菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ツィンテル『ネタミテーナー』

ネターミテーナー [DVD]ネターミテーナー [DVD]
(2013/05/22)
ツィンテル

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2008年に結成されたお笑いコンビ、ツィンテルの代表作を網羅したベスト盤。同日、同じ事務所で同じ年に結成されたお笑いコンビ、ジグザグジギーによるベスト盤『2008-2012』がリリースされていることから察するに、この二組が今のマセキ芸能社イチオシのコンビということなんだろう。対象が二組でも“イチオシ”という表現が正しいのかどうかは分からないが、まあそんなことはどうでもいい。重要なのは、それだけ事務所が彼らの実力を認めているということと、また今後の成長を期待しているということである。

本作に収録されているネタは全てスタジオで撮影されている。観客の声はない。スタッフの声もない。なんとも寂しい。漫才や落語ほどに観客の存在に左右されないコントは、こういった無観客状態の映像でもそれなりに観られるものにはなるが、それでもライブ映像に慣れている身としては、些かツライものがある。いや、彼らがコントを演じている最中はまだ気にせずに楽しむことが出来るのだが、ネタが終わった瞬間から映像がカットされるまでのビミョーな間が、たまらなく寂しい。舞台を暗転するとか、対応は可能だったと思うのだが。よもや意図的な演出か?

収録されているネタは全てコント。個人的な好みの差はあれど、どのコントも安定して面白い。海外に旅立つ彼女を見送ろうとする倉沢の背中を、その国を思わせるフレーズを盛り込みながら押してやる勢登のエールを描いた『旅立つ君へ』は、ダジャレに主軸を置いたコント。「オンバト+」や「爆笑レッドカーペット」でも披露されていたネタなので、ツィンテルといえばこのネタだというイメージの人も少なくないのではないだろうか。マリッジブルーの花嫁に逃げられてしまった倉沢が、声も見た目も彼女にそっくりな友人の勢登を代役にしてその場を凌ごうとする『花嫁』は、どっちがどっちか分からなくなってしまった倉沢の困惑ぶりを描いたコントだ。アンジャッシュ的なすれ違いの手法を取り入れているにも関わらず、「花嫁と友人(男)がそっくり」という前提の下らなさが故にまったく凄さが伝わらないという意味で、実によく出来たネタだと思う。個人的には、ツィンテルといえば『旅立つ君へ』よりもこのネタの方を思い出させる。勢登の花嫁姿が、また凄いんだ。目に焼き付いて離れない。

この他にも、バイトの先輩と後輩が自分の素性を明かすことで相手よりも有利に立とうとする姿が情けなくも可笑しい『バイト』、とある有名なことわざを知らない男に意味を教えようとするも上手く伝えられずにやきもきする様がたまらない『ことわざ』、ポーカーの名手を思わせる男がいざ勝負を始めようとすると完全に顔に出てしまっている『ポーカー』など、まったく違う手法・構成・笑いの取り方によるコントが展開されている。ここで注目すべきなのは、これらのコントをツィンテルはまったく違和感を覚えさせることなく、演じ切っているという点だ。恐らく、役者として培ってきた演技力の経験値が、ここに活かされているのだろう。そして、その違和感の無さこそ、今後のツィンテルの課題でもあるように思う。

ツィンテルのコントは面白い。面白いのだが、それは台本の時点で完成されている面白さだ。彼らはそれを役者として演じているだけに過ぎない。そこに彼らの個性は反映されていない。それ故に、ツィンテルのコントは、確かに面白いのに印象に残りづらい。で、そういうコント師の場合、台本に個性を見出すことも少なくないのだが(例えば、アンジャッシュでいう“すれ違い”パターンのように)、先にも書いた様に彼らのコントは多種多様で不定形だ。そこにパターンを見出すことは難しい。ある意味、スタイルもパターンも出来上がっているジグザグジギーとは、まったく逆の状況にあるといえるのかもしれない。

そんな彼らのコントを観ていると、かつてアンジャッシュエレキコミックが演じていたコントを観たときのことを、なんとなく思い出した。今でこそ、アンジャッシュはすれ違いコントの名手として知られ、エレキコミックはバカコントの旗手として人気を博しているが、それ以前には、もっと無個性なコントを演じていた時代もあったのである(その頃のネタは、『爆笑オンエアバトル アンジャッシュ』『爆笑オンエアバトル エレキコミック』で確認することが出来る)。つまり、今はまだ何のスタイルも固まっていないツィンテルもまた、彼らの様になる可能性があるということだ。ただ、それが必ずしも、正しい選択であるとも言い難い。今、彼らがやっている無色透明のコントもまた、続けていくことで一つの色合いを見せるようになる可能性も否定できない。

いずれにしても、いつの日か、本作がツィンテルの前史を収めた貴重な記録として、静かに語られていくような作品になればいいと思う次第である。


■本編(62分)

「旅立つ君へ」「彼女」「手品」「花嫁」「甲子園」「パパラッチ」「バイト」「友情」「ことわざ」「ルームシェア」「ポーカー」「あの頃僕らは」

■特典映像(13分)

「収録を終えて<GUEST:ツィンテル MC:ジグザグジギー>」