菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『KING KONG LIVE 2011』

KING KONG LIVE 2011 [DVD]KING KONG LIVE 2011 [DVD]
(2012/08/08)
キングコング

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“出る杭は打たれる”という言葉が示すように、テレビ露出が増え始めた売れっ子芸人には批判がつきものだ。ただ、それは別に、売れっ子芸人そのものに問題があるわけではない。ただ単に、売れっ子になって、それまで彼らに興味を持たなかった人間の視界に入ることにより、結果として批判の声が増えているだけに過ぎないからだ。逆にいえば、売れっ子じゃ無くなれば、そういった批判の声は収まっていくということ。つまり、批判の声は人気のバロメーターともいえるのである。

ところが、そんな人気とは関係無く、ただひたすらに批判され続けている芸人がいる。先日、コンビ結成13年目を迎えた漫才師、キングコングである。NSC在学中に「上方漫才コンテスト」最優秀賞を受賞、その後も「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞、「上方漫才大賞」新人賞、「上方お笑い大賞」最優秀新人賞を受賞するなど、“天才漫才師”ぶりを世間に見せつけた。2001年には、後に全国放送化されるバラエティ番組「はねるのトびら」へのレギュラー出演が決定。キラ星の様に輝いている芸人人生だった……が、今やそれも過去の話。昨年、大々的に開催された「THE MANZAI 2011」には、出場するも決勝戦には進出できず。自身のホームだった「はねるのトびら」も終了し、はっきりいって世間的には厳しい状況にある。それなのに、彼らは今でも批判され続けている。まるで、批判されるためだけに存在しているかのように。

キングコングを批判する人たちは、口を揃えて彼らを「つまらない」という。芸人にとって最も口にされたくない言葉であり、芸人至上主義を謳う私は本来ならば「そうじゃない」と断固否定すべきなんだろうが、その言葉に共感を覚えてしまう自分もいる。確かに、かつてのキングコングはとても面白いとはいえなかった。漫才師としての技術は群を抜いて高かったが、その言葉に重みはなく、何処となく上滑っている印象すら覚えた。それ故に、彼らの「つまらない」を完全に否定することは、私には難しい。ただ、それはあくまでも過去の話である。今のキングコングは、決してつまらない漫才師ではない。むしろ、現存するどの漫才師よりも広範囲の観客をド直球でもってターゲットに収めることが出来る、平成を代表する漫才師に成り得る力量を見せつつある……というのは、流石に言い過ぎか。

『KING KONG LIVE 2011』には、キングコングが2011年の夏に全国展開した漫才ライブツアーの模様が収録されている。キングコングが自身の漫才ライブをソフト化するのは、昨年リリースされた『KING KONG LIVE 2010』に引き続いて二回目。彼らの実績を考慮すると、もっと多くのリリースがあっても良かったような気がするが、そこは何かしらかの方針でもあったのだろう。ライブの模様はノーカットで収録、にも関わらず1時間50分というとてつもない時間を要している。

キングコングの漫才における最大の特徴は、そのスピード感でもコンビネーションでもない。徹底した分かりやすさだ。面白い・面白くないに関わらず、老若男女に確実に伝わるであろう分かりやすさ。予備知識も何も必要としない、ハードルの低さ。それが、キングコングの漫才だ。本作に収録されている一本目の漫才『掘った芋いじるな』を観ると、そのことがよく分かる。『掘った芋いじるな』は、梶原が誰でも簡単に英語が喋れる方法として、「掘った芋いじるな」をエエ感じに言うと「What’s time is it now?」と本当に聞こえるからやってみせるというが……というネタ。このネタの何が凄いかって、最初から最後まで同じテーマを続けているところが凄い。こんな素朴なテーマを、掘り下げもせず、別方向に展開することもせず、テーマそのものだけで勝負している。しかも、やっていることといえば、顔と口調の笑いばっかり。でも、それを強引に笑いへと持って行く。このポテンシャルの高さが、また凄い。

その後も、「童謡『森のくまさん』を歌う」というベタなテーマをベタにきちんと突き詰めて行く『森のくまさん』、かつての知り合いと再会するもまったく思い出せない状況の必死さを全力で表現する『こいつ誰だっけ?』、親しい友達が偶然出会うときにやるモーション(お互いの手を打ち合う挨拶)を漫才に取り入れようとして失敗し続ける『ヘイヘイヘイ』など、シンプルな動きと言葉で笑わせる漫才が畳み掛けられる。そこで求められているのは、漫才師としての実力のみ。骨太、しかし軽妙なステージは、ある意味において漫才の最高峰と呼ぶに相応しいといえるのかもしれない。

ただ、難点もある。単なるオーソドックスであることを恐れているのか、芸人としての自意識が暴発してしまったのか、本作で披露されている漫才の中には、とてつもない下ネタが組み込まれていることもしばしば。中でも、西野が梶原に夢の国の楽しみ方を全身を使って伝えようとする『素敵なディズニーランド』は、かなり酷い。勢いに任せて、かなーり酷い。「ヌッキーだとイヤらしいお姉さんになる」を掘り下げちゃダメだろう! ……キングコングが批判されている理由は、面白さ云々よりも、こういった芸人としての生き様に対する偏執的ともいえるこだわりが大きいのではないか。特典映像も見たが、エグいくらいに芸人らしく振る舞うことを追求していた。こういうところが愛されるようになれば、もうちょっと芸人として人気を集めるようになるのではないか。……キャラクターが確立された今、難しいかなあ。

ちなみに、ヌッキーは五反田にいるらしい。


・本編(110分)

「掘った芋いじるな」「森のくまさん」「こいつ誰だっけ?」「ヘイヘイヘイ」「ヤンキー憧れ」「素敵なディズニーランド」「肝試し」

・特典映像(117分)

ツアーの裏側を追いかけたメイキング映像