菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「小林賢太郎テレビ3」(2012年10月17日)

小林賢太郎テレビ 3 [Blu-ray]

小林賢太郎テレビ 3 [Blu-ray]

 

2011年8月24日にBSプレミアムで放送された『小林賢太郎テレビ3 ~ポツネンと日本語~』に未放送映像を追加した特別編集版を収録。コントユニット「ラーメンズ」の頭脳であり、自作の舞台を手掛ける劇作家であり、“ポツネン氏”に扮して一人きりのステージを繰り広げるパフォーマーでもある小林賢太郎表現者としての魅力が凝縮されている。演出を手掛けるのはNHKエンタープライズチーフディレクターの小澤寛。小澤氏はこれまでの『小林賢太郎テレビ』でも演出を担当している。

番組のサブタイトルにあるように、本作のテーマは「日本語」。二人の外国人が怪しげな日本語を声に出して勉強する姿を描いたコント『日本語学校』シリーズで注目を集めた小林にとっては、永遠の課題であるといえるだろう。時に日本語を意味から解き放ち、時に日本語を分解して新たな言葉を創作し、時に日本語のニュアンスだけを抽出してきた『日本語学校』のシステムは、今もなお、小林の日本語に対するアイデンティティとして根底に存在している。そんな彼が、改めて日本語と対峙したとき、どんな笑いが生まれるのか。
オープニングアクトは『学校でアナグラム』。“黒板消し”“そろばん”“文化祭”などのように、学校と関わりの深い道具や行事の名前の文字を並べ替えて、まったく別の意味の言葉に変えてしまうパフォーマンスだ。……と、この説明だけだと、なんだか難しくて面倒臭そうに感じられるかもしれないが、その結果として生み出された言葉がバカバカしくて、なかなか面白い。分かりやすくイラストで可視化されているのも嬉しいところ。続く『そういうことではない展』も、言葉を可視化したコントである。ただ、こちらは実際に使われている言い回しが、そのまま絵や物体などのアートとして具現化している。話の種、社長の器、貧乏くじ……だからなんだと思わなくもない。でも、だからこそ、良いのである。
その後も日本語をテーマにした映像が続く。壺となった小林が日本語の釈然としない表現に平然と切り込んでいく『思う壺』、ロバート秋山の『トカクカ』を彷彿とさせる『トツカク』(もちろん発表されたのはこっちの方が先)、神社の一角でひっそりと繰り広げられる紙芝居の顛末とは?『ムゴン』、全ての言動が擬音だけで表現されている時代劇『擬音侍 小野的兵衛』……と、実に興味深いラインナップとなっている。個人的には『のりしろ』がお気に入りだ。三つの異なるシチュエーションが、それぞれの状態を表すオノマトペ(「トコトコ」「カチカチ」「カンカン」など)で不思議なつながりをみせていく。小林は似たようなコントを以前にラーメンズでもやっていた(『モーフィング』『同音異義の交錯』)が、テレビならではの凝った舞台美術とシンプルで端的な構成に魅了されてしまった。オチも美しい。
……と、ここまで本作の内容を評価してきたが……この『小林賢太郎テレビ』というシリーズ全体にいえることだが、一般的にはあまり知られていない小林の実力を視聴者に知ってもらうためなのか、番組内で彼のことをやたらと持ち上げようとするきらいがある。それが、むしろ一般の視聴者を遠ざけているような気がしないでもないのだが、実際のところはどうなのだろう。例えば、既にそれなりの知名度を得ているバカリズムがメインの『番組バカリズム』のように、何の紹介も説明もなく、唐突に番組が始まったとしたら、どういう風に受け止められるのだろうか。一度、試してもらいたい。そういう何も知らない視聴者をアッと驚かせる仕掛けこそ、小林賢太郎の真骨頂だと思うので……。


■本編【63分】
「イントロダクション」「学校でアナグラム」「そういうことではない展」「ドキュメンタリー」「思う壺」「のりしろ」「トツカク」「言葉ポーカー」「ムゴン」「ワインレストランにあるまじき風景」「思う壺」「擬音侍 小野的兵衛」「御存知!擬音侍 小野的兵衛」「お題コント制作ドキュメンタリー」「お題コント「双方向テレビ」」「学校でアナグラム