菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『スパローズ ビジネスクズ』

スパローズ ビジネスクズ DVD (<DVD>)スパローズ ビジネスクズ DVD ()
(2013/11/06)
不明

商品詳細を見る

“真面目系クズ”という言葉を見かけ、目を疑った。

真面目なのにクズとはどういうことか。私のイメージでいえば、真面目というのは図書館に定期的に通うようなメガネ女子のことであり、クズというのはパチンコ屋の駐車場に我が子を置き去りにするろくでなしヤンママのことである。つまり、真面目系クズという人は、図書館で借りた本を駐車場に置き去りにする人ということか。いやいや、そんなわけがない。それは単なるドジっ子だ。ていうか、どうして想定される人物がどちらも女性なのだ。こんな時にスケベ心を出してどうする。

具体的な答えが思い浮かばなかったので、困ったときのグーグル先生に助けを求めたところ、すぐさま回答を発見した。なんでも、真面目系クズというのは、一見すると真面目に見えるけれど、ただ楽な方向へと流れているだけで、何の主体性も持たない人のことを示した言葉らしい。……なんじゃそりゃ。そんな人なんて何処にでもいるではないか。そこにも、ここにも、あそこにも。誰しもがいちいち物事に対して熱狂しないし、集中しないし、埋没しない。主張もしないし、意見も持たないし、我先にと食いつかない。誰だって、そういった一面は持っている。クズでもなんでもない。そんな程度のダメさでクズを名乗るとは、まったくもって言語道断である。一刻も早く、スパローズの単独ライブを収録した『ビジネスクズ』を鑑賞して、本当のクズというものを真面目に勉強した方がいい。

 

スパローズは、福岡県立八幡中央高校のサッカー部で出会った大和一孝森田悟によって、1995年に結成された。コンビ名は二人がサッカー部で履いていたスパッツに由来しているという。当初は福岡吉本に所属していたが、後にワタナベエンターテインメントへ移籍し、現在は浅井企画に身を置いている。『キングオブコント』では2度の準決勝進出を果たし、『THE MANZAI』では3年連続で認定漫才師に選出された。漫才・コントともに評価されている、実力派のコンビといえるだろう。しかし、博打と酒が趣味ということもあってか、清廉潔白な芸人が多い現代において“キングオブクズ”“クズ界の貴公子”などの異名を持っている。本作には、そんな彼らが2013年5月に中目黒ウッディシアターで開催した、第2回単独ライブの模様が収められている。ちなみに、第1回単独ライブのタイトルは『クズ&クズ』。ゆるぎない。

ライブは二人の漫才で幕を開ける。冒頭でいきなり「なんで来た!?」と、のけぞりながら何処かで聞いたようなイントネーションで絶叫する大和。他人のギャグをパクると同時に客の意志を全否定するという、素晴らしいクズのスタートダッシュである。続けざまに、懐から5,000円を取り出し、「今すぐ! 帰ってくれるっていう方に! 5,000円(をプレゼント)」「伝説が欲しいんです!」と客に訴えかける。伝説の為に身銭を切るとは……なんとストイックなみっともなさだろう。遂には、DVD収録のためのカメラが入っていることを受けて、前回の単独ライブDVD(※一般流通されていない)の値段の内情について暴露し始める始末。まだライブが始まって5分も経過していないというのに……恐るべき高密度クズである。何が恐ろしいって、まだ漫才のマクラに過ぎないというあたりが、実に恐ろしい。肝心の本ネタは『チョイ足しクズ』。様々な人や物に大和が言葉をチョイ足しして、一気にクズにしてしまうという、大喜利要素の強い漫才だ。しっかりと練り上げられているのに、全体から滲み出るクズ臭がたまらない。……これが本当の真面目系クズなのでは?

ここからのネタはコントが主。売れない芸人としてのヒガミネタミソネミを多分に含ませている漫才とは違い、お芝居の様相を呈したコントならば、クズの要素は薄れるのではないだろうか……と思いきや、ここでも彼らのクズさはフルスロットル。二人の保育士が担当している児童で賭け事に興じる『保育園』、伝説の勇者が世界を救うよりも実演販売のバイトを優先しようとする『勇者』、結婚披露宴に送れてやって来た幼馴染みの背中には謎のペイント跡が……『結婚披露宴』など、いちいち金銭が絡んでいるところが実にスリリングだ。とりわけ、ライブを締めくくるコント『親子』は、クズの父親によってクズを指南されてきた息子が真面目になろうとするネタで、彼らのクズのセンスが大いに反映されている。

父「オレはなあ、母さんの財布からまだ金抜いてるぞ! ……週六でな」

子「週六!? 逆になんで週一回抜いてねえんだよ!」

父「それは! ……母さんを愛しているからだ」

子「どんな愛情表現だよ!」

この歪みが実に素晴らしい。

なお、ライブ本編には、【クズは無駄が嫌いです】という名目の元に披露された『ボツネタ集』、ライブが赤字になりそうなのでお客さんにお金を募るという衝撃的な訴えで始まる『漫才』(思わずボケ役の大和が「何が“ビジネス”クズだよ!」と絶叫)も収録されている。ちなみに、こちらの漫才のネタは『芸人卒業式』。芸人を卒業する大和が、これまでにスパローズが経験してきた様々な出来事を、卒業式の学生の様に振り返る漫才コントで、とてもドキュメント性が高い一品となっている。「18年目! ビックリして、腰を抜かした、給料……」のくだりは、本当に衝撃的だ。お笑いブーム後の今の時代に、あえて芸人を志している人に是非とも観てもらいたい。夢も希望もあったもんじゃない。

と、ライブ本編だけでも、真面目系クズが裸足どころか全裸で逃げ出しそうなほどのクズクズしさで充満している本作だが、そのクズ濃度が最も高いのは、特典映像の『周囲のゆかいなクズたちRETURNS』である。この特典映像、スパローズの周囲に存在するという何処の誰とも分からない多種多様のクズたちが二人によって紹介されているというだけの代物なのだが、どのクズたちも非常に振り切れていて、正直なところエグい。漫才やコントで笑いにデフォルメされたクズたちとは比べ物にならない、ガチンコのクズさ加減なのである。そのエグさが故に、およそ14分半という短い収録時間にも関わらず、鑑賞後は精神的な疲労感で動けなくなってしまった。この人たち、本当に実在するの?

真面目系クズを自称する人たちには、本作を鑑賞してもらってしかと噛み締めてもらいたい。「私はまだマシだ」と。


■本編【約65分】

「漫才」「保育園」「うるるん滞在記」「勇者」「結婚披露宴」「ボツネタ集」「漫才」「円周率」「親子」「終演ごあいさつ」

■特典映像【約14分】

「周囲のゆかいなクズたちRETURNS」