菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『8号線八差路(ハチハチ)』(ハライチ)

8号線八差路(ハチハチ) [DVD]8号線八差路(ハチハチ) [DVD]

(2013/08/21)

岩井 勇気、澤部 佑 他

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ハライチといえば、どうしても思い出さずにはいられないのが、『THE MANZAI 2014』ファイナリスト発表時での彼らの扱いである。バラエティ的にはイジられて美味しいという風にも言われていたが、その事実を初めて知ったときには、ちょっとばかり不快感を覚えた。既にテレビバラエティの現場で安定したポジションについているハライチが『THE MANZAI』の様な演芸の賞レースに出てくるということは、漫才師として出るべきだという確固たる意志があったからに違いない。それをバラエティのノリで軽率にイジくることは、正直言って、あまり気持ちのいいものではない。ただ、そういうノリでイジっても大丈夫だろうと思われていること、それもまたハライチの強みではあるのだから難しい。“ノリツッコミ”という既存の手法を元に新しい漫才スタイルを開拓し、完全に自らの手中に収めてしまっているハライチは、本来ならば天才と称されても可笑しくないのだ。しかし、軽くて、浅くて、青い存在感によって、彼らは未だに大衆を油断させている。スゴいのに、そのスゴさが伝わらない。ある意味、最強なんじゃないだろうか。

『8号線八差路(ハチハチ)』は、そんなハライチの四枚目となる漫才DVDだ。リリースは2013年と少し前だが、2015年1月時点での最新作である。過去の作品と同様、真っ白な背景をバックにしたスタジオでの収録(但し、パッケージにも写し出されている“8号線八差路”の交通表示が、彼らの後ろにデーンと構えている。……これ要るか?) 収録されている漫才は全部で11本。そのうち5本が、岩井のボケをきっかけに澤部がノリ続ける“ノリボケ漫才”の手法を取っている。……先ほど、絶賛した後でこんなことを書くのはアレなのだが、正直なところ、5本もノリボケ漫才を観させられると流石に飽きる。そもそも、ノリボケ漫才という手法は、当初のテーマから少しずつ逸脱していく展開になっているので、テーマごとの違いに大きな差が見えにくい。だから余計に飽きる。困ったもんだ。勿論、岩井のボケも、澤部のノリも、細かい所では違いがあるのだろうが……。

その一方で、ノリボケのスタイルを取っていない、いわゆるボケとツッコミによって成立するオーソドックススタイルの漫才には、なかなか興味深いネタが多かった。ノリボケ漫才では、どうしても澤部のノリが注目を集めてしまうために、岩井のボケが単なるフリとして処理されてしまうことが多い。ところが、オーソドックススタイル漫才だと、岩井のボケの個性がちゃんと目立つのだ……って、考えてみれば当たり前の話なのだが。これまで、あまりにも澤部が目立っていたために、その当たり前のことにちょっと驚きを覚えてしまった。岩井が出題する「究極の選択」に澤部が苦悶する『究極の選択』、岩井が拾ってきたラブレターのフリーダムな内容に澤部が困惑する『ラブレター』、一人暮らしを始めようと考えている岩井が住む予定の場所がダサすぎて澤部の苦笑が止まらない『一人暮し』なども非常に面白かったが、とりわけ印象に残っているのは『ももたろう』と『ヒーローマン』。

『ももたろう』は、そのタイトルの通り、昔話の「桃太郎」を主題とした漫才だ。その内容は、「桃太郎」がうろ覚えになってしまったという岩井が、そのストーリーを澤部に話し、正しいかどうかを確認してもらう……というもの。ありがちなテーマにありがちなやり取り、更にありがちなボケが展開しているにも関わらず、ありがちな漫才にはなっていない。ここが凄い。よくあるパターンの漫才だと思わせておいて、まったく違った、「桃太郎」のダークサイドとでもいうような物語を紡ぎ始めるのである。それまでの流れがあまりにも自然で、気が付けば引き込まれていた。長い時間を要するためにテレビ向けではないとは思うが、いいネタだった。

一方の『ヒーローマン』は、岩井が創作したという動物の特徴を捉えたヒーローたちを、ヒーロー登場シーンのナレーション風に紹介していく漫才だ。一つ一つのボケに澤部がしっかりと対応していくスタイルは、ノリボケ漫才のそれを思わせる。しかし、対する岩井のボケが、単なるフリ以上の存在感を放っているため、澤部の一人舞台では終わらせない。ブラックな要素を盛り込んできたかと思えば、まったく関係のないものを紹介し始め、最終的にはヒーローとは無関係な境地へ到達してしまうバカバカしさがたまらない。こちらも長い時間を要するためにテレビ向けではないだろうが……どこかで披露してもらいたい。ハムスターマンとアリクイマンのくだりがたまんないんだよなあ……。

特典映像は、澤部が地元・原市の魅力的な場所を岩井(原市在住)に案内したり、岩井が澤部を自宅(澤部の)でもてなしたりする様子を撮影した長編ロケ「相方をもてなそう!」と、本作のパッケージイラストを担当した漫画家・稲葉そーへーとのスペシャルトークを収録。二人の地元を巡るロケは第一作『ハライチ』(2010年2月リリース)でも行われているが、当時出会った人が少し出演していて、なにやら懐かしい気持ちになった。その他、二人の思い出の場所に出向いたり、ハライチ結成のきっかけを作った元メンバーが登場したりと、ハライチの原点を感じられる映像となっている。基本的には和やかだが、二人がナベプロの養成所を選んだ理由がちょっとアレで笑ってしまった。まあ、高校生の頃というと、そういうものか。

THE MANZAI 2015』の時は是非、決勝の舞台に。


■本編【79分】

「教師になりたい」「料理」「オリジナルクイズ」「究極の選択」「ロボット」「ラブレター」「ももたろう」「神」「ヒーローマン」「一人暮し」「キャッチフレーズ」

■特典映像【57分】

「相方をもてなそう」「ハライチ×稲葉そーへー スペシャルトーク」