菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「小林賢太郎演劇作品「ロールシャッハ」」(2013年5月15日)

【その国は、国土を広げるために島から島へと開拓を続け、ついには「世界の果て」と言われる大きな壁にぶつかった。壁の向こうを目指すため、見た目も性格も全く異なる4人の男が招集される。訓練をかさねるうちに彼らは、この作戦に裏があることに気がつく…。上質な笑いと、劇場空間ならではのあっと驚く仕掛けが散りばめられた、エンターテインメント演劇作品です。】

小林賢太郎が“正義”について描いた演劇作品。具体的な内容について書いてしまうとネタバレになってしまうので書けないが、簡単に説明すると「それ『ガンダム』で見たよ」なメッセージが込められている。良くも悪くもテンプレ的な正義論で、観ている側を「いや、まあ、確かに、そうなんだけど……」と何か釈然としない気持ちにさせる。また、このメッセージが終盤で唐突に存在感をアピールしてくるため、それまでのエンターテインメントな世界観に対してちょっとだけバランスが悪い。「ちょっとくらいならいいじゃない」と思われるかもしれないが、この「ちょっと」の影響で、メッセージのテンプレ感がより際立ってしまっているのだから始末が悪い。前作の『トライアンフ』よりは大きく改善されているとはいえ、小林にはまだまだ強いメッセージが込められた演劇をこなすのは厳しそうだ。

しかし、メッセージ部分を除けば、純粋にエンターテインメント演劇としてクオリティは高かった。キャラクターの個性はそれぞれ際立っていたし(久ヶ沢徹のおバカ筋肉キャラは相変わらず面白い!)、それぞれが抱えているコンプレックスもとてもリアリティがあって親近感が持てた。中でも、辻本耕志演じる串田が抱えていたコンプレックスなどは、ネット上で無責任な批評を重ねている人間であれば突き刺さるところがあったのではないだろうか……私には刺さってませんからね、ええ。演出も面白い。小林賢太郎演じる天森が愛して止まないアメコミ風の世界を舞台上で再現していたのには驚いたし、楽しかった。ある意味、この舞台の主役ともいえる、壁を突破するための大砲も、舞台の画を引き締める良い存在感を放っていた。……だからこそ、彼らが正義と対峙する場面は、もうちょっと丁寧に描いてほしかったんだよなあ。言葉の上ではとても慎重に表現していた様に思うけれど、もっと感覚的に、正義について考えさせられる流れが欲しかった。

ただ、そう思う一方で、小林はこれを意図的にやったのではないかという疑念も。というのも、本作はあまりにも全年齢層を意識していたからだ。シンプルなストーリー、個性豊かなキャラクター、遊び心に満ちた演出、ストレートなメッセージとの対峙、そして大盛り上がりのエンディング……。それはまさしく、子どもから老人まで楽しむことが出来るエンターテインメントショー。ただ、分かりやすくするためであったとしても、作品自体のクオリティを落とすのは宜しくない。だからこそ、更なる成長に期待したい。


■本編(123分)
■出演
久ヶ沢徹 竹井亮介 辻井耕志(フラミンゴ) 小林賢太郎