菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『うしろシティ第6回単独ライブ「すごいじゃん」』(2015年9月16日)

松竹芸能所属のお笑いコンビ、うしろシティが2015年6月から7月にかけて東京・大阪・名古屋・福岡の四都市で開催した単独ライブより、6月28日・東京公演の模様を収録。回を増すごとに開催地の範囲を拡大させ、着実にライブ芸人としての道を歩んでいる彼ら。その表現力もしっかりと鍛え上げられているようで、今年開催された『キングオブコント2015』ファイナリスト十組の中にも選出された。もしかしたら、ライブタイトルの「すごいじゃん」というのは、そんな自らの進化を客観的に捉えて付けられたのかもしれない。ちなみに、うしろシティはこれまでコンテンツリーグからDVDを発売していたが、本作の発売元はTBSラジオ&コミュニケーションズに替わっている。彼らがレギュラー出演しているTBSラジオの番組『デブッタンテ』からの繋がりなのだろうか。

以前にも書いたが、うしろシティのコントは丁度良い。オーソドックスではないがマニアックでもなく、難しすぎることはないが簡単すぎることもなく、アバンギャルドではないがコンサバティブでもない、観る者のコント欲に適度に応えてくれる塩梅が実に丁度良い。設定も普遍的で共感を覚えやすく、良い意味でテレビ的な笑いを作ることの出来るコンビだと思うのだが……多少の揺り戻しが起きているとはいえ、まだまだネタ番組が少ない昨今のテレビバラエティから浮き上がってくるのは、なかなか難しそうだ。『キングオブコント2015』で頑張って結果を残してもらいたい。

そんな彼らの丁度良い塩梅のコントが、本作でも多く演じられている。高校時代の友人が開催した個展を訪れてみると、まったく理解できない不思議な絵ばかりが展示されていて、それなのに感想をしつこく求められてしまう『個展』、古道具屋で時間を止めることが出来るという不思議な時計を見つけ、試しに使ってみたのだが、店主の老人が時計の力で止まっているのか素で止まっているのかが分からない『アンティークショップ』、注文した日替わり定食を食べようとするたびに大事な電話がかかってきて、なかなかお昼ご飯にありつけない刑事の苦悶を描いた『日替わり定食』、奥で誕生日会が催されているという家にやってきた宅配ピザだったが、あるやりとりをきっかけにプツリと賑わっていた声が途絶え……『宅配ピザ』などなど、シンプルなのに捻りが利いていて、どのネタも非常に面白い。

とりわけ印象に残っているのは『ファーストフードにて』と『悪魔』。

『ファーストフードにて』は、別々の高校に進学して会う機会がなくなってしまった金子とファーストフードで再会すると、中学を卒業してから2ヶ月しか経っていないのにモヒカン刈りになっていたというコント。ただ金子がモヒカン刈りになっているというだけなのに、どうしてこんなに面白いのか。金子が童顔だからというのもあるのだろうが、それにしても違和感が物凄い。その違和感をしばらく泳がせておくから、またたまらない。ツッコミを入れず、ごくごく当たり前にお互いの現状について会話を重ねていく日常のリアリティが、金子のモヒカンの存在感を更に色濃くしていく。そして、唐突に繰り出される指摘の一発! このタイミングが実に上手い。丁寧に並べられたドミノを一気に倒してしまうような爽快感のある瞬間だ。無論、ここで終わるわけではない。ここから更に、どうして金子がモヒカン刈りになったのか、その理由までしっかりと語られるのだが……詳細は本編で確認してもらいたい。

一方の『悪魔』は、儀式によって呼び出された悪魔が寿命を代償になんでも願いを叶えてやろうと語りかけてくるコントで……聞いたところによると、『キングオブコント2015』準決勝でこのネタが披露されたらしいので、これ以上の詳細は書かないことにする。果たして『キングオブコント2015』決勝で、このネタはどんな風に編集されているのだろうか……。

ちなみに、特典映像には、ライブの幕間映像を収録。マネージャーの提案をきっかけに、ちょっとシュールに身体を張っている二人の姿が映し出されている。面白いといえば面白いのだが、正直なところ、コントは熟練されて面白くなってきているのに、こういう幕間映像では変なとがり方をしているなあ……とも。まあ、それもまた味か。


■本編【73分】

「授業中」「個展」「私の席」「アンティークショップ」「職員室」「タイムスリップ」「日替わり定食」「宅配ピザ」「ファーストフードにて」「悪魔」「出会い」

■特典映像【12分】

「エピソードトーク1」「エピソードトーク2」「エピソードトーク3」

■音声特典

うしろシティの副音声解説