菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ブスをもってブスを制す』(チキチキジョニー)

ブスをもってブスを制す [DVD]ブスをもってブスを制す [DVD]
(2012/07/25)
チキチキジョニー

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日本一の漫才を決する漫才大会THE MANZAI 2011」唯一の女性ファイナリスト、チキチキジョニーによる初めての漫才ネタDVD。チキチキジョニーといえば、ただでさえこってりとした大阪のおばちゃんを更に煮詰めて伸ばして縮めたような顔をした石原と、美人かブスか以前に性別を判断するのも難しい特異な顔をした岩見、両名の強烈なビジュアルが印象的だ。彼女たち自身も、それを自らの武器にしている。なにせ、本作のタイトルも『ブスをもってブスを制す』である。こんなタイトル、並大抵のビジュアルをしている人間には付けられない。ただ、その武器が全面にアピールされすぎているが故に、彼女たちの漫才師としての実力があまり評価されていないのではないか、と思うところもある。

THE MANZAI 2011」決勝のステージで彼女たちが披露した漫才を覚えているだろうか。岩見がもしも生まれ変われるのであればなってみたい女性芸能人の名前を列挙し、石原がそれをことごとく否定していく、あのネタのことを。実在する女性芸能人たちのマイナス面を次から次へと否定していく姿は、現代に蘇ったナンシー関か、はたまたネット掲示板を暗躍する名も無き批評家か。コンビ名と本名を明かした上で公言しているとは思えない、内角ギリギリの球を次から次へとストライクにしてしまう様子はハクリョク満点の一言であった。同大会終了後、ナイツが「ノリピーーーー!!!」と絶叫した漫才が話題になっていたが、毒の濃度という意味では、チキチキジョニーの方が遥かに上を行っていた。ただ、この漫才の影響もあって、彼女たちは漫才師としての実力よりもビジュアルが注目を集めることになってしまったように思う。この漫才がそもそも、「ブスが世間で美人とされている女性芸能人たちを上から目線で批判する」という前提によって成立しているからだ。しかし、漫才師としてのチキチキジョニーは、単なるブスではなく確固たる実力派芸人である(もとい、世間でブスとされている芸人たちの殆どが、確固たる実力派なのだが……)。本作に収録されている漫才を見れば、そのことがよく分かる。

例えば、石原が「一年のうち二月が大好きだ」という漫才がある。その理由は、「二月には女の子がワクワクするイベントがある」から。誰もがバレンタインデーを想定するだろうが、そのイベントとは節分のこと。当然、その話を聞いていた岩見は「節分で女の子がワクワクできるわけがない!」と否定するが、それでも石原は「節分は一年のうちで男と女が一番イチャイチャ出来る日だ」と断言し、どうやってイチャイチャするのかを説明していく。そうして、ブスの節分におけるカップルの妄想が始まる……と、ここまでは想定の範囲内。ここから更に展開がある。

節分がいかに彼氏とイチャイチャできるイベントかを説明した石原は、しかし急にその表情を曇らせる。今、彼氏がいない石原は、今年の節分を一人で過ごすはめになってしまったからだ。そして、一人で節分をしている様を再現してみせるのだが……その様子を見せつけられた岩見が、困惑の表情を浮かべるのである。

石原「(何かを視線に捉え、豆を投げつける)」

岩見「……お前、鬼見えてるよなあ!」

石原「(無言で豆を投げる)」

岩見「頭ヤバい人や! 確実に見えてるやん! おらんで鬼は!」

石原「(豆を片手に、ゆっくりと一回転する)」

岩見「囲まれてるやん! 鬼めっちゃおるやん!」

石原「……すみませんでした」

岩見「カツアゲされてるやん!」

文章では上手く伝えられないかもしれないが、この一連の流れがたまらなく面白い!

ブスを前提としているとはいえ、そこに留まらず、きちんと自分たちの笑いを見せつけようとするスタンスに、ただただ感心させられる。ネタのバリエーションも豊富で、石原が女優としての素質を見せつけるために喜怒哀楽を表現してみせる漫才や七夕の織姫と彦星の再会に十二星座が牙をむく漫才、石原が女の努力を男性に訴えかける漫才など、それぞれまったく違った二人の魅力を引き出している。残念なことに、「THE MANZAI 2012」では認定漫才師にも選ばれなかった彼女たちだが、これだけの実力があるのであれば、いずれまた浮上してくることだろう。


・本編(45分)

「喜怒哀楽」「もしも生まれ変わるなら」「何月が好き?~石原編」「何月が好き?~岩見編」「ウキウキエブリデイ」「イワミンデレラ」「料理」「魔法」「もしも付き合うなら」

・特典映像(11分)

「ドッキリのドッキリのドッキリの…」