菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『オードリーのまんざいたのしい』(2014年2月11日)

『オードリーのまんざいたのしい』

2013年8月15日から18日にかけて、紀伊國屋ホールで開催された漫才ライブ「オードリーのまんざいたのしい2013」の模様を収録。こちらで購入可能。

今やテレビタレントとして不動の地位を築き上げているお笑いコンビ・オードリー。その評価を著しく向上させたのは、『M-1グランプリ2008』での活躍が大きなきっかけだった。敗者復活戦を勝ち上がり、NON STYLE、ナイツ、笑い飯U字工事といった実力者たちを抑え、一回戦をトップで通過して最終決戦へと駒を進める姿に、昨年大会の優勝者・サンドウィッチマンを彷彿とした人も少なくなかっただろう。結果、優勝トロフィーはNON STYLEの元へ渡ったが、彼らの存在は多くの人々の記憶に残るものとなった。しかし、オードリーは資格があるにも関わらず、翌年のM-1への出場を辞退。お笑いタレントとしての道を全速力で駆け抜けていった。

そんな彼らが2013年に開催した漫才ライブには、漫才師・オードリーの魅力が凝縮されている。若林の話に春日が的外れなツッコミを入れるベーシックなスタイルから、春日が特定の単語しか言わなくなってしまうポンコツ漫才へと転換する『ハワイ』。春日が様々な媒体の記者を演じて、結婚記者会見を開いた若林を翻弄する『記者会見』。雪山で遭難してしまった若林の前に現れた春日が、持参していたパンを三万円で売りつけようとする『遭難』。若林が富士登山の最中に出会った人たちを春日が次々に演じてみせる『富士山』。自身を芸人に誘った若林のことを激しく責め立てる春日の口調が何故かオネエ言葉な『本性』。同窓会にもしもオードリーが出席したら、どういうことになるのかを漫才コントでやってみた『同窓会』。世間に知られているオードリーから、ラジオリスナーだけが知っているインモラルなオードリーまで、実に様々な側面から切り取られている。

私的には『遭難』がお気に入りだ。雪山で遭難している若林に春日がパンを高額で売りつけようとする様は、春日のケチで打算的な側面を上手く煮詰めている。米倉涼子のくだりのサイテーぶりなどは、腹を抱えて笑った。最初は春日のケチさに焦点が当てられているが、徐々に春日の要求する金額を値下げする流れになっていく、この構成も絶妙だ。だが、このネタの最も注目すべき点は、極限状態に陥っているという設定を利用して、存分にブッ壊れていく若林である。なかなかパンを渡そうとしない春日に対して「パンくれよ!」「パンくれよ!」「パンくれよ!」と壊れたオモチャのように連呼する姿はなかなかのものだった。ただ、若林は他の漫才でもちょこちょこ、普段のバラエティでは決して出さない側面を見せていた。漫才の導入部分でさらりと吐き出される強めの毒……たまらないものがあった。

このライブ本編に加えて、本作には幕間映像として「パジェロvs春日(四本勝負)」「大家×春日 対談」、特典映像として「春日語怪談」「グッズ紹介&お花紹介」が収録されている。若林が運転するパジェロと春日が相撲で勝負するシーンなどはなかなかに狂気的でオススメなのだが、オードリーの二人がそれぞれグッズやお花を紹介しているところにちょいちょい見切れようとするゴン(ビックスモールン)を注意する距離感の良さもなかなか味わい深い。頑張れ吉留明宏。


■本編【97分】

「ハワイ」「オープニング」「記者会見」「パジェロvs春日 ~100m走~」「遭難」「パジェロvs春日 ~綱引き&相撲~」「富士山」「大家×春日 対談」「本性」「パジェロvs春日 ~騎馬戦~」「同窓会」

■特典映像【19分】

「春日語怪談」「グッズ紹介&お花紹介」

『ジャルジャルのくじゃら』(2015年11月11日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第六弾。本作でこのシリーズもようやく折り返しとなる。これで合計三十七本のコントを観たことになるわけだが、そのおかげか、彼らのネタの方向性がなんとなく見えてきたような気がする。いや、気のせいかもしれないが……。

