大である。何故ならば、「キングオブコント」の準決勝戦に進出することが出来れば、決勝戦の審査員としてゴールデンタイムの特番に出演できるからだ。コント師としては参加できなかったとしても、ガヤ芸人の一組として活躍できる場が与えられるわけである。それどころか、司会のダウンタウンに注目されるかもしれない。あまつさえ、自身がメインを務める番組に、ゲストとして呼んでもらえるかもしれない。そこには、無名の若手芸人には滅多に訪れることのないチャンスが転がっているのである。準々決勝戦の終了後、そんな小さなチャンスを掴み取った67組の若手芸人の名前が公開された。見ると、有名どころから無名どころまで、実に様々な芸人たちの名前が掲載されている。……しかし、そこにTHE GEESEの名前は無かった。

THE GEESEは「キングオブコント2008」ファイナリストの一組である。惜しくも最終決戦には進出できなかったものの、それ以降、準決勝戦までは着実に勝ち残り続けていた。シティボーイズから多分に影響を受けた彼らのナンセンスなコント観は高く評価されており、“日本一厳しいバラエティ番組”という触れ込みで知られる「オンバト+」においても、彼らのコントは安定した人気を誇っている。だからこそ、今年も当然のように準決勝戦へ進出するだろう、と思っていた。だからこそ、彼らが準々決勝戦で敗退してしまったことを知って、大いに驚いた。一体、彼らに何が起きたというのか。或いは、何が起きなかったというのか。その敗退の理由は、準々決勝戦を見てもいなければ、準々決勝戦の審査員として参加してもいなかった私には、さっぱり分からない。が、あらゆる結果には理由があるように、彼らの準々決勝戦敗退にはなにかしらかの理由があるのだろう。

THE GEESEの「キングオブコント2012」準々決勝戦敗退が発表されるおよそ4ヶ月前に、彼らは2年ぶりの単独ライブを開催していた。ライブタイトルは『Poetry Vacation』。Poetryは“詩”、Vacationは“休暇”という意味だ。詩と休暇……なにやらシャレたタイトルである。が、シャレているのはタイトルだけではない。内容もなかなかシャレている。休暇を楽しんでいる男の元にスーツ姿の男が現れる……という海外映画のワンシーンを思わせるオープニングコント『Poetry Vacation』もさることながら、ラグビーの試合後に頭の中のあらゆる単語がゴチャゴチャになってしまった男の支離滅裂さが魅力の『記憶ノーサイド』、他ではなかなか見られないTHE GEESEのギャグが楽しめる『危険なオペ』、先輩の家に招かれた後輩が家の素晴らしさに圧倒されて思わぬ行動に出る『新居』など、ナンセンスな発想をシャレた演出で味付けしたコントの目白押しだ。後に、このライブの模様を収めたDVDを鑑賞したが、実に完成度の高い公演だった。また、これは殆ど余談のようなものだが……映像の編集も素晴らしかった。ライブ特有の雑味を含んだ空気感を、映像の中で見事に再現している。本編の鑑賞後はTHE GEESEのライブに行ってみたいと思わざるを得ない、実に魅力的な作品だ。

ところで、この『Poetry Vacation』には、「キングオブコント2012」準々決勝戦で彼らが披露したというコントも収録されている。そのコントとは、『ビジネスの基本にまつわる話』である。「オンバト+」などの番組でもかけられていたネタなので、ご存知の方も多いのではないかと思う。

舞台は喫茶店。人を待っているエノキダ(高佐)の元に、その打ち合わせ相手であるクワバラ(尾関)がやってくる。しかし、このクワバラという男の言動がどうもおかしい。なんと、喫茶店に入った途端、ウェイトレスが言うべきだろうことを全て自分から先に言ってしまったのである。直後、二人が対面した際も、クワバラはエノキダが言おうとしただろうことのみならず思っていただろうことまでも全て先に言ってしまう。たまらず、エノキダは尋ねる。

エノキダ「えー…っと。クワバラさんは先程から一人で何を仰ってるんですか?」

クワバラ「(被せるように)仰ってるんですか、ということですよね? そういうことなんですよね? はいはい、分かります分かります」

エノキダ「なんなんですか、だから」

クワバラ「あのー、私どもの会社ですね、お客様の気持ちになって考えるというのをモットーにしておりまして。私、お客様の気持ちを考えるあまり、こうやって相手の気持ちを声に出してしまうと、こういうわけなんですねえ」

エノキダ「……」

クワバラ「(声色を変えて)「なるほどぉー、よくわかりましたぁー」」

エノキダ「いや、全然! 全然!」

一見すると、これはただナンセンスなだけのコントに見える。しかし、その背景に「お客様の気持ちになって考える」という意識があることを考慮すると、なかなかに興味深いネタだ。ビジネスに限らず、相手の気持ちを一方的に理解したつもりになって、相手に対して不適切な対応を取ってしまう人に出くわす機会は少なくない。このコントでも、クワバラはたびたびエノキダが求めていない対応を決め付けて、エノキダを困惑させている。その不適切さに腹を立てたとしても、「あなたのことを思って……」とでも言われてしまえばグウの音も出ない。このコントは、いわばそんな押しつけがましい親切心をとてつもなく極端に描くことで、笑いへと昇華しているのである。その意味では、なかなか絶妙なところを突いているコントだといえるだろう。

ただ、この『ビジネスの基本にまつわる話』がTHE GEESEというコンビの特性を最大限に活かしているコントかというと、些かの疑問が残る。確かに、丁寧なツッコミの高佐と傍若無人なボケの尾関の組み合わせは、適材適所の役割だ。だが、THE GEESEのコントといえば、非日常の日常を描いたネタというイメージが強い。例えば、本作の特典映像に収録されている『タクシー』がそれだ。全ての会話を否定形で表現しているにも関わらず、それ自体には一切触れることなく、ただ淡々と進行していく。こういう非日常の日常を描いたコントこそ、THE GEESEのスタイルではなかったのか。無論、新しいスタイルに鞍替えすることを否定するつもりはないし、まして、全てのコントがそのスタイルであるべきだとも思わない。だが、ここぞという場面で、あえて“ならではの武器”を用いずに持ってきたネタとしては、『ビジネスの基本にまつわる話』は些か弱かったように思う。そして、その選択ミスこそが準々決勝戦敗退の理由ではあるまいか……と、完全な憶測で考えてみたが、これこそが押しつけがましい話である。


・本編(76分)

「Poetry Vacation(オープニング)」「記憶ノーサイド」「自刃」「ビジネスの基本にまつわる話」「危険なオペ」「代々木アニメーション英会話学校」「うた歌い」「お名前だけでも」「新居」「ウソ発見器」「Poetry Vacation(エンディング)」

・特典映像(14分)

「ヒーローインタビュー(2006年11月収録)」「タクシー(2007年3月収録)」