菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『かもめんたる第14回単独ライブ「メマトイとユスリカ」』

かもめんたる単独ライブ「メマトイとユスリカ」 [DVD]かもめんたる単独ライブ「メマトイとユスリカ」 [DVD]
(2013/12/18)
かもめんたる

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かもめんたる単独ライブ「メマトイとユスリカ」』を観た。

かもめんたるサンミュージックに所属するお笑いコンビだ。早稲田大学のお笑いサークルに所属しているメンバーによって結成された5人組コントグループ“WAGE”に参加していた岩崎う大槙尾ユースケによって、グループ解散後の2007年に結成された。当初は“劇団イワサキマキオ”という名前で活動していたが、2010年10月に現在の“かもめんたる”へと改名。コント王者を決する『キングオブコント』には初年度から参戦、2012年に初の決勝進出を果たして総合3位、2013年に歴代最高となる982点を叩き出して優勝を果たす。本作には、彼らが『キングオブコント』で優勝する直前の2013年7月に開催された第14回単独ライブ『メマトイとユスリカ』の模様を収録している。

かもめんたるといえば、岩崎の徹底的に冷静沈着なボケ(ないしツッコミ)と、そんな岩崎に振り回されがちな槙尾によって生み出される、何処となく陰鬱な空気が流れているコントのイメージが強い。そんな二人の笑いが、単独ライブという芸人としての個性が最も引き出される場において、どのように展開しているのか。コンビ結成からたった6年で14回もの単独ライブをこなしてきた彼らの事だから、きっと練り上げられた世界観を楽しめる作品になっているんだろう。しかし、その半面、ラーメンズバナナマンといった先駆者たちときちんと差別化できているのだろうか、という疑念もあったりして。実際に彼らの単独ライブを観たことがあるという人の話によると、かなり高いクオリティのコントを演じているらしいのだが……。

そんな期待と不安を抱きながら、ポチッと再生。

本編が始まると、すぐさま公演のタイトルに使われている、“メマトイ”と“ユスリカ”についての解説が表示される。【メマトイとユスリカは夕方になると無数の塊となって飛ぶ羽虫の種類である】。この解説文が消えると、本公演のオープニングコントが始まる。タイトルは『メマトイとユスリカ』。表題作だ。銀行強盗に失敗して、警察に追われている二人の男女。男の名はメマトイ。女の名はユスリカ。自首を決意した二人は、実はお互いが異性として以前から惹かれ合っていたことを知り、警察に捕まる前にその愛を確かめようとする。興奮し、ソファの上にユスリカを押し倒すメマトイ。両腕をメマトイに抑えられ、同様に興奮気味に「くすぐったいわ……」と声を上げるユスリカ。ところが、二人が身体を重ねようとした、その時……。自らの欲望が満たされずにやきもきしている姿の滑稽さと、降り注ぐ雨の音が演出する無常感のバランスが実に味わい深いコントだった。……しかし、オープニングからセッ○スをテーマにしたネタをぶちこんでくるとは。なんとも驚きだ。

その後もコントは続く。UFOにさらわれた犬が人間に改造されて、かつてのご主人の元へと戻ってくる『おかえり』。とある小説家が、人としてどうしようもない担当編集者・中谷をクビにしないある特殊な理由とは?『理由』。スピリチュアルカウンセラーの守護霊を見る方法があまりにも独特なために、治療中についつい笑ってしまう『スピリチュアル』。路上で言葉を売っている青年の前に老年の女性が現れ、その言葉を買ってくれるというのだが……『言葉売り』。他に類を見ないシチュエーションの独創性と、更に捻りを加えた展開でグイッと観る者を引き込む構成力の高さに、ただただ唸らされる。『言葉売り』は『キングオブコント2013』決勝戦でも披露されたコントだが、本編でも突出して面白かった。『キングオブコント2013』で披露されたバージョンとのビミョーな違いを探すのもまた楽し。

しかし、これらの個性豊かなコントたちは、本作の締め括りとなるコント『敬虔な経験』で一気に集約されていく。……公演中に披露されたコントが最後のコントへと繋がる演出そのものは、決して珍しいものではない。ただ、過去に演じられてきたそれは、単独でもネタとして成立するコントに散りばめられた小ネタ程度の扱いに留まっていることが多かった。対して、本作のそれは、各コントの本質的な部分へと繋がっている。あのコントの彼はどうしてそうなったのか、あのコントの彼女はどうしてそうなってしまったのか、あのコントの彼はどうなってしまったのか……。最後のコントで、それが明らかになる。文学的ともいえるエンディングも素晴らしい。こんなに実直なメッセージの詰まったコント、正直言って今までに観たことがない!

とある終わりと始まりを描いた、重厚で濃密な一品。その静かなる熱に触れない理由はない。


■本編(79分)

「メマトイとユスリカ」「おかえり」「勇気とか度胸とか」「理由」「ミステリーマン」「スピリチュアル」「言葉売り」「敬虔な経験」

■特典映像(19分)

ライブで披露された幕間映像を収録