菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バカリズムライブ「COLOR」』+『バカリズムライブ「なにかとなにか」』

バカリズムは天才である。

“天才”と称される芸人は少なくない。例えば、ビートたけし松本人志太田光……など、ある特定の時代において多大なる影響力を持っていた芸人に対して、大衆は“天才”という表現を頻繁に用いている。確かに、彼らの芸は多くの人を魅了したが、その意味では“天才”というよりも“カリスマ”という表現の方が適切であるように感じる。

そもそも天才とは、どういった人のことを示しているのか。落語界の異端児・立川談志は、かつて【天才とは質と量がないとイケナイ】と定義し、その上でレオナルド・ダ・ビンチと手塚治虫を天才として挙げていた。質と量の両立。その基準でいえば、確かに先の三人は天才といえるのかもしれない。芸人としての仕事だけに留まらず、文筆、音楽、映像制作など、彼らは実に様々な分野に挑戦し、そこに足跡を残している(一部に対しては反論があるかもしれないが……まだ途上なのだと考えれば、いくらか合点もいくだろう。いかないヤツは屁ぇこいて寝ろ)。

その意味では、やはりバカリズムは天才である。

フリップ漫談が出来る。コントが出来る。大喜利が出来る。映画学校出身で演技も出来る(コンビ時代に朝ドラ出演経験アリ)。アイドル番組の司会が出来る。ラジオのパーソナリティも務めている。OLになりきって書いた日記を書籍化している。『バカリズム THE MOVIE』で(ほぼ)映画監督を務めている。レギュラー番組『オモクリ監督』で定期的にオリジナル映像作品を発表している。火曜夜10時から放送されている連続ドラマ『素敵な選TAXI』の脚本を手掛けている。

とにかく色んなことに手を出しているし、どれもクオリティが高い。なにより、どの仕事でもきちんとバカリズムらしさを残している。決して器用貧乏ではない。これらの多種多様に渡る活動に加えて、定期的に単独ライブも開催しているというのだから、もはや無敵と言ってもいいのではないだろうか。そろそろ天才であるが故に非業の死を遂げてもおかしくないレベルだと思うので、国が重要無形文化財に指定してもいいんじゃないか。うーん。

 

バカリズムライブ「COLOR」 [DVD]バカリズムライブ「COLOR」 [DVD]

(2013/12/25)

升野 英知

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バカリズムライブ「COLOR」』は、そんなバカリズムが2013年に開催したライブの模様を収めた作品だ。ライブは8月16日~18日にかけてシアターサンモールで行われ、本編には18日の公演を収録している。タイトルにもあるように、本作のテーマは「COLOR」。様々な色を基調としたコントが、まるで絵を描いた後のパレットの様に美しい彩りを見せている。しかし、そこで繰り広げられているのは、あくまでもバカリズムのコント。個性的で、魅力的で、底意地の悪い笑いが満ち溢れている。

本編に収められているコントは、バカリズムが「COLOR」にまつわる様々な言葉を辞書で引いていくプロローグを除いた全6本。人間の世界にひっそりと紛れ込んでいる鬼がその実態を明かす『赤い告白』、偏見を行動原理としたアンチヒーロー“偏見仮面”が今日も人々を偏見の海へと飲み込んでいく『青い偏見』(カンケ作曲によるテーマソングが秀逸)、自宅でこっそり女装している姿を妻に目撃された男の言い分とは?『黄昏の衝撃』など、いずれのコントでも、バカリズムのセンスが的確に反映された笑いを楽しむことが出来る。

私のお気に入りは『白い愚痴』。真っ白な衣装に身を包んだバカリズムが、“野球”というスポーツ競技そのものになって、自身を取り巻く様々な事物について愚痴をこぼす……というコントだ。現実には絶対にありえないシチュエーションであるが故に、その話には、ちょっとした違和感を覚える箇所が幾つも見られる。この違和感がなんとも面白く、それでいて心地良い。コンビ時代のコント『屋上』が、丁度こういった違和感を取り入れたネタだったように記憶している。

「あとやっぱ、松井秀喜選手ですよね。まあ、先日ボクを引退しましたけれども」

その一方で、野球ならではの用語や話題、あるあるネタを取り入れて、いわば野球ジョークとでもいえるような分かりやすいボケを散りばめることで、違和感を楽しめない人でも笑えるように努めている。作品としてのクオリティの高さを目指すのではなく、あくまでも観客を笑わせるための工夫が、そこには見える。

「オリンピックの土、持って帰りましたもん。あまりにも悲しくて」

小道具を一切要しないストイックな姿勢もカッコイイ。舞台にはスタンドマイクとバカリズムだけ。それ以外には何も出てこない。自身の話術に自信が無ければ出来ない手法だろう。……意図せずしてダジャレになってしまった。いや、本当に。狙ってないって。

