菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

あばれる君『あばれる君です よろしくお願いします。』(2014年5月28日)

先日、とあるトーク番組において、品川祐品川庄司)が「あばれる君に似ている」という主旨でイジられている姿を目にした。確かに、どちらも坊主頭で、似ているといえば似ている。だが、それ自体はどうでもいいことで、重要なのは、そこで特にあばれる君について、具体的な説明がなされていなかったという点である。それは、特に視聴者に説明しなくても、あばれる君のことは伝わる(=世間には既に知られた存在である)という前提を意味している。正直、この時点では、まだ私の中でのあばれる君は「『オンバト+』でじわじわと評価されているピン芸人」止まりだったので、その扱いに少し驚いた。恐らく、彼は私の知らないところで、着々と芸人としての知名度を上げていったのだろう。何処だ。

あばれる君はコントを得意とするピン芸人だ。ちょっとした問題に追い詰められている人間が、苦肉の策として選んだみっともない方法を、場違いなほど大袈裟に演じてみせることで笑いを生み出している……と、言葉にするのは簡単だが、実際に演じてみるのは難しい。もし、没個性な若手芸人が、彼のコントをそのまま演じたとしても、大した笑いにはならないだろう。あばれる君のコントは、彼自身が演じなくては意味がない。破裂寸前の風船のように感情をパンパンに詰め込んでいるようなあばれる君の演技は、人間の必死な姿を的確に映し出す。強い意志を感じさせる太い眉毛と感情豊かな表現を可能にさせる大きな目が、それを更に強調している。これらの要素を持ち合わせているからこそ、彼のコントは突出して面白くなる。無論、随所に散りばめられている、ワードセンスの魅力によるところも大きいのだが……。

そんなあばれる君にとって初めてのネタDVDとなる本作は、彼の傑作コントを寄せ集めたベスト盤だ。

『店長こだわりのグラタン』、『3年生 ~僕には守るものがある~』(※カンチョーのコント)、『高校野球 ~最後の夏~』など、代表作はほぼ網羅されているといっていいだろう。個人的には『ニートのヒーロー』が収録されていたことが嬉しかった。宇宙侵略軍に一般市民たちが攻撃されている様子をテレビで確認して、激しい怒りに震えているのに決して布団から起き上がろうとしないという、とてつもないバカバカしさ。本来のニートとは解釈が違っていたような気もしたが、そのズレを熱量の高い演技で完全に凌駕していた。観たことのないコントが幾つか入っていたのも良かった。『ひじ爆弾 ~重なり合わない点と点~』『ねぇ どこ?』『暴れん坊将軍』などは、そうそうテレビでもお目にかかれることはないだろう。『ねぇ どこ?』は、けっこうトイレで起こりがちなあるあるだよなあ……。

ただ、全体的には、ちょっと惜しい出来。初めてのDVD収録に緊張していたのか、あばれる君の演技が台詞を追っているように感じられたし、ネタ順も、設定が似ているコントが連続しているところがあって、ほんのり違和感を残した。そして、なにより……これは致し方のないことなのかもしれないが、コントに使われている鬼束ちひろの『月光』などの楽曲が似たようなオリジナル曲に差し替えられている点が、非常に残念だった。あの曲があってこその、あばれる君のコントだというのに……天下のナベプロがそういうところでケチってはいけない。

名刺代わりの一枚。悪くはないが、とにかく惜しい。


■本編【51分】

「店長こだわりのグラタン」「決死のウェディングケーキ」「露出狂 ~愛のテーマ~」「肘爆弾 ~重なり合わない点と点~」「ニートのヒーロー」「3年生 ~僕には守るものがある~」「3年生 ~みんなのために僕が行く~」「小説家志望 柳田勇」「8丁目出前先団地」「ねぇ どこ?」「ヒゲの生えた男」「暴れん坊将軍」「高校野球 ~最後の夏~」「当たり屋のお兄さん」