菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ジグザグジギー『2008-2012 BEST』

2008-2012 BEST [DVD]2008-2012 BEST [DVD]
(2013/05/22)
ジグザグジギー

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ワタナベコメディスクール出身の宮澤聡池田勝によって2008年に結成されたお笑いコンビ、ジグザグジギーの代表作を収録したベスト盤。60分の収録時間に、全16本のコントがぎっちりと収録されている。幕間映像は無し。特典映像には、同じ日にDVDをリリースするマセキ芸能社の芸人仲間“ツィンテル”をMCに迎え、今回のDVD収録の模様やお気に入りのネタに関するトークが収録されている。ちなみに、ネタは全てスタジオにて撮影されており、観客は入っていない。個人的に、無観客状態で芸人がネタを演じている姿を観るのはあまり好きではないのだが、本作に関してはさほど違和感を覚えなかった。コントの完成度が故だろうか。

ジグザグジギーのコントには、ある特定のパターンが存在する。それは、宮澤が同じ傾向の言動を延々と繰り返し、それに対して、池田が様々な言葉を用いてツッコミ続けるというものだ。注目すべきは、宮澤の言動そのものがボケに直結しているとは限らないという点である。その言動一つ一つを抽出したところで、さほど可笑しさを感じはしない。しかし、何度も何度も繰り返していくことによって、その言動が持っている本来の意味を超越した、ある種の狂気へと変貌を遂げるのである。それはまるで、元来の意図から逸脱した事態に発展し、勝手に不可解な行動を取り続けるバグッたテレビゲームのキャラクターの様だ。その脅威的な状況に気付いた瞬間の常人・池田の表情は、実にスリリングかつコミカルである。

ここで一つ、例として本作にも収録されているコント『喫茶店』を紹介しよう。『喫茶店』は、池田扮するウェイターが務める喫茶店に、宮澤演じる一人の客がケータイで話しながら来店する場面から始まる。電話越しの会話を続けながらもスマートに注文を済ませて、席に着く宮澤。会話の相手に自分が喫茶店に来ていることを伝えようとするのだが、向こう側の周辺が騒がしいようで、なかなか “喫茶店”という単語が伝わらない。声が届かない苛立ちもあって、少しずつ宮澤の声は大きくなっていく。

宮澤「(電話の相手に)喫茶店! ……喫茶店!! ……喫茶店!!!」

池田「(袖から飛び出しながら)何事でしょうか~? お客様~?」

宮澤「喫茶店!」

池田「ちょっと、雄叫びが凄い……」

宮澤「喫茶店!」

池田「凄いヒート……」

宮澤「(池田に気付き)あっ、電話を……」

池田「すいません、お一人様だけですけどお客様いらっしゃいますので……」

宮澤「ごめんなさいね、申し訳ない」

池田「すいません、はい(袖にはける)」

宮澤「(電話の相手に)だからさ、前にクラス会の帰りに寄った店あるじゃない。……そうそうそうそう、商店街の裏手の。そうそう、スーパーの向かいの。そう! パチンコ屋の隣の。そう! そこの喫茶店! ……喫茶店!! ……喫茶店!!!」

池田「(袖から飛び出しながら)またでしょうか~?」

この『喫茶店』が上手いのは、宮澤が意図的に大声を張り上げているわけではないことが丁寧に説明されている点にある。もし、これが意図的な行為であったとすれば、それは単なる悪質な嫌がらせとして観客に処理されてしまう。しかし、この『喫茶店』では、観客がそう考える余地を与えないように、導入から事態が発生するまでの行程を、非常に慎重に描いている。このコントにおいて重要なのは、大声を出されて困惑しているウェイターの姿を笑い者にすることではなく、この不条理な事態そのものを浮き彫りにすることであると彼ら自身が理解している証左といえるだろう。

