菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『bananaman live Cutie funny』+『bananaman live Love is Gold』

私が初めてバナナマンのコントを目にしたのは、2002年3月のことだった。

彼らが演じていたネタは『スライドボーイズ』。謎の音楽グループ・スライドボーイズに扮した二人が様々なパフォーマンスを繰り広げる……というコントで、『爆笑オンエアバトル』第4回チャンピオン大会セミファイナルで披露された。だが、当時の私はバナナマンというコンビを認識していなかったので、“お笑いコンビが架空のグループに扮する”ことのおかしみを、正しく理解することが出来なかった。その後、『ロープすりぬけ術』『合コン』などのコントを観たが、私がバナナマンに惹かれることはなかった。『爆笑オンエアバトル』のスペシャル番組で『張り込み』がオンエアされた時も「どうして、こんな何も起こらないコントがわざわざ選ばれたんだ?」と疑問に感じた。

そんな私がバナナマンの単独ライブに興味を抱くようになったのは、『爆笑オンエアバトル』の公式本で、彼らがこう紹介されていたからだった。

【コントの完成度は都内随一。日村のキャラはキャラづけを要される芸人たちの憧れの的。そして、設楽の頭脳から生まれるネタの数々を見ようと、彼らの単独ライブには芸人たちが多く訪れている。】

その頃、『爆笑オンエアバトル』をきっかけに若手芸人のネタに興味を抱くようになり、ラーメンズと運命的ともいえるような出会いを果たしていた私は、更なるコントの世界を求めていた。この一文は、そんな私の背中をそっと押してくれたのである。そうして鑑賞したのが、バナナマンの単独ライブを収録した『激ミルク』。なんとなく躊躇させられるタイトルだった。理由はない。ただ、生理的に、そこはかとない不快感を覚えたように記憶している。ラーメンズのシャープな雰囲気とは違った、ちょっと生臭いニュアンスのタイトルに物怖じしたのかもしれない。

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(2002/02/21)
バナナマン

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しかし、本編を再生してみると、その笑いの世界にすぐさま魅了された。動物園で飼育員をしている叔父さんに講演会でカバの話をしてもらうようにお願いするコントだ。どうでもいいようなやりとりが続いているだけなのに、とてつもなく面白かった。日常的で生活感の漂う会話の随所に含まれる無駄さ、無意味さ、下らなさ。それらをバナナマンは舞台上で再現し、尚且つ笑いへと昇華していた。『激ミルク』には、あの『張り込み』のロングバージョンも収録されていた。腹を抱えて笑った。何が面白いのか分からなかったコントが、一転、大好きなコントになった。直後、誘拐を描いたコントにまた魅了された。お笑い芸人のライブとは思えない、冗談抜きの緊張感。日常も、非日常も、ひっくるめて自分たちの世界にしてしまうバナナマン。彼らの世界に感動した私は、その後もライブDVDをチェックし続けていくことを決めた。

あれから12年。バナナマンの状況は一変した。シニカルな視点から切り込んだコントを多く演じていた彼らは、いわゆるアングラ色の強いコンビだった。だから、テレビには合わない。そう思われていた。盟友おぎやはぎが「バナナマンが面白い」とテレビ関係者に言っても、「面白いんだけどねえ……」と相手にされなかったという話が、その事実を裏付けている。ところが、蓋を開けてみたら……世の中、何がどうしてどうなるかなんて考えたところで何の意味もないんだなと、しみじみ考えさせられた。予想だにしていなかった事態へと発展してしまうのが、現実なのだ。

2015年現在、バナナマンは時代の最先端を悠々と歩んでいる売れっ子芸人の一組である。

 

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(2014/01/15)

バナナマン

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2013年8月15日~18日にかけて俳優座劇場で開催されたライブを収録。

この年、結成20周年を迎えたバナナマンの芸は、いよいよ円熟の領域へ。かつてのヒリヒリした鋭さはすっかり鳴りを潜めてしまったものの、経験と実績によって獲得した味わい深い演技と磨き上げられたバカバカしさが迸る脚本によって生み出されるコントは、気張らずに笑うことが出来る心地の良いユルさに包まれている。ただ、ちょっとばかり熟しすぎてしまったのか、本作では我らが“cutie funny”こと日村勇紀がグジュグジュのゾンビに大変身。とはいえ、そこは腐っても日村。不気味だけどコミカルなゾンビを見事に表現している。ストーリーもシンプルで、ただゾンビになった日村を見せたかっただけなのが伝わってくるのがいい。実際、それだけで画が保つのだから素晴らしい。タイトルもシンプル。他のコントのタイトルは殆ど英語表記なのに、これだけは『日村がゾンビになっちゃった。』……そのまんま!

