菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『磁石単独ライブ「Lucky7」』

磁石 単独ライブ 「Lucky7」 [DVD]磁石 単独ライブ 「Lucky7」 [DVD]
(2013/12/27)
磁石

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『磁石単独ライブ「Lucky7」』を観る。

磁石はホリプロコムに所属するお笑いコンビである。日本映画学校の学生だった広島県出身佐々木優介秋田県出身永沢たかしによって、2000年に結成された。コンビ名は二人のイニシャルが“S”と“N”なところに由来している。永沢の斜め上を行くボケと佐々木のしなやかなツッコミによる漫才がお笑い好きの間で注目を集めるが、若手漫才師の登竜門『M-1グランプリ』で評価されることはなかった。しかし、『M-1』終了後に始まった賞レース『THE MANZAI』には、2年連続で決勝進出を果たしている。本作は、そんな彼らが『THE MANZAI 2013』出場を控えていた、2013年8月に銀座・博品館劇場にて開催した単独ライブの模様が収められている。

既にご存知の方も多いと思うが、『THE MANZAI 2013』において磁石は決勝戦に進出することが出来なかった。過去二回の大会ではサーキットを上位で突破していた彼らのまさかの敗退は、とても大きな衝撃を与えたモノである。一体、何がいけなかったのか。過去二回の大会を経て、彼らの芸が飽きられてしまったのか。それとも、デビュー以来、紆余曲折はあったものの、常に向上し続けていた彼らの漫才に、遂に陰りが見え始めたのか。様々な憶測が自分の中で飛び交っていたが、とにかくネタを観てみないことには話は始まらない。とはいえ、準決勝敗退した事実に間違いはないので、どちらかというと期待せずに鑑賞することとなった。

『磁石単独ライブ「Lucky7」』は5本の漫才と3本のコントで構成されている。5本の漫才というと少なく感じられるかもしれないが、複数のネタが一つにまとめられていることもある(例えば、一本目の漫才『恋愛』は「恋愛シミュレーションゲーム」「お見合いパーティ」「絡まれた女性を助ける」の3ブロックで構成されている)ので、決して短く感じない。また、ネタとネタの間には、必ず幕間映像が挿入されている。パッケージ裏にある“単独ライブを完全収録”の一文は伊達じゃない。なかなかのボリュームだ。その代わり、特典映像は幕間で使用されなかった映像を収録しただけの、ごくささやかなものになっている。

心配していた漫才のクオリティは、相変わらずの高水準で一安心。無秩序な永沢のボケと正確な佐々木のツッコミを楽しめる。また、これまでの漫才では、あまり見られなかった新しい要素も。『THE MANZAI 2012』において、女性に対して激しく切り込んだ「ブスは待つ!」というキラーワードを繰り出して評価されていた彼らだが、本作ではその部分を更に深化。結婚した佐々木に対して、なかなかモテない永沢が流れを無視して女性に対する不満をブチ撒けるという暴挙に打って出ている。また、これがなかなか的確で面白い。このスタイルを完成させていけば、彼らならではの新しいボヤキ漫才が出来るのではないだろうか。今年の『THE MANZAI 2014』決勝戦が楽しみだ。

一方、さりげなくコントも進化している。以前の磁石が単独ライブで披露していたコントは、漫才師が余芸でやっているような軽めのノリが感じられたが、本作に収録されているコントはなかなか本格的。とりわけ、人の形をしたパソコンが存在する未来を舞台とした『人間パソコン』は、設定の時点で秀逸。オチも素晴らしい。もうちょっとパソコンならではの機能としての側面を煮詰めていれば、更に完成度の高い作品に仕上がっていたのではないかと思う。本腰を入れれば、銀シャリ以来の漫才師による『キングオブコント』ファイナリスト、あるのでは。

やや器用貧乏なところもあるが、しかし着実に漫才師として試行錯誤を繰り返している磁石。その芸人としての到達点、そろそろ見えそうな気がするが、どうだろう。


■本編(111分)

「怪盗セブンフェイス」「オープニング」「恋愛」「ラッキーチャレンジ前編」「メガネライダー」「ラッキーチャレンジ後編」「人間パソコン」「親子大喜利」「不良映画」「CDTV」「結婚式司会」「親子漫才」「海外旅行」「相方への手紙」「シェフ」「エンドロール(メガネライダー)」

■特典映像(3分)

未公開VTR「単独ライブの意気込み」