菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「私という他人(清水ミチコ)」(2013年4月24日)

私という他人 [DVD]

私という他人 [DVD]

 

テレビタレント、女優、モノマネ芸人、ナレーターに至るまで、多種多様の仕事を節操無くこなしている日本一のコメディエンヌ候補清水ミチコによる初の映像作品集。清水といえば、“モノマネ女王”と称されるほどにモノマネ芸人としての側面がクローズアップされがちだが、本作を観れば、その芸人としての発想も非凡であることが嫌というほど理解することが出来る。

大竹しのぶ桃井かおりのピリついた対談を演出したり、白いアグネスと黒いアグネスが清水のモノマネに対して文句をつけたり、宝塚の俳優にありがちな過剰で押しつけがましいサービス精神をインタビュー形式で表現したり(友近の水谷千重子に通じるものがある)するなど、はっきりと悪意を漂わせているモノマネコントはまだまだ序の口。油断していると、シカゴ出身のブルースシンガーが発酵食品に固執した楽曲を熱唱し、かと思えば、白雪姫と眠り姫がシンデレラにいちゃもんをつけ始め、うかうかしているうちに、清水の体内に宿るモノマネレパートリーたちが暴走して勝手に喋り出し、最終的に清水の肉体はグリーンヒドラと化す!

言うまでもなく、モノマネの完成度はかなり高い。コントも決して手を抜いておらず、台本・演出ともに懇切丁寧に作り込まれている。清水の演技にも気合が入っている。真っ白な背景の面白味のないスタジオでの収録にも関わらず、力強い演技のおかげで画が退屈になることはない。陳腐な言い方になってしまうが、非常に高いレベルの作品であると言っていいだろう。

しかし、そのクオリティに対して、本作で得られる笑いはあまりにも小さい。決してつまらないことはないが、大笑いをすることもない。何処までも「フフッ」な笑いがあり続ける。だが、この決して大きくならない笑い、本道を突っ切るような骨太な笑いから遠く離れた位置から生み出される笑いこそ、清水の芸人としての本分ともいえる。マニアックな笑いという立ち位置から不可思議なネタを披露する関根勤にもならない、コアな世界。受け入れられるかどうかは、見る人次第。それにしても、もしも世の中にモノマネというツールが存在していなかったとしたら、清水はどういう芸人になっていたのだろう?


■本編(66分)
「二大女優対談 1」「ドッコイショッピング 1」「ブルースシンガー」「Black & White」「謝罪記者会見 1」「二大女優対談 2」「ドッコイショッピング 2」「轟寿々帆 インタビュー」「清水ミチコ インタビュー」「謝罪記者会見 2」「二大女優対談 3」「ドッコイショッピング 3」「世界三大プリンセス」「陽水×ユーミソ 夢の競演」「謝罪記者会見 3」「グリーンヒドラ」