菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

佐久間一行 全国コントツアー2012『元気でみるみる』

佐久間一行 全国コントツアー 2012 元気でみるみる [DVD]佐久間一行 全国コントツアー 2012 元気でみるみる [DVD]
(2012/12/24)
佐久間一行

商品詳細を見る

佐久間一行 全国コントツアー2012『元気でみるみる』を観る。

佐久間一行茨城県水戸市出身のピン芸人だ。高校生の時に友達に誘われて芸人の道を目指し始め、1996年に東京NSC2期生となる(ちなみに、その友達は後に気変わりし、芸人になること自体をやめてしまったという)。同期には、ガリットチュウ、関暁夫くまだまさし増谷キートンなど。若手芸人の登竜門番組『爆笑オンエアバトル』において高い支持を得てはいたものの、なかなか売れるきっかけを掴めずにいたが、『R-1ぐらんぷり2011』において優勝を果たし、注目を集めるようになる。本作には、佐久間が2012年7月から10月にかけて敢行した全国ツアーから、東京公演の模様が収録されている。

佐久間一行のコントはいつも和やかなムードに包まれている。ファンタジー色の強い設定のコントを演じていることもその原因の一つだろうが、なによりも佐久間当人が醸し出している雰囲気によるところが大きい。はっきり言ってしまうと、佐久間はユルい。滑舌が悪いからしょっちゅう台詞を言い間違えているし、たまに茨城訛りが混じって、本当に何を言っているのかが分からないこともある。ネタ中に笑ってしまうこともしばしば。そしてなにより、「全体的についてこーい!」というギャグになってしまうほどに、観客に伝わらない状況説明の数々……。本当に笑わせようとしているのか、笑わせるつもりがあるのかを怪しんでしまうくらいのユルユルぶりだ。

そんな佐久間のコントだが、その内容をよくよく見てみると、実にきちんとした計算の元に笑いを生み出しているのだから、なんだか不思議だ。もしかしたら、演じている佐久間と作っている佐久間、そこに笑いを盛り込んでいる佐久間はまったく別人なのではないか……と疑いたくなる。三人の佐久間が自宅でネタを作っている姿を想像してみると……うーん、なんだか和む。……いや、流石に嘘だけど。でも、その和み要素と、きちんと計算された笑いが、不思議な感じに混ざり合って、ちゃんとネタとして成立しているんだから、凄い。

本作『元気でみるみる』には、そんな和みと計算の笑いがぎっちり詰め込まれている。村長の病気を治すために必要な薬草を取りに行く男の道中を描いた『ガケの薬草』、虫が人間から受けている仕打ちを人間に置き換えて考えてみたスケッチブック漫談『虫の気持ちになって』、のんびりとした南の島に隠されているという財宝を見つけるぞ!『南の島』、なかなか時間が過ぎない時もこの唄を歌えばきっと大丈夫『みるみる時間がすぎる~歌ネタ~』など、何処を切ってもユルくて、だけどきちんと笑えるネタばかりだ。中でも印象に残っているのは、『残業』というコント。残業しているサラリーマンのやる気が失われたとき、不意に発見される「頑張れ」のサプライズプレゼント! ……の数々! 次から次へと発見されるサプライズプレゼントと、気付けば仕事を放ったらかしにしておプレゼントを探し回っちゃうサラリーマンの残念さが、なんだかとってもコミカルなコントだった。欲望に素直ですこと!

また、特典映像には、佐久間の単独ではお馴染みの「佐久間一行が気持ちいいカタチで登場する」ために行われる『オープニング小芝居』、地方公演で披露された既出コントの焼き直し『リメイクコント』、『元気のうた』に合わせてライブでのハプニング映像を編集した『元気のうた~ハプニング編~』などを収録。とりあえず『こんなかんじの』という映像作品が、面白いとかなんとかいう領域を超越した作品になっているので、一度観てみればいいんじゃないか。いや、理解る。理解るんだけれど……なんじゃこりゃ。牧歌的とかいう言葉では片付けられない奇妙な食感、興味があるなら一口どうぞ。


■本編【63分】

「オープニング」「ガケの薬草」「虫の気持ちになって」「残業」「スカイツリー」「いろんな祭り」「滝の洞窟」「南の島」「みるみる時間がすぎる~歌ネタ~」「元気のうた~エンディング~」

■特典映像【63分】

「オープニング小芝居」「オープニングVTR~初日バージョン~」「こんなかんじの」「リメイクコント『放浪の旅』『ぬすみぎき』『チンピラ達の小旅行』『ピアノ教室』」「サプライズコント~佐藤君~」「元気のうた~ハプニング集~」