菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ナイツ独演会 ~浅草百年物語~』

ナイツ独演会 ~浅草百年物語~ [DVD]ナイツ独演会 ~浅草百年物語~ [DVD]
(2013/01/23)
塙 宣之、土屋 伸之 他

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『ナイツ独演会 ~浅草百年物語~』を観た。

ナイツは大学の落語研究会で知り合った塙宣之土屋伸之の二人によって、2001年に結成された漫才コンビである。塙が大学を卒業した年に、四年生だった土屋を誘う形で結成された。ただ、結成してすぐに塙が怪我を負ったため、結成から一年間はコンビとしての活動が出来なかったという(※結成年はコンビとしての活動を開始した年)。コンビとしての活動を開始してからも、なかなか芸風が定まらず、決して順調とはいえない紆余曲折の時代が続いた。しかし、塙がインターネットで調べた言葉を間違えて説明し続ける“ヤホー漫才”を開発し、注目を集めるようになる。日本一の漫才を決定する『M-1グランプリ』には三度の決勝進出を果たしているが、優勝経験はない。漫才協会および落語芸術協会に所属しており、最近では浅草を中心に活動している漫才師としてテレビに出演することが多い。『ナイツ独演会』は2010年9月6日に初めて国立演芸場で行われ、以後、年に一度のペースで同所において開催されている。本作には、2012年9月15日・16日に行われた公演から、15日の模様が収録されている。

ナイツといえば正統派の漫才師としてのイメージが強い。彼ら自身は“ヤホー漫才”という新鮮味のあるタイトルを掲げてはいるが、その内容は言い間違いを重視した、極めてシンプルな芸風であるためだ。……恐らく意図的にやっているのだろう。クレバーだ。また、常にきちんとしたスーツ姿で漫才を演じているところや、漫才協会という確固たる組織に所属しているところが、そのイメージをより強めている。

本作でもその正統派ぶりは顕著だ。独演会の一本目を飾った漫才『全テレビ局紹介』での、テレビ局に対して低い位置から媚びを売りつつ、人気の番組・話題の番組をことごとく言い間違えていく姿は、もはや正統派を超えて芸人の鑑と言っても過言ではない。それでいて、『笑点』のメンバーについてのちょっとマニアックなボケや、『ビッグダディ』に関するスカシボケを投入するなど、分かる人には分かる小ネタを仕込んでいるあたりがなんともニクい。また、三本目の漫才では、『ヤホー10連発』と称して、『爆笑レッドカーペット』で披露されていたような短めの“ヤホー漫才”を10本分連発するという大胆な試みがなされている。無論、どのネタもシンプルで面白い。時事ネタもふんだんに盛り込まれていて、彼らが寄席を中心に活動する恐れを知らない漫才師であることを再認識させてくれる。更に終盤では、近年の彼らの持ちネタである、漫才協会の先輩芸人たちをイジり倒す展開も。ヤホーに時事に漫才協会に……ナイツの特性を存分に詰め込んだ、ボリューム感溢れる内容になっている。が、本作最大の見どころは、二本目に披露された漫才『ロンドン五輪 エクストラバージョン』だろう。

ロンドン五輪 エクストラバージョン』について解説する前に、ゲスト出演している三組の芸人について書いておこう。まず、本公演の前説を担当している中津川弦。彼の出演に期待している人も少なくないかもしれないが、時間があまりにも短いので、はっきり言ってその話芸を楽しむことは難しい。彼の存在が気になる人は、以前にリリースされた『ナイツ独演会』『浅草三銃士』を鑑賞した方がいいだろう。……それだけのためにナイツのDVDを観る人はいないか? 続いて、ナイツと同じ事務所に所属する女性お笑いコンビ、ニッチェ。彼女たちは、本作ではDVD未収録コント『東京のおばさん』を披露している。江上演じる子どもが東京への憧れをフルスロットルで表現しているネタで、何も考えずに楽しむことが出来る。最後に、やはりナイツと同じ落語芸術協会に所属している落語家、瀧川鯉斗。前々回には三遊亭小遊三、前回には春風亭昇太がゲスト出演していたが、どうして今回は二つ目の落語家が……? まあ、細かいことは気にしない。深みのある語り口がたまらないが、まだまだ詰めが甘い。今後の進化に期待を寄せたいところ。ちなみに、同じ日にゲスト出演していたケーシー高峰のネタは、一切収録されていない。……何か収録できないようなことを言ったんだろうな、多分。

話を戻す。『ロンドン五輪 エクストラバージョン』とは、どういうネタなのか。詳細を書くと面白くないので、一言で説明すると“塙がボケ放題漫才”。通常のナイツの漫才では絶対にやらないであろうボケが、次から次へと飛び出してくる。黒子が出てきたり、小道具が出てきたり、果てはツッコミを入れてくる土屋にキレ出す始末。昨今の漫才では確実に反則技と捉えられているだろう多種多様なボケを繰り出す塙と、それに慌てふためきながらツッコミを入れる土屋のやりとりが見られるのは、きっとこの作品だけ! 理事のはしゃぎっぷりに注目だ!

ただ、本当のことをいうと、本作の最大の見どころ(聴きどころ?)は「中津川弦」「ニッチェ」「ロンドン五輪 エクストラバージョン」のネタ解説じゃないかという気もしている。……まあ、ただ単に私が楽屋トーク好きだからなのかもしれないが。「中津川弦の奥さんはJCA1期生らしい」「ニッチェは現代のドリフターズ」など、聞いていて実に楽しかった。何気に、こういう解説力に秀でたコンビだと思うので、そういう方面での仕事も増えるといいのになあ、と思わなくもない。……“ヤホー”で調べてきたと思われちゃうから、無理かな?


■本編(79分)

「前説(中津川弦)」「ナイツ『全テレビ局紹介』」「ニッチェ『東京のおばさん』」「ナイツ『ロンドン五輪 エクストラバージョン』」「瀧川鯉斗『新聞記事』」「ナイツ『ヤホー10連発』」

■特典映像(7分)

「ナイツ『野球漫才』」(音声解説バージョン)

■音声特典:ナイツによるネタ解説

「前説(中津川弦)」「ニッチェ『東京のおばさん』」「ナイツ『ロンドン五輪 エクストラバージョン』」