全体的に、コントのクオリティが安定して高く、当時のバカリズムの実力をしっかりと提示している印象を受ける本作。バカリズムのコントを観たことがないという人に、素直に薦められる作品になっているといえるだろう。……だからこそ、ライブで披露されたネタは、全て収録してもらいたかった! 聞いたところによると、実際のライブでは『COLORFULな欲望』というネタが演じられていたらしい。どうやらスクリーンを用いた歌ネタだったらしいので、版権的な理由でカットされたのだろう。なるほど。言われてみれば、確かにバカリズムの特技であるイラストを扱ったコントが本作には欠けている(イラストを扱った幕間映像はあるけれど)。もし、このネタが収録されていれば、本作はより完璧に近いカタチになっていたのではないかと思うと、なんとも残念な話である。いや、実に惜しい……。


■『バカリズムライブ「COLOR」』本編【90分】

「プロローグ」「赤い告白」「青い偏見」「白い愚痴」「緑川キャスター」「黄昏の衝撃」「黒い理由」

■『バカリズムライブ「COLOR」』特典映像【9分】

バカリズムのCOLOR診断」「偏見仮面のテーマ フルVer.(カラオケ)」


バカリズムライブ「なにかとなにか」 [DVD]バカリズムライブ「なにかとなにか」 [DVD]

(2014/11/26)

バカリズム

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バカリズムライブ「なにかとなにか」』は、『バカリズムライブ「COLOR」』の翌年にあたる2014年に開催されたライブの模様を収めた作品だ。ライブは7月31日~8月3日にかけて草月ホール(会場が大きくなっている!)で行われ、本編には3日の公演を収録している。先の『COLOR』で感じさせた色彩が跡形もなく消され、白と黒だけで描かれた、ただただシンプルなパッケージが妙な存在感を放っている。それはなんだか、陰と陽、光と影、太陽と月が対峙しているかのようにも見える。そこまで深い意味は無いのだろうが。

本作には様々な「なにかとなにか」をモチーフとした全7本のコントが収められている。とはいえ、「なにかとなにか」の関係性に、さほど深い意味はない。やっぱり、やっていることは、いつもの個性的で、魅力的で、底意地の悪いバカリズムのコントである。戦略型カードゲームで対決する二人の前に思わぬ敵が立ちはだかる『知恵と戦略』、一休さんのトンチに対して期待し過ぎてしまった足利義満の困惑ぶりを描いた『屏風と虎』、コンビニ強盗を目撃した男が警察に犯人たちの服装を伝えようとするのだが……『目撃と証言』など、どのコントもシンプルにくだらない。

私のお気に入りは『理性と本能』。過去の出来事について語るサングラスの男。男の名は篠崎満男。篠崎は10年前、なっちゃんという女性と付き合っていた。とても明るくて、家庭的だった彼女。将来は、彼女と結婚したいとすら考えていたという。しかし、ある日彼女から一本の電話がかかってきた。

「僕は「どうしたの?」と聞くと、彼女は声を震わせながら、こう言いました。「満男くんを裏切ってしまった」と……」

話を聞いてみると、なんでも昨夜、大学時代のサークル仲間の飲み会があって、お酒の弱い彼女はそこで泥酔してしまい、そのまま先輩のマンションへとついていってしまったのだという。そして……。何度も謝ってくる彼女のことを篠崎は許してあげたかった。しかし、彼らは別れることになってしまった。どうして、彼女を許してあげられなかったのか。篠崎は当時の心境を述懐する。

「ただ、こうして今、冷静になって思い返してみると、あの時、もちろんショックだったんですけども、ショックだったのと同時に、心のどこかで……何故か、何パーセントか、ほんの少しだけ、何パーセントかだけ、興奮していた自分がいました」

過去の思い出を語っている現在の“理性”と当時に心の中で思っていた“本能”が交差して、一つのカタチとなって昇華される行程がなんともバカバカしい。どういうカタチになっているのかはネタバレになってしまうので書かない。ただ、東京03のライブではお馴染みとなっているあの人が協力しているだけあって、それのクオリティはかなり高い。是非とも実際に観て確認してもらいたい。

全体の印象としては、『COLOR』ほどには完成されていないが、以前よりもコントに対して前傾姿勢になっているように感じた。思うに、テレビでもセンスを発表する場を多く与えられるようになったバカリズムが、自己表現としてのコントを手掛けるようになったのではないか……というのは、あまりにも根拠のない推論に過ぎないが。ただ、バカリズムの出身地である福岡県をモチーフとしたコントや、女の子の苦手なところを全身全霊を込めて演じきったコントなど、彼の内面(もといバックボーン)が垣間見られるネタが多かったのは事実だ。

天才・バカリズムの次なる一手を期待せずにいられない、未来を臨めた一品であった。


■『バカリズムライブ「なにかとなにか」』本編【100分】

「プロローグ」「知恵と戦略」「屏風と虎」「理性と本能」「母なる星と母なる音」「目撃と証言」「女子と女子」「銅と銀」