 

クラスの新しい担任としてやってきたのは、明るく陽気で爽やかな“当たりの先生”だと思われたが、その矢先……『ハズレの先生』。若手お笑いコンビ“パラドックス”のコントは、待ち合わせに遅刻した男が何故かその場で脱いだ靴下を顔にぶつけてくるというシュールなもので……『あんまりウケへんから後ろに下がってしまう若手芸人』。動物を優先しようとする園長と客足を優先しようとする飼育員、どちらも動物園を愛しているが故に議論は熱を帯びていくのだが……『カバ』。学祭で披露するための曲を放課後の教室で作曲していたクラスメートが、そのオリジナル曲を聴かせてくれると言い……『タンバリンキッス』。運動会の綱引きに向けて、専門の先生に来てもらう『綱引き』。一人で客演する芝居の稽古をしていると、そこに頭がハゲた男がやってきて、ねぎらいの言葉をかけてくれるのだが……『ハゲてもうてる』。ふざけていてお尻にケガをしてしまった中学生が、恥ずかしがって、なかなか医者にお尻を見せようとしない『お尻ケガした奴』。以上、七本のコントを収録している。

 

一見すると優しい雰囲気の先生が実はとんでもない人間だったという『ハズレの先生』は、学生時代の理不尽な教師たちのことを思い出さずにはいられないコントだ。極端に描かれているからこそ笑えるが、これを観て、トラウマを発動してしまう人も少なくないのではないだろうか。『あんまりウケへんから後ろに下がってしまう若手芸人』は、そのタイトルが分かっていないと笑いにならないほど、リアルに状況を描写しているコント。ジャルジャルのコントというと、世間では他に類を見ない先鋭的な設定のイメージが強いように思うが、彼らの本当に恐ろしいのは、この再現能力の高さであるように思う。園内の動物たちを愛して止まない飼育員が、何故か特定の動物だけにはまったく違う感情をむき出しにしてしまう『カバ』は、その感情の理不尽さが笑いに昇華されている。理由を明確にせずに、観客に想像させる余白を生み出すことで、妙に奥深さを感じさせられるところが、なんとも味わい深い。『タンバリンキッス』は作り手と演じ手の住み分けが如何に大切かを表したコント。いや、或いは演じ手の向こう側にいる作り手の実像を匂わせることで、その関係性を皮肉っているといえるのかもしれない。『綱引き』はオチありきのコント。丁寧なフリが想定内のオチを大きな笑いに変えている。ハゲを自虐ネタにしている人を描いた『ハゲてもうてる』は、自身のコンプレックスを笑いに変えている人ならではの複雑な感情を上手くコントにしている。他人に突かれるのが嫌だから、先に自分で自分のことをイジっているのだろうか……少し切ない。『お尻ケガした奴』は、いわば『キングオブコント2015』でロッチが披露したコントに思春期を混ぜ込んだコント。特に後半の動きはそのままなので、機会があれば確認してもらいたい。まさか、そこが被るとは……。

 

これらのコントに加えて、『カバ』に登場した動物園の飼育員の仕事に迫ったドキュメンタリー『動物たちの声が聞こえる~動物の声が聞こえるようになった飼育員~』を特典映像として収録。実際の動物園でロケを敢行、様々な動物たちに耳を傾ける姿は一見すると本当のドキュメンタリーのようだが、やはりあの動物に対しては……。

 


■本編【33分】

「ハズレの先生」「あんまりウケへんから後ろに下がってしまう若手芸人」「カバ」「タンバリンキッス」「綱引き」「ハゲてもうてる」「お尻ケガした奴」

 

■特典映像【10分】

「動物たちの声が聞こえる~動物の声が聞こえるようになった飼育員~」

『ジャルジャルのきじゃら』(2015年11月4日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第五弾。

 

