菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『第14回 東京03単独公演「後手中の後手」』

第14回 東京03単独公演「後手中の後手」 [DVD]第14回 東京03単独公演「後手中の後手」 [DVD]
(2013/03/27)
東京03

商品詳細を見る

プロダクション人力舎に所属するコントユニット・東京03が、2012年6月から9月にかけて全国ツアーを展開した単独公演『後手中の後手』より東京最終日の模様を収録。ライブで披露されたコントや幕間映像は勿論のこと、キャスト紹介で流される大竹マネージャーによるピアノ演奏や、オープニング・エンディングを飾る“ミュージシャン”角田晃広の熱唱も余すことなく収められている。また特典映像には、追加公演でのみ披露された特別悪ふざけ公演『ナンセンスな反乱』を収録。おぎやはぎ、浜野謙太、Gentle Forest Jazz Bandをゲストに迎えた、バカバカしくも華やかなステージを楽しむことが出来る。

『後手中の後手』というライブタイトルが表しているように、今回のテーマは「後手」。あらゆる状況で後手に回ってしまう人々の生き様が、ほのかに哀愁を漂わせながらも、しっかりと笑えるネタとして昇華されている。友人の自分に対する行動に違和感を覚えるも、それをすぐさま注意できずにぐずぐずしている男の姿を描いた『後手』を始めとして、営業中に大失敗して落ち込んでしまった後輩がふとしたきっかけで余裕を取り戻す『余裕』、喫茶店で恋人とのトラブルについて友人に話していると隣の席の男が気になってきて……『隣席』、会社の屋上で同僚の女性に告白した男がひたすら返事を待たされる『この時間』などなど……日常的なテーマに基づいていて、否が応でも共感させられるコントばかりだ。“第三のバナナマン”ことオークラが手掛けている長尺コント『家庭訪問は三つ巴』も上々の出来。一人の女性を巡って対立する三人の構造が絶妙、ただ、それよりなによりそれぞれのキャラクターが見事に合致している点が素晴らしい。特に角田のスパークぶりは必見だ。ちなみに、副音声解説によると、オークラはこのコントを作っている段階で「東京03のトリネタの作り方はなんとなく分かった」と言い張っていたとか。その発言も納得の出来である。

これらの中でも、強く印象に残っているのは『東京の両親』『謙遜』の二本だ。

『東京の両親』は、ミュージシャンを目指して上京した若者(飯塚)が遂に夢を諦めて就職、日頃から実の両親の様に慕っている老夫婦(角田・豊本)が営んでいる定食屋でその思いの丈を打ち明けるコントである。二人のことを「東京の両親の様に思っている」と言う若者と、彼のことを陰ながら応援していた老夫婦のやりとりは、まるで人情ドラマの様に愛おしい。明るくてポジティブな老妻を演じる豊本、頑固そうだが人情に厚そうな老夫を演じる角田の配役も最適だ。ところが、ちょっとした言葉のアヤをきっかけに、二人が夫婦喧嘩を始めてしまう。とうとう掴み合いに発展しそうになったので、慌てて若者が間に入ったところ……。

若者「お父さんもお母さんも落ち着いて! ねっ! 息子が見てますから、ほら! 息子が!」

老夫「……誰が息子だよ!」

老妻「……赤の他人でしょ!」

若者「ええっ!?」

この瞬間、先の人情ドラマの様なシチュエーションは、全て老夫婦によって作られたものだったことが分かる。そして、ここから彼らの“後手”が始まる。数年に渡って、若者に一方的に東京の両親として慕われるという先手を打たれ続けていた彼らの逆襲が、ここに始まるのである。豊本さんのアドリブがまた面白いんだよなあ……。東京03とミュージシャンといえば、以前に『バンドマン』(from第五回単独ライブ 傘買って雨上がる)というコントを演じていた記憶が蘇る。あれも格好付けたミュージシャンの浅墓さを皮肉ったネタだったが、これも同傾向にあるといえるだろう。

一方の『謙遜』は、ある劇団に所属している役者たち(角田・飯塚)が、撮影前から話題になっている映画の重要な役のオーディションに合格した豊本を迎えて、居酒屋でお祝いをする場面から始まるコントである。豊本をひたすら褒め称える二人に対して、彼は延々と謙遜し続ける。「凄いな!」といえば「凄くないよ、たまたまだよ」と返し、「ホントおめでとう!」といえば「ホントやめてください! 僕なんか全然ですから!」と返す。そんなやりとりの果てに、とうとう飯塚の感情が爆発。豊本に掴みかかろうとするのだが、角田に抑えられる。そして角田は、飯塚をなだめた後に、豊本にとうとうと語りかけるのである。

角田「……お前が悪い」

豊本「……えっ?」

角田「お前が悪いぞ。そりゃ、こうなるよ。あんな、豊本。謙遜ってね、使い方間違えると、人を傷つけるぞ? お前は、オーディションに合格したんだよ。そりゃ凄いことだって言ってんの。才能あるんじゃないかって言ってんの。なのに、受かったお前に、「全然凄くない」とか、「全然才能無い」とか言われちゃうと、落ちた俺たちは……どうなるのかなあ? その辺のこと、もっとよく考えろ!」

この後、コント的な急展開を迎えることで、この「謙遜」についての話はウヤムヤになってしまう。流石の東京03でも、これを掘り下げていくことは出来なかったのか。それとも、最初からそっちの方向へと掘り下げていく予定ではなかったのか。勝ち上がれなかった人間の悲哀をモチーフにした笑い、是非とも拝見したかったのだが……。ちなみに、副音声解説によると、豊本の謙遜の演技は「キングオブコント」優勝直後のキングオブコメディ高橋をモデルにしているとのこと。……凄く想像できるなあ。

もっと他に方法がある筈、もっといい伝え方がある筈……そんな考えが働いてしまったがために起きてしまう悲劇のシチュエーション“後手”。それをテーマにしているが故か、本作は全体的に重たい空気に包まれている。無論、それを凌駕するほどの笑いは保証できるが、曇天に差し込む一筋の光の様な笑いは見受けられなかったように思う。ただ、そんなウェットな質感の笑いこそ、東京03には相応しいと言えるのかもしれない。人間が人間である限り、東京03のネタの種は尽きない。以前にも書いたが、東京03は日本人の鏡」だ。そこに映し出されているのは、いつだって我々日本人なのである。


・本編(124分)

「キャスト紹介「ピアノ曲 GOTE」」「後手」「オープニング曲「後手後手ループる」」「余裕」「後手ゲーム」「隣席」「国際後手協会「後手ゲーム」ルール要項」「東京の両親」「東京の思い出」「謙遜」「後手っちゃん」「この時間」「ただ愛しただけだから…」「家庭訪問は三つ巴」「エンディング曲「先の自分に全てをたくし…」」

・特典映像(67分)

「ナンセンスな反乱」「千秋楽 舞台挨拶」