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過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『第15回 東京03単独公演「露骨中の露骨」』全ネタ感想文

第15回東京03単独公演「露骨中の露骨」 [DVD]第15回東京03単独公演「露骨中の露骨」 [DVD]
(2013/12/25)
豊本 明長、飯塚 悟志 他

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『第15回 東京03単独公演「露骨中の露骨」』を観る。

東京03プロダクション人力舎に所属するコントユニットだ。“アルファルファ”として活動していた飯塚悟志豊本明長のコンビに、“プラスドライバー”というトリオに在籍していた角田晃広が加入する形で、2003年に結成された。確かな演技力と複雑な人間関係をモチーフとした台本に定評があり、現在では全国ツアーを展開するほどの支持を得ている。『キングオブコント2009』チャンピオン。本作には、そんな彼らが2013年5月から8月にかけて全国を巡った単独ツアーより、東京芸術劇場で開催された追加公演の模様が収められている。

以下、ネタバレ控えめ。

 

■『最終日』

ハワイ旅行の最終日に体調を崩してしまった豊本。あとの二人も看病のために部屋に残ることになったのだが、初めての海外旅行をまだ堪能し切れていない角田は、遊びに行きたい気持ちを露骨にアピールし始める。旅行で起こりがちなハプニングに対する不満をストレートに表現したコント。体調を崩したヤツに罪は無いけれど、心配されている状況をそのまま受け入れてしまっている(=元気なヤツに気を遣わない)ことへの不満は分からなくもない。まあ、逆の立場だったら、また逆のことを考えてしまうのだろうけど。オープニングコントらしく、短くキレイにまとめているところは流石。「さ、いただいちゃおうかな?」

■『気遣い』

会社で飯塚が残業をしているところに、出張先の博多から帰って来た後輩の二人。缶コーヒーを買ってきたり、お土産を買ってきたり、教えてもらったモツ鍋の写真をメールで送ったりと、とにかく先輩である飯塚に気を遣う豊本。対して、角田は何もしない。そのことについて話の流れから言及してみたところ、角田から予想外の反論が飛び出す。先輩に対して露骨に気を遣える人と気を遣えない人の気持ちの違いを描いたコント。東京03ならではの人間の機微を描いたテーマは良いのだけれど、やや詰めの甘さを感じた。これまでの東京03が見せてきた手腕ならば、気遣いが出来る豊本を言及するくだりをもっと掘り下げて、よりオチを効果的に出来たのでは。「精神的な方の帰国子女」

■『めんどくさい親友』

居酒屋で呑んでいる三人。学生時代から付き合いのある彼らのうち、二人がバツイチになってしまった。残る豊本は順調に彼女と交際を重ねている……と思われていたが、どうも最近上手くいっていないらしい。詳細を聞いた二人は「彼女は別れたがっているから、豊本の方から別れを切り出せば?」と焚きつけるのだが、豊本がその場でケータイを取り出して別れを告げようとすると、急に止め始めて……。前半はたきつけている飯塚・角田がボケ、後半は激昂して居酒屋を飛び出してしまった豊本がボケという、二部構成のコント(副音声によると、二つの設定をくっつけたとのこと)。前半は前半の面白さ、後半は後半の面白さがあるが、強引にくっつけてしまったがための歪さは拭い切れず。一本筋が通っていない感じが、実に惜しい。「二度と! ……だからな!」

■『市民の味方』

二台の自転車が重なって倒れて、変な感じにハマってしまった。持ち主の豊本と角田が一生懸命に引っ張り合うが、まるで外れない。そこで角田が、近所の交番から警官(飯塚)を連れてきて、なんとか解決してもらおうとする。どんな大変な状況であっても、警官ならなんとかしてくれるのではないか、という根拠のない安心と期待を描いたコント。ちょっと前に「プロに無償の仕事を頼む一般人」の話が話題になったけれど、アレと通じるモノがあるような気がしないでもない。何も出来ないことが分かり、雑に扱われるようになった警官・飯塚の崩壊ぶりがとにかく素晴らしい。飯塚のワンマンショーと言っても過言ではない。さりげなく豊本を一瞥するくだりが大好き。「本官イジんなよーっ!」

■『アニバーサリーウォッシュ』

“アニバーサリーウォッシュ”という洗剤の実演販売員(角田)がメインのコント。最初に来た客(豊本)はリアクションが良かったので、テンポ良く商品の紹介をすることが出来た。ところが、続いてやってきた客(飯塚)は相槌一つ打とうとしないので、とてもやり辛い。あまりにリアクションが良くないので、我慢できなくなってしまい、とうとう説教まで始めてしまうのだが……。演者が客に対して抱いている気持ちをそのまま反映したようなコント。ライブの後半でまたどえらいネタを放り込んできたモンである。構成がシンプルで線が細いので、ちょっと飽きてしまいそうになるが、三人が演技で上手くフォローしている。特に、再登場してからの不気味な豊本は必見。「もっと私をノせてくださ~い!」