新人ミュージシャンがデビュー曲のプロモーションのために出演したラジオ番組のDJは、とにかく滑舌が悪くて何を言っているのか分からない『滑舌DJ』。銀行強盗が人質に取ったのは、一見すると平凡でこれといって個性のない男……だったのだが『人質チョイスミス』。白と黒のメリハリの利いた衣装に身を包んだユーモラスな二人が、「なんでなんかな♪」のリズムに合わせてあるあるネタを披露する『なんでなんかな♪~日本一面白くない芸人~』。試合を前日に控えた女子バレー部のメンバーに欠員が出てしまったため、顧問の教師が何故か男子生徒にその代役を依頼する『女子バレー部』。一般人も参加できるマラソン大会に、ピエロの格好をして参加している男がいて……『おふざけランナー』。とあるバラエティ番組のオーディションで落とされたピン芸人「チャラ男番長」が、どうしても採用されたい一心から審査員にムチャクチャな要望を叩きつける『チャラ男番長』。以上、六本のコントを収録している。

 

最初から最後まで滑舌の悪さで押し切っている『滑舌DJ』は、普段は普通に喋れるのに、番組が始まると滑舌が悪くなってしまうところがポイント。思うに、ラジオ番組の時だけ、声のトーンを変えているDJに対する皮肉なのではないだろうか。『人質チョイスミス』は設定から想像できないだろうが、後藤のギャグ(?)を中心としたコントである。ああいう無機質な状態になったときの後藤の面白さは、もうちょっと世間に知られてもいい。『なんでなんかな♪~日本一面白くない芸人~』は一見すると『なんでだろう』で知られるテツandトモを皮肉ったコントに見えるが、むしろ比較対象を明確にすることで、コントに登場するお笑いコンビのダメさを浮き彫りにしているのではないか……と考えているのだが、実際のところはどうなんだろう。『女子バレー部』は後半の展開がとにかくスリリング。あまりに不条理な展開に、ちょっとしたサイコホラーのようにも感じられた。『おふざけランナー』は一発勝負のコント。その想像できるオチを全力でやり切る姿がたまらなく面白かった。『チャラ男番長』もまたサイコホラーじみたコント。むしろサイコパスか。芸風はシンプルなのに人間性が完全にイカれている芸人を生々しく演じていて、だからこそオチにちょっと安心させられてしまう不思議さ。

 

これらのコントに加えて、都会の公園に24時間密着したドキュメンタリー『定点観察~都会の公園24時~』を特典映像として収録。過去の四作品での特典映像は特定のコントのキャラクターに着目したつくりになっていたが、本作は場所がテーマとなっていることもあってか、本作のコントに登場したキャラクターたちが次々に登場している。日本一面白くない芸人のネタ合わせ、銀行強盗の人質になった男、女子バレー部に引っ張り出された男子生徒、チャラ男番長、そして……。あの男は何故、この公園にいたのか。なにやらストーリーらしきものが見えてきたが、まだまだ流れは見えてこない。

 


■本編【34分】

「滑舌DJ」「人質チョイスミス」「なんでなんかな♪~日本一面白くない芸人~」「女子バレー部」「おふざけランナー」「チャラ男番長」

 

■特典映像【11分】

「定点観察~都会の公園24時~」

『ジャルジャルのかじゃら』(2015年10月28日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第四弾。……彼らが天才的なコント職人であることは間違いないが、それでも流石に食傷してきた。第四弾の時点でこんなことになっているようではいけない。現時点でシリーズの三分の一、まだまだこれからだ。

 

マジックが成功したときに激しいリアクションを取ってしまうマジシャンに興醒めさせられる『ガッツポーズマジシャン』。とあるオーディションにやってきた演歌歌手のしんぺいが披露するオリジナルソングにははっきりとした欠点があって……『オーディション~演歌歌手しんぺい~』。焼き肉店にかかってきた予約の電話の主はあの俳優!?『阿部寛来店』。大学の友人が自分の名前をどうしても妙な発音で呼ぶので、イチからしっかりと間違いについて説明するのだが……『TAKAGI』。高校の卒業式にやってきたOBだという中年男性の挨拶はとても退屈でつまらなかったが、とある言い回しにちょっと引っ掛かるものが……『知らんOBの挨拶』。銀座の高級フランス料理店にやってきた珍奇な身なりの男の正体とは?『違いますよ』。以上、全六本のコントが収録されている。

 

