菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『エレキコミック 第23回発表会「Right Right Right Right」』

トゥインクル・コーポレーション所属のお笑いコンビ、エレキコミックが2014年5月21日から6月1日にかけて、東京・大阪・名古屋で開催した単独発表会より、東京公演(銀座・博品館劇場)の模様を収録。

私がエレキコミックのコントを初めて目にしたのは、2002年3月に放送された『爆笑オンエアバトル』第四回チャンピオン大会でのことだった。彼らが演じていたのは『お母さんに逢いたい』というバラエティ番組のコント。やついいちろうが司会を務めている番組に今立進が母親を探してもらうのだが、まったく見つからない……もとい、見つけようとしてくれない……という、なんともバカバカしいネタだった。なかなか面白かったように記憶しているのだが、結果は10組中9位という散々なもの。その後、エレキは二度のチャンピオン大会進出を経験しているが、いずれも厳しい評価を下されている。独特の緊張感が漂っているチャンピオン大会のステージにおいて、エレキコミックのコントはあまりにも軽過ぎたのかもしれない。だが、どこまでもバカバカしく軽快なコントこそ、彼らの本質だ。それは今でも変わらない。

例えば、本作のオープニングで演じられているコント『ダイオウイカ』。今立が“ダイオウイカ丼”を売りにしている定食屋に入ると、身体がダイオウイカの足に巻きつけられている店主のやついが登場する。この時点で既にバカバカしい。やついはご飯を盛った丼を今立に渡し、自分がダイオウイカの気をそらしているうちに足に食らいつくように提案する。ところが、今立が足に噛みつくたびにやついの身体を締め付けてしまうので、なかなか上手く食べられない。そこで、やついが取った決断とは……。シンプルかつ下らない設定でも、しっかりと笑い飛ばすことの出来るレベルのコントに昇華してしまう。エレキコミックらしさが光ったコントだ。

この後も、彼らならではのバカバカしいコントが続く。ドラマや映画でよく目にするワンシーンと似通った状況に遭遇したタクシードライバーが、更にドラマチックな展開を要求する『ドラマチックタクシー』。「ブスだから」という理由で野球部の応援を控えるように言われたチアガールが、著作権を侵害しない楽曲を駆使して、強硬の姿勢を見せる『チア』(ちなみに、『キングオブコント2014』準決勝において、エレキコミックはこのネタを披露したらしい。著作権を侵害していないのに公式DVDには未収録というところに、某著作権協会によるよからぬ陰謀を感じなくもない。)。今立が訪れた“恐怖居酒屋”は、幽霊や化け物の類が出るわけではない、とんでもない不潔さを売りにしていた!『恐怖居酒屋』。どのコントも、清々しいほどに何も残さない。何も残らない。

とりわけ、学校帰りのやついが腹痛に耐え切れず、草葉の陰に隠れてこっそり大便を放出していると、友人の今立が近寄ってくるという恐怖体験を描いたコント『帰り道』は傑作だ。以前から、エレキは「やっつんだっつん」という二人の学生をメインにしたコントを得意としていて、そのいずれもが非常に素晴らしい出来映え(やついほど、バカでハイテンションな学生が似合う芸人は他にいないのではないだろうか)なのだが、この『帰り道』はそこから更に一歩踏み出している印象を受けた。どうにも辛抱できなくて、とうとう草葉の陰での放出を余儀なくされてしまった理不尽な感じ、誰かに見つかってしまうのではないかという恐怖感、見つかってしまったときの絶望感、その全てがこの『帰り道』ではニュアンスとして再現されている。また、この危機的状況を脱する展開が、突き抜けていてサイコーに下らない。

これらバカバカしいコントがある一方で、エレ片で主に演じられている「やついのダークサイド」が垣間見られるコントもあるから、たまらない。まったく自分に対してリスペクトの気持ちを見せようとしない後輩に対して先輩ラッパーがやきもきする『説教』と、神社にやってきた少年が鳥居によじ登っている中年の男と遭遇する『おじさんと少年』がそれだ。特に『おじさんと少年』は、音楽業界に精通しているやついならではの目線が反映されていて、非常に面白かった。とりあえず、このコントを観た人は、これからハマショーを冷静に見ることが出来ないのではないだろうか。マネーとか歌っている場合じゃないよ、ホント。

特典映像は、入社以来エレキコミックを担当してきた事務所のマネージャー・上田航氏の小心を受けて、彼がこっそり開設していたTwitterアカウントでのツイートを片手に二人がお祝いのインタビューをする『上田航係長インタビュー(完全版)』を収録。なんとなくの思い付きでツイートしたとしか思えない言葉の数々をエレキコミックの二人に丁寧に引っ張り出されている様が非常に面白いが、同時に凄く心臓がドキドキするのは何故だろう……。


■本編【59分】

「ダイオウイカ」「オープニング」「帰り道」「ドラマチックタクシー」「チア」「説教」「恐怖居酒屋」「おじさんと少年」「エンディング」「エピローグ」

■特典映像【17分】

「上田航係長インタビュー(完全版)」