そんなジグザグジギーのコントは、一見するとジャルジャルのコントに類似している。ジャルジャルもまた、ある特定の言動をしつこく繰り返すスタイルのコントに執着しているコンビである。「キングオブコント2011」決勝戦で披露された『おばはん絡み』の衝撃を、今でも覚えている人は少なくないのではないだろうか。しかし、ジグザグジギージャルジャルには、明確な違いが存在する。ジャルジャルのコントは不条理な事態をじわりじわりと観客に理解させているのに対し、ジグザグジギーのコントは池田のツッコミによってより分かりやすく笑いを引き出している部分が大きいのである。

ここでもう一つ、例としてまたも本作に収録されているコント『ジャムトースト』を紹介しよう。『ジャムトースト』の舞台は、これまた喫茶店。宮澤扮する接客を担当する店長に、池田扮する勤務初日の新人が厨房を任されるやりとりから始まる。不安で仕方がない新人に対して、「大丈夫だよ。多分、今日、混まないから」という店長。そそくさと接客に向かう。すると、すぐさまオーダーが。「ジャムトースト、ワンでーす!」。トーストを作るために、奥からジャムを取ってくる新人。ところが、このジャムの蓋がまったく開かない。ちなみに、このコントの間、宮澤はホールで接客をしていることになっているので、舞台上にはジャムの蓋を開けようとし続ける池田だけである。

宮澤(声)「ジャムトースト、ワンでーす!」

池田「はーい」

宮澤(声)「いらっしゃいませー!オーダー!ジャムトースト、ツーでーす!」

池田「はーい」

宮澤(声)「オーダー!ジャムトースト、ワンでーす!」

池田「はーい」

宮澤(声)「ジャムトースト、ツーでーす! ……ジャムトースト、ワンでーす!」

池田「混みましたねぇ!」

宮澤(声)「オーダー!ジャムトースト、ワンでーす!」

池田「波乱の幕開けですー!」

宮澤(声)「どうぞ、こちらのお席とこちらのお席とこちらのお席、お座りください!」

池田「すいません! ビンの蓋が開かないんで待っていただけませんか!?」

宮澤(声)「オーダー!ジャムトーストツー!ジャムトーストスリー!ジャムトーストツーでーす!」

池田「この街とジャムの間に何が!?」

宮澤(声)「オーダー!ジャムトースト、ワンでーす!」

池田「なんなんですか!? この空前のジャムブームは!?」

ツッコミで笑わせる芸人といえば、近年では「なんて日だっ!!!」で知られるバイきんぐ小峠が印象的だ。池田のツッコミはまだその領域には達していないように思うが、いずれは名作と呼ぶに相応しいツッコミを編み出してくれるのではないかと、個人的には期待している。とりあえず、今年のキングオブコントでなんらかの結果を残してもらいたいのだが、果たしてどうなることやら(過去に二度の準決勝進出を果たしているので、不可能ではない!)。

話が彼らのネタに偏り過ぎたので、ここからは本作について。全16本のコントが幕間映像無しに収録されているといっても、一つ一つのネタが短いので、鑑賞後にさほど疲労は感じない。ただ、ネタの質はまちまち。つまらないわけではないのだが、名作コントの劣化版と思わせるようなネタが幾つか見られ、これをわざわざ収録する理由はあったのかと、少し疑問に思うことも。とはいえ、『オークション』を含む彼らの代表作といえるネタは殆ど抑えられているので、チェックしておいて損はないだろう。

……ただ、なあ。『満月』が収録されていないんだよなあ。満月を見て、狼男になりそうでならない宮澤に戸惑い続ける池田の構図がたまらなかった、『満月』が収録されていないんだよなあ。「オンバト+」で自身初のオーバー500を記録したネタだけに、入れてもらいたかったよなあ(もしかしてDVD収録後に作られたネタなんだろうか?)。


■本編(60分)

「出欠」「喫茶店」「人違い」「オークション」「班決め」「泥棒―!!」「お会計」「キャバクラ」「ダイイングメッセージ」「オーディション」「自己陶酔」「クイズ番組」「バスガイド」「ジャムトースト」「かるた」「椅子取りゲーム」

■特典映像(14分)

「収録を終えて」(MC:ツィンテル