ちゃんと実力を見せつけているにも関わらず、ついつい成功に喜んでしまって、結果としてマジシャンとしての評価を落としてしまう『ガッツポーズマジシャン』は、きちんと喋らせれば面白いトークも出来るのに、変なところで噛んでしまったり、妙な言い回しになってしまったりして、話し手としてはなかなか評価されない出川哲朗氏のことを彷彿とさせた。『オーディション~演歌歌手しんぺい~』は演歌にありがちな観客のアレを意識した楽曲に対して一石を投じているコント。言われてみれば、確かに演歌だけアレが許されている雰囲気があるのは何故なのだろう……。『阿部寛来店』は、何を言ってもネタバレになるので何も言わない。ただ、後藤の口調、完全に阿部寛のそれになっていた。上手い。親しい友人の妙な言い回しを徹底的に糾弾する『TAKAGI』は、クドさを売りにしたジャルジャルのコントのある意味では真骨頂。ただ、ストイックな作りになっているので、ちょっと飽きやすいかもしれない。事実、2012年7月に松山で鑑賞したライブ『ジャルっ10じゃねぇよ!』でも披露されたらしいのだが、まったく覚えていない(が、手元の記録には、ちゃんとこのコントの名前が載っている……)。『知らんOBの挨拶』も、何を言ってもネタバレになってしまうコントなので何も言わない。ただ、福徳の口調は、あんまり似てなかった(笑) 『違いますよ』はドッキリをモチーフとしたコント。ちょっと絶望的なオチで後味はあまり宜しくないが、まあ、たまにはこういうのも良い。

 

これらのコントに加え、『オーディション~演歌歌手しんぺい~』に登場するしんぺいが新曲『しんぺい音頭』をプロモーションしている様子に密着したドキュメンタリー『いつか花開くとき~ある演歌歌手の苦節25年物語~』を特典映像として収録。過去シリーズでも見られた、夢を追いかけている人間に迫ったドキュメンタリーとなっているが、主人公が若者から中年男性に替わったからなのか、妙にクサい人間ドラマの様相を呈している。……もしかすると、これが彼らの演歌観なのか? 本作の見どころは、なんといってもしんぺいの恋人として山﨑ケイ(相席スタート)がゲスト出演しているところ……ではなく、過去シリーズに出演していたコントキャラクターががっつりと再登場している点である。やはり彼がキーマンなのだろうか……?

 


■本編【31分】

「ガッツポーズマジシャン」「オーディション~演歌歌手しんぺい~」「阿部寛来店」「TAKAGI」「知らんOBの挨拶」「違いますよ」

 

■特典映像【14分】

「いつか花開くときに~ある演歌歌手の苦節25年物語~」

『ジャルジャルのおじゃら』(2015年10月21日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第三弾。

 

学園祭実行委員に選ばれてしまった二人の男子が、テキトーな案を出し合ってテキトーに話をまとめていく『学園祭実行委員 土森』。オーディションにやってきた四人組のロックバンドが、そのスタイルといい、そのオリジナル曲といい、明らかに某有名ロックバンドを意識していたので、思わずそのことについて触れてみたところ……『オーディション ~ウルフルズに影響されてる奴~』。仕事帰りに道端で「まいど~!」と気安く話しかけてきた知り合いらしき男のことが全く思い出せない『まいど~!』。定食屋に行こうとしている男の前に銀行強盗が現れて……『銀行強盗』。カツアゲしていた少年がうっかりぶつかってしまったおばはん、最初はただ自分に謝るように言い続けていたのだが……『カツアゲおばはん』。生徒がテニス部の引退試合での出来事を報告をしようとするたびに先生が鬱陶しい相槌が始まってしまう『なんか変な先生』。以上、全六本のコントが収録されている。

 

