菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『うしろシティ単独ライブ「それにしてもへんな花」』

うしろシティ単独ライブ「それにしてもへんな花」[DVD]うしろシティ単独ライブ「それにしてもへんな花」[DVD]

(2014/10/08)

うしろシティ

商品詳細を見る

松竹芸能所属の実力派お笑いコンビ、うしろシティが2014年5月に大阪(道頓堀角座)・東京(シアターサンモール)で開催した単独ライブより、5月25日の東京公演の模様を収録。うしろシティといえば、そのポップであどけないビジュアルに対して、阿諏訪が愛して止まないというバナナマンからの影響を多分に感じさせる人間をシニカルに捉えているネタのイメージが強かったが、今回は全体的に仕掛けで笑わせているコントが多め。前作『うれしい人間』に収録されていた傑作『病院』に心をえぐられた身としては(金子が切ない! ホントに切ない!)、些か肩透かしを食らったような気持ちになったが、とはいえ、どのネタも安定して面白かった。

取引先の社長が手もみをしながらじゃないと契約に乗り気になってくれないことに気が付いた男が必死に手もみしまくった結果……『契約』、恋人がいる友人に対抗してその場で空想した彼女との話をし始めた男の様子が少しずつおかしくなっていく『彼女』、銀行強盗の計画を練っている男たちが銀行のある部分に対して強い興味を抱き始めて話が上手く進まない『銀行襲撃』など、どのコントも適度な塩梅の面白さ。適度な塩梅……というと聞こえが悪いかもしれないが、深すぎず浅すぎない程度で気軽に楽しめるハードルの低さは評価すべき点だと個人的には思う。

とりわけ、興味を惹かれたのは、黒髪の美少女転校生がやってくるという青春学園ドラマにありがちな1シーンから始まる『放課後』。阿諏訪が意味深に笑うたびに、金子がその笑顔の理由を察して、観客には知らされていない真実を話し始める……という一つのパターンが広がっていく様が、実に良かった。コントが進むきっかけがニヤニヤ笑いっていうところも、ちょっと異色で面白い。シニカルさでいえば、『真面目な清掃員』もなかなか魅力的なコントだった。しっかりと仕事に取り組んでいる青年が昼も夜も働いている理由の衝撃と、その頑なさがたまらない。決して悪ではないんだけれど、なんとなく釈然としない感じの面白さは、バイきんぐの『隣人』を彷彿とさせた。こちらの倫理観を上手にくすぐってくれる。

思えば、うしろシティはたびたびコントに面白い仕掛けを施して、私たちを楽しませてきた。例えば、『寿司』のコントでは、寿司職人の親父が寿司を握りながら子どもたちのことについて語り始めると寿司が旨くなる、というナンセンスな仕掛けで笑わせてくれた。『喧嘩のやりかた』では、不良の身体についている謎の数字を順番に攻撃するとダメージが与えられる、というゲームのチュートリアルの様な仕組みをコントに仕掛けていた。非日常的だが突飛ではない絶妙な仕掛けを余すことなく使い切る彼らの贅沢さは、もうちょっと着目すべき点なのかもしれない。

特典映像は、ライブの特典映像に使われたと思われる、「相方の趣味に参加しよう! 阿諏訪編」「相方の趣味に参加しよう! 金子編」「manabuのファッションコーデ」の三本。「相方の趣味に参加しよう!」は二人のプライベートを垣間見せながらも、しっかりとお笑いを盛り込んでいる良作で、特に金子編が良かった。阿諏訪の趣味である【料理】に金子が参加するというテーマの元、二人が各工程をそれぞれで担当しながら餃子を作るのだが、とにかく金子の出来なさぶりが素晴らしい。先に金子の趣味である【スカッシュ】の映像を見ていると、余計にその腕白ぶりが楽しめる。いやー、30代半ばとは思えない。


■本編【76分】

「契約」「5分の遅刻」「彼女」「喫茶店の常連」「放課後」「銀行襲撃」「真面目な清掃員」「りんご」「旅行」「逃走」

■特典映像【17分】

「相方の趣味に参加しよう! 阿諏訪編」「相方の趣味に参加しよう! 金子編」「manabuのファッションコーデ」

■音声特典

うしろシティの副音声解説」