この他のコントも良作揃い。日村との待ち合わせに遅刻してしまった設楽が遅れてきた理由を長々と説明する『old man』は、観る者の想像をかきたてるコントだ。基本的には、設楽の説明だけで進行しているので、正直なところ絵的には少し地味。でも、だからこそ設楽の話術と日村のリアクションを、かなり純度の高い状態で楽しめるようになっている。漫才に置き換えることも出来そうだ。個人的に気に入っている『experienced singer』は、ディナーショー前の歌手とマネージャーによる楽屋でのやり取りを描いたコント。歌手を演じている日村のちょっと過剰な演技が、芸能界という特殊な空間で生きてきた人物の生き様を上手く切り出している。少し人情ドラマっぽくなる場面が非常に良い。ベタな青春ドラマを愛して止まない彼らの感性が新しいカタチで表出したように感じられた。もはや単独ライブの定番となっているフォークデュオ『赤えんぴつ』は、設楽が見たという夢の話が思わぬ方向へとこじれていく。今や設楽の剥き出しの狂気が楽しめるのは、このコントだけになってしまった気がする。だからこそ有難い。

ライブのエンディングを飾るのは、“だるま縁結び祭り”の夜、ある一組のカップルに起こったちょっとした奇跡を描いた長尺コント『Lucky charm』。第三のバナナマン・オークラの存在が強く感じられる逸品である。一癖も二癖もあるキャラクターとナンセンスな設定で誤魔化されているが、ある状況を複数の視点で切り取るという映画の様な構成が取られていて、その練り込みは半端じゃない。また、コントのラストシーンに、あの場面を選んでいるところがいいんだよなあ。とてつもなく凄いことをやっているのに、まったく凄いことをやっていないように感じさせる、渾身のユルさ。バナナマンのコントを観たことがない人にもオススメできる一品である。


■本編【129分】

「Cutie funny」「old man」「上下左右ゲーム」「experienced singer」「美味しい中華屋さん」「日村がゾンビになっちゃった。」「日村ゾンビを驚かそう」「赤えんぴつ」「手作りプレゼント」「Lucky charm」


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(2015/01/14)

バナナマン

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2014年7月31日~8月3日にかけて俳優座劇場で開催されたライブを収録。

バナナマンといえば、かつては人間をシニカルな視点で捉えているネタを作っているイメージが強かったが、本作では、なんと「愛」をテーマにしたコントを演じている。ジョークではない。いつだったか、ポルノグラフィティが『幸せについて本気出して考えてみた』と歌っていたように、本作はバナナマンが「愛について本気出して考えてみた」末に生み出されたコントの目白押しなのだ。実際に、愛について考えるコントもある。『wish』というネタがそれだ。このコントでは、ある大金持ちが「愛」と「お金」のどちらが大事なのかを考え、様々な人たちに話を伺い、正解を出そうとする姿が描かれている。「私と仕事のどっちが大事なの?」問答と同様、この問題に明確な答えが出ることはない。だが、その愚直過ぎる疑問に、改めて「愛とは何か?」と考えさせられる。

この他のコントにも、愛が満ち溢れている。愛する女性を見つけた日村が強引に自宅へと押しかけようとするのを友人の設楽が必死になって止めるオープニングコント『CRAZY for YOU』は、日村の女性を愛する気持ちと設楽の日村を心配する気持ちがぶつかり合う愛のコントだ。これまでのバナナマンなら、日村がヒドい目に合う展開を描いていただろうところを、しっかりと設楽が身を挺して説得している。愛があるから突き放さない、見逃さない。笑いながらも、そのアツい友情に少しグッとくる。風俗店でプレイを終えた二人の会話を描いた『AKEMI』は、その一時的な関係性を超えた二人の一緒にはなれない哀しみを見せる。風俗嬢のアケミを演じている日村の画のインパクトが強烈だが、それでもちゃんと女に見えるところが素晴らしい。田舎町の定食屋を舞台に、二人の無関係な男たちが一人の女でつながる『LOVED ONE』も、また愛が駆け巡る物語だ。ストーリーはちょっと強引だけれど、田舎の定食屋の雰囲気が見事に再現されていて、思わず目を見張った。終盤のじわりと染み入る展開もバナナマンのコントとしては珍しく、彼らが更なる一歩を踏み出したように感じさせられる秀作だった。

しかし、本作といえば、なんといっても仕事帰りのサラリーマンと彼のことを子どもの頃から知っている妖怪“ひむどん”の交流を描いた『the Supernatural』だろう。ひむどんは2009年の単独ライブ『wonder moon』に登場し、強烈な印象を残したキャラクターだ。そして、サラリーマンの正体は、(恐らくは)その時にひむどんの相手をしていた設楽少年である。当時、ひむどんと一緒になって遊んでいた彼も大人になって、それに伴い、様々なしがらみに囲まれるようになった。だが、妖怪であるひむどんには、大人の事情は理解できない。近くて遠い二人の距離が、大人になるということの切なさを如実に表している。そんな二人(一人と一匹)に訪れる悲しい結末。久しぶりに、心の底から泣けるコントを観た。

次回の単独では、きっともっと凄いコントを見せてくれることだろう。有難いなあ。


■本編【128分】

「CRAZY for YOU」「wish」「50音ゲーム」「the Supernatural」「ノーリアクション日村」「AKEMI」「日村勇紀の「ネクタイ芯抜き講座」」「赤えんぴつ」「アダ名」「LOVED ONE」