『学園祭実行委員 土森』は、テキトーな案が物凄い勢いで適切に固まっていく行程を描いたコント。この行程が段々と過剰になっていくにつれて笑いも大きくなっていくが、個人的には美しく組み立てられていく様にこそ魅力を感じる。『オーディション ~ウルフルズに影響されてる奴~』はタイトル以上でも以下でもない内容のコント。それでも笑わせてくれるところにジャルジャルというコンビの地力の強さを感じさせられる。『まいど~!』はオチありき。そういうコントなのかと思わせておいて、終盤でまさかのどんでん返しを迎えるところがたまらない。『銀行強盗』は設定ありき。とても短いネタなので、これは直に確認して頂きたい。個人的には傑作だと思った。『カツアゲおばはん』は、なんでもかんでも無理矢理自論に持って行ってしまうおばはんの強引さにカツアゲ行為が加わるという、とんでもないコントである。その傍若無人ぶりを噛み締めてもらいたい。『なんか変な先生』は相手の話を聞かずに自分の意見を長々と語ろうとする全てのクソみたいな大人たちに捧げたいコント。過剰に表現されているからこそ笑えるが、こういう人って何処にでもいるんだよな……。

 

これらのコントに加え、『カツアゲおばはん』に登場するおばはんに迫ったドキュメンタリー『実録 カツアゲをやめられない女』を特典映像として収録。これまでの特典映像が夢を抱いた若者たちを取り上げたドキュメンタリーになっていたのに対し、今回は“カツアゲ”という犯罪行為をテーマに取り上げているためか、社会派ドキュメンタリーの様相を呈している。終盤はまさかの展開だが、これまでの作品に比べると意外性は低い。まあ、キャラクターの強烈さを思うと、このくらいが丁度良いのかもしれない。

 


■本編【29分】

「学園祭実行委員 土森」「オーディション ~ウルフルズに影響されてる奴~」「まいど~!」「銀行強盗」「カツアゲおばはん」「なんか変な先生」

 

■特典映像【10分】

「実録 カツアゲをやめられない女」

『ジャルジャルのえじゃら』(2015年10月14日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第二弾。

 

声がやたらと細い家庭教師が、声がやたらと太い生徒とともに大学合格を目指す『声細い家庭教師と声太い生徒』。カットを終えたばかりの客が何故か美容師の腹を執拗に殴り始め……『腹』。屋外で営業活動をしている着物を着た男性を見かけたのだが、その正体が演歌歌手なのか落語家なのか分からない『手持ち無沙汰で夢掴む』。ルームシェアの相手が留守なのをいいことに、こっそりと尻にペットボトルを入れ始めた男の顛末とは!『尻にペットボトル入れる奴』。若手お笑いコンビ“タッチワゴン”が明日のテレビオーディションに向けてネタを異常に練習し続けている様子を描いた『練習の鬼』。オペラの主役の座を奪われた男が、本番当日、主役を演じる男をホテルの一室に呼び出して、首にスタンガンを当てる……!『オペラ歌手』。以上、全六本のコントが収録されている。

 

まったく逆の性質を持ったキャラクター同士が会話を重ねていく『声細い家庭教師と声太い生徒』は、古典落語『長短(気の長い男と気の短い男のやりとりを描いた演目)』を彷彿とさせる。ネタそのものも面白かったが、声の細さ・声の太さを演じるジャルジャルの程々の誇張を見てもらいたい。『腹』は不条理極まりないコント。その暴力性が故に観客も少し引いていたが、延々と腹だけを様々なバリエーションで殴られ続ける姿には笑わざるを得なかった。『手持ち無沙汰で夢掴む』は、どちらも着物を着ているからという理由で作られたとしか思えない強引さがバカバカしいコント。よくよく聞いてみると、とてつもなく気持ちの悪い話をしている落語パートがまたバカバカしい。『尻にペットボトル入れる奴』はオチありきのコント。衝撃的な結末に戦慄を走らせてもらいたい。『練習の鬼』はまったく同じ内容のショートコントが何度も何度も繰り返されるコント。ただ、ここで注目すべきは、そのクドさではなく練習に付き合わされる相方の変化だ。じわりじわりと苛立ちが募る様子がとてもリアルで、たまらない。『オペラ歌手』は個人的に本作で一番好きなコント。『古畑任三郎』を彷彿とさせる大人のミステリーな雰囲気が、急転直下の勢いでコメディになってしまう爽快感がサイコーだった。「いちちちちちちー」の語感の良さ!

