菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『水谷千重子 演歌ひとすじ40周年記念リサイタルツアー』

友近プレゼンツ 水谷千重子 演歌ひとすじ40周年記念リサイタルツアー [DVD]友近プレゼンツ 水谷千重子 演歌ひとすじ40周年記念リサイタルツアー [DVD]
(2012/09/19)
水谷千重子

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演歌ひとすじ40周年、歌の道を歩み続けている演歌歌手・水谷千重子による、6都市縦断リサイタルツアーの模様を収録。歌は勿論のこと、旧知の関係にある演歌歌手とのトーク&デュエット、あの名作朝ドラとはまったく関係無い千重子一座特別公演『ゲノゲの女房』、大物演歌歌手たちとの豪華共演、そして名人芸『越後前舞踊』に至るまで、水谷千重子の藝の真髄を堪能できる一枚となっている。ちなみに、本編は六条たかやと近藤春菜ハリセンボン)をゲストに招いた名古屋公演の模様が中心となっており、各都市ごとの様子はダイジェストとして収録されている。

私は実際に水谷千重子のリサイタルを鑑賞しているのだが(6月10日・松山公演)、ライブで観るのとDVDで観るのとでは、あまりにも大きく印象が違っていることに気付かされた。ライブで鑑賞しているときは、架空の存在である水谷千重子のリサイタルを鑑賞している客として、まるで自分自身もコントに参加している様な感覚に見舞われた。無論、自分自身は観客としてリサイタルを鑑賞しているのだが、このリサイタルを完成させるために、自らも積極的に楽しんでいかなくてはならないという気持ちにさせられたのである。そこには、演者と観客が一緒になってライブという名の悪ふざけを成立させようという一体感と、着実に盛り上がっていくことに対する得も言われぬ高揚感があった。しかし、DVDで鑑賞してみると、その感覚がまったく生まれてこない。当たり前の話ではなあるが、ライブでは肌で感じられていた空気がDVDだと伝わらないからだ。そこには明らかに、演者と鑑賞者の間に距離が生じている。その違いが、本作では致命傷となっている。

近年、お笑い芸人のDVDは作品化が進んでいるように感じている。ライブで観れば当然面白いけれど、DVDで観てもそんなに印象が変わることなく楽しめる。パッケージ化されて、テレビ越しに観たところで、さして大きな問題はない。しかし、本作は違う。この全編を通して繰り広げられている悪ふざけは、観客として参加しているからこそ楽しめるもので、映像として観るとどうしても物足りない。各都市ごとのドキュメントを本編に半ば強引に詰め込んでいること、ライブで披露されていた幾つかの楽曲が権利の関係でカットされていることも、本作に対する印象に大きく影響しているように思う。

ライブパフォーマンスそのものは“完璧”と言ってもいい程の素晴らしい内容だっただけに、このDVDのクオリティは少々残念。ただ、水谷千重子という架空の演歌歌手による虚像のリサイタルという、ちょっと不可思議な空間を垣間見られるという意味では、本作はやはり稀少といえるのかもしれない。とはいえ、もう少しでも“水谷千重子”の世界観に寄せた編集を施していれば、まだ納得のいく作品に仕上がっていたんじゃないかしらん。うーん、勿体無い。


■本編(148分)

「水谷千重子ショー」「2人のビッグショー/全6都市を収録」「千重子一座特別公演「ゲノゲの女房」」「越後前舞踊」

■特典映像(15分)

「大物演歌歌手とのスペシャルトークショー」