菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『シソンヌライブ[quatre(キャトル)]』(2015年9月2日)

「想像してみよう、いろんな気持ち」。テレビやラジオでたびたび流されるコマーシャルに、何を感じただろう。初めて目にしたとき、耳にしたときには、何かを感じたような気がする。だが、何度も何度も消費しているうちに、それはちょっとした雑音のように、或いは、日常にはびこる騒音のように、なんでもない背景として処理されるようになってしまった。しかし、改めて考えてみると、私たちはあまりにも多くの存在について、想像せずに生きてしまってはいないだろうか。

「強いって、どんな気持ち? なあ! 強いって、どんな気持ち?」

2015年5月から6月にかけて恵比寿・エコー劇場で、同年6月に石川教育会館で開催された『シソンヌライブ[quatre]』は、こんな問い掛けで幕を開ける。夕暮れ時の教室、机の上にノートと教科書を広げて自主勉強をしている堀内(じろう)の前にやってきた、クラスメートの長谷川の台詞だ。堀内は「長谷川くん、強いヤツに聞いてもらえるかな……」と突っぱねるが、長谷川は話を止めない。「アメリカ人って、どんな気持ち?」。話にうんざりした堀内は、とうとう我慢できなくなって、きっと長谷川を睨みつけて、唖然とする。そこに血まみれの長谷川が立っていたからだ。

センセーションなオープニングコント『聞かないでくれよ』が示すように、本作は全編を通して不穏な空気に包まれている。共同生活を始めるにあたって、彼氏が新しく買ってきたドライヤーを手にした彼女がコードを縛り上げて「しつけ」を始める『しつけ』。高校生の時はオシャレでイケていた弟が、大学で科学研究部に入部して喋り方が気持ち悪くなったことを兄が指摘する『大学デビュー』。路上で「汚い動物」について歌っている娘に動物病院を経営している父親が苦言を呈する『お父さんと美和子』。私を含めた観客は、彼ら彼女らの言動のズレを常識と照らし合わせて、無邪気に笑う。しかし、ふとした瞬間に気付かされる。果たして、これはどちらが正しいのか。もしかしたら、間違っているように見える方にも確固たる思想があって、彼らを冷めた目線で批判している方が、その本質を理解していないだけなのではないか……?

「そうか……五話目が楽しみだよ」

それらのすれ違いを経たからこそ、終盤を飾る『自由研究』『先生と野村くん』が美しい一筋の光となる。自由研究の課題発表の中にさりげなく(?)メッセージを組み込んだ野村くんと、そんな彼の気持ちを一身に受け止めた先生は、確かに気持ちを理解し合ったはずだ。思想や信念のぶつかり合いで見ず知らずの他人を言葉の暴力で殴り殴られがちな今の時代に、彼らがこういったコントを繰り広げる意味について考えてみようとも思ったが……それもまた、私の一方的な押しつけがましい感情でしかないのかもしれないと思い、止めた。

「想像して、共有しよう!」

あの日の夕焼けは、彼らにどう映ったのだろう。


■本編【82分】

「聞かないでくれよ」「しつけ」「俺の袋」「大学デビュー」「ことわれない女」「人間してる」「お父さんと美和子」「企画会議」「自由研究」「先生と野村くん」

■特典映像【26分】

「シソンヌライブ[quatre]メイキング」「シソンヌ金沢プチ観光」