■『魔が差して』

泊まりの予定が急に変更になって、連絡も無しに家に帰って来た夫(角田)。そんな夫の姿を見て、何処となく落ち着きのない妻(豊本)。なんと妻は、夫がいない間に男(飯塚)を連れ込んでいたのである。そして実は、以前から妻の行動に違和感が覚えていた夫は、部屋に盗聴器を仕掛けて、二人のことを全て把握していたのである。ところが、夫がそのことを教えた途端に、二人の様子がなんだか……。「浮気した」ことの過失を「盗聴器を仕掛けた」行為が飛び越えてしまう、理不尽さを描いたコント。バラエティ番組で「浮気しているかもしれない相方のケータイを勝手に覗く」行為が言及されているのを見かけたことがあるが、感覚としてはアレに近いのかもしれない。二人の態度の変化に慌てふためく角田がコミカルで面白いが、盗聴器を仕掛けられた豊本のドン引きっぷりがそれを上回る素晴らしさ。柔よく剛を制した。いや、別に制する必要はないんだけど。「サイコパス!」

■『帰省にて』

ずっと地元で生活している飯塚。東京での暮らしに疲れて地元に戻って来た角田。東京からフラッと帰って来た豊本。地元で再会を果たした三人は、最近あった話などを交わして時間を過ごしていた。その話の流れから、角田が地元で生活している同級生のマユミに対して気があることが発覚する。学生時代には美人でモテていたマユミだが、高校を卒業して一気に暗くなり、今では誰とも話をしない変わり者になっていた。そこを角田が強引に誘って、今ではそれなりに親しくなったのだという。そんな角田に、飯塚は「どうしてマユミが暗くなってしまったのか、その原因を突き止めている」と話し始め……。オークラ台本のロングコント。一人の女性を巡って展開するドラマという点では、前回の公演で披露された『家庭訪問は三つ巴』を彷彿とさせなくもないが、そこへ田舎の矮小さと同窓会を思わせる懐古的な趣が加えられ、味のあるコントとして完成されている。舞台美術が絶妙なんだよなあ。オチへの怒涛の展開も素晴らしい。この上なくみっともなくて、バカバカしくて、なんだかステキ。ちょっと豊本が都合の良いポジションに落ち着いている気がしないでもないけれど、それを踏まえても余りある名作だったと思う。オークラ、完全に掴んだな。「パパラッター!」

【総評】

2013年は東京03にとって多忙を極めた年だった。バナナマンとの合同コントライブ『HANDMADE WORKS』、レギュラー出演している番組の舞台版『舞台・ウレロ☆未公開少女』、10周年記念悪ふざけ公演『タチの悪い流れ』などなど……それらの仕事のしわ寄せが、本作にはどっと押し寄せている。詰めの甘いコントがとにかく多く、面白いんだけれども……止まりでスッキリしない。三人のコント師としての演技力でカバーできるところはカバーしていたように思うが、それでも、ここ数年の公演において最も力不足な内容になってしまっていたことは否定しようがない。もし、オークラが最後のコントでしっかり締めていなければ、とんでもないことになっていたのではないだろうか。ただ、それでも、凡百のコントと比較すれば、及第点の出来ではあったとも思う。正直、ここ数年の単独公演で披露されるコントの鉄板ぶりは凄まじかった。ここらで一度、ガス抜きするのも悪くない……とか言ってしまえるのは、ファンのひいき目なんだろうか。

ちなみに。本作には、特別追加公演で披露された『飯塚のやりたいこと公演』『豊本のやりたいこと公演』『角田のやりたいこと公演』の模様が、特典映像として収録されている。本当にそれぞれがやりたいことをやっていて、三者三様の魅力が楽しめる内容になっている。お笑い好きとしては、飯塚の「テレビで一度しかやったことがないコントの再演」を推薦したいところだが、どうしても観てもらいたいのは豊本の「自分の本当の気持ちを手紙に書いて伝えたい」。とんでもないことになってしまうので、是非とも観ていただきたい。副音声も聴いてもらいたい。更にとんでもない事実が発覚するので。とんでもないですよ。


■本編【129分】

「キャスト紹介「ピアノ曲 ROKOTSU」」「最終日」「オープニング曲「露骨くらいがちょうどいい」」「気遣い」「九ちゃんラーメン食品 世界進出プロジェクト」「めんどくさい親友」「社交捨て台詞ダンス」「市民の味方」「おまわりさんの押収品」「アニバーサリーウォッシュ」「クイズ・アニバーサリーウォッシュ」「魔が差して」「聞きたかったわけじゃない」「帰省にて」「エンディング曲「でも生きるけど」」

■特典映像【57分】

「飯塚のやりたいこと公演」「豊本のやりたいこと公演」「角田のやりたいこと公演」

■音声特典:東京03の三人による副音声