菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『モンスターエンジンDVD3』

モンスターエンジンDVD3  SOLO LIVE TOUR 2012モンスターエンジンDVD3 SOLO LIVE TOUR 2012
(2012/11/14)
モンスターエンジン

商品詳細を見る

モンスターエンジンDVD3』を観た。

モンスターエンジンは、そもそも“にのうらご”というトリオとして2003年に結成された。トリオでありながら漫才を得意とし、関西系の賞レースでも少なからず評価されていたのだが、2007年にメンバーの一人が引退。以後、残された西森洋一大林健二によるコンビ“モンスターエンジン”としての活動を開始する。

コンビになってからも漫才師として高く評価されていたが、二人が神に扮するショートコント『神々の遊び』で急速に注目を集める。その後も、奇妙な手を持つ運命を背負った少年の姿を描いた『ゴッドハンド洋一』、主人公がピンチになった時に現れる謎の怪人の登場シーンだけをセレクトしたコント『ミスターメタリックの登場シーン』など、個性豊かなキャラクターたちが活躍するネタが話題となった。本作には、2012年7月から8月にかけて開催された全国ツアーより、名古屋公演と東京公演の模様が収録されている。

先にも書いたように、モンスターエンジンの売りといえば、個性豊かなキャラクターを効果的に取り入れたコントだが、その要素は本作では比較的大人しめ。とある事情により太鼓を叩いている男の横で奇妙な生命体が踊り狂う『太鼓』や、山で遭難した大林の元に奇抜な髪型で奇抜な服装の男が現れる『遭難』、プロレスに対して並々ならぬ思い入れを持った覆面小学生のある日の自宅風景を描いた『プロレス』の様に、個性的なキャラクターが中心となったコントが無いわけではないのだが、既出のコントに比べると些かインパクトに欠ける。

思えば、『神々の遊び』にしても、『ゴッドハンド洋一』にしても、『ミスターメタリックの登場シーン』にしても、個性的なキャラクターに目を奪われがちだが、その軸となっているのはベタでオーソドックスな笑いだった。ベタに個性的なキャラクターが入るからこそ、あれほどのインパクトが生じるのである。安易にそれらのコントと同等の笑いを求めるのは、あまり良いことではないのかもしれない。それに、『太鼓』も『遭難』も『プロレス』も、決してつまらなかったわけではない。西森が演じるキャラクターたちの独特の生々しさは、いずれも妙な哀愁を含んでいて、しみじみと面白かった。決して突出してはいないが、とても味わい深い笑いだった。(なお、『プロレス』は『キングオブコント2012』準決勝戦でかけたものの、タイムオーバーになってしまったネタらしい。多分、小学生を演じる西森がハッスルし過ぎたのだろう)

その一方で、キャラクターの個性をアピールしていないコントもまた、なかなかに充実していたように思う。西森がプロ野球選手になった自らの姿を稚拙に想像する漫才を始めとして、ドッキリ番組の素材映像を編集しようとするも失敗を繰り返してしまう『編集』、自身が担当するタレントについての打ち合わせでマネージャーがスタッフにクレームを言いつける『つばき』と、それぞれ実に面白かった。『つばき』はテレビでもウケるんじゃないか。その中でも異彩を放っていたのが、本作の最後に収録されているコント『ヒットマン』だ。

ヒットマン』は文字通り、暗殺をテーマにしたコントである。対立関係にある二つの暴力団がそれぞれに送り込んだ様々なヒットマンが、それぞれの“仕事”をする様子が描かれている。それ自体は、さほど面白いものではない。ただ、仕事が終わったときに、言葉では上手く言い表すことの出来ない演出が施されるのである。これについて具体的に説明すると鑑賞時の面白さが薄れてしまうので書かないが、ひとまずキャラクターの個性にこだわらなかった『ミスターメタリックの登場シーン』みたいなコントだと思っていただければ。これが非常に面白かったのだが、恐らくテレビで披露されることはない(構成上、ゲストが必要がある)ので、機会があれば本作を手に取って鑑賞していただきたい。いい意味で、とても下らないから。

最後に余談だが、実際の公演では、幕間にコント同士を繋げるVTRが流されていたらしい。どうやら、当初はこれも一緒に収録される予定だったようなのだが(※一部販売サイトで本作の収録時間が180分と表示されている点から推察)、どうしてカットしてしまったのか。それがあれば、もっとまとまりのある作品になっていたかもしれないのに……なんとも残念である。


■本編(74分)

「漫才」「コント『編集』」「コント『太鼓』」「コント『つばき』」「コント『カーナビ』」「コント『遭難』」「コント『プロレス』」「コント『ヒットマン』」

■特典映像(11分)

「コント『ヒットマン』」(東京公演)