 

これらのコントに加え、『練習の鬼』に登場するお笑いコンビ、タッチワゴンに密着したドキュメンタリー『売れたいんや! ~あるお笑い芸人の挑戦~』を特典映像として収録。コントで描かれている状況の前後が映像化されているので、その世界観をよりリアルに感じることが出来る。……結末の生々しさよ……。そして今回も、別のコントに登場したキャラクターたちがさらっと登場。前作『ジャルジャルのうじゃら』に登場したキャラクターの姿もあったようだが……彼がまさかキーマンなのだろうか。気になるなあ。10月21日リリースの第三弾『ジャルジャルのおじゃら』にも出ていたら……何かあるのかもしれないなあ。

 


■本編【30分】

「声細い家庭教師と声太い生徒」「腹」「手持ち無沙汰で夢掴む」「尻にペットボトル入れる奴」「練習の鬼」「オペラ歌手」

 

■特典映像【10分】

「売れたいんや! ~あるお笑い芸人の挑戦~」

『ジャルジャルのうじゃら』(2015年10月7日)

2015年10月7日から12月23日にかけて12週連続でリリースされる、ジャルジャル自選コント集の第一弾。

 

営業部に配属された新入社員の凡尻は、そこで出会った自分と同様に珍しい名字の大尻という男に誘われ、お互いの個性的な名前を武器にした大胆な営業活動に打って出ることになる『大尻・凡尻』。高校を卒業したら大学へ進学せずに東京でミュージシャンになろうと考えている友人が、「これさえあればミュージシャンとして売れる」と確信したオリジナルソングを聴かせてくれようとするのだが、恥ずかしがってなかなか始めてくれない『ハズい』。大阪タワーという漫才師が「学生時代によくやっていたかくれんぼ」をやってみようと言い始め、いわゆる漫才コントを始めようとするのだが……『リアル漫才コント』。審判にレッドカードを出されたサッカー選手がひたすらにダダをこね続ける!『ダダこねサッカー選手』。人の家の壁で立小便をしている男に注意をしたところ、そいつの言動が明らかに度を超えていて……『頭おかしい奴』。喋り方も様子もオカしいクラスメートの南を描写した『南』。以上、全六本のコントが収録されている。

 

『大尻・凡尻』は2012年7月に松山で鑑賞したライブ『ジャルっ10じゃねぇよ!』で披露されていたコントだ。大尻と凡尻がリズミカルに動き回る様子がたまらなく可笑しくて、当時からお気に入りの一本だった。だから、このネタが12週連続リリースの幕開けとして選ばれたことは、個人的にちょっと嬉しい。『ハズい』はジャルジャルコントの特徴の一つであるしつこさが取り入れられている。同じ展開を飽きさせることなく見せ続ける職人技が光る。『リアル漫才コント』は漫才師にケンカを売っているパターンのコント。一見すると、単なるナンセンスコントのようだが、福徳が後藤の言動を注意するくだりに皮肉めいたものを感じさせられた。……気のせいかな。『ダダこねサッカー選手』も『ハズい』と同様にしつこさを取り入れたコントだが、やりとりのきっかけがやや不条理なため、『ハズい』とは少し違った味わいを見せている。投げやりなオチも良い。『頭おかしい奴』は純粋に頭おかしい奴の対処法を描いたコント。ただ、終盤の展開を思うと、『徒然草』にある【狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり】を彼らなりに表現してみせようとしていたのかもしれない。頭おかしい奴を演じる福徳、それを乗り越えていく後藤、それぞれの高い演技力も素晴らしい。『南』は地上波のコント番組に出演していた頃のウッチャンを彷彿と。あからさまなコントメイクととてつもなくクセの強いキャラクターが、サイコーに面白い。一部で「ジャルジャルウッチャンナンチャンに似ている」という仮説がささやかれているが、このコントを演じている後藤の振り切れぶりを思うと、納得せざるを得ない。完全に憑依している。

 

これらのコントに加え、とあるコントに登場したキャラクターに密着したドキュメンタリーを特典映像として収録。基本的な流れはライブ映像のそれと同じなのだが、映像になっている分、キャラクターに説得力が増しているように感じられた。別のコントに登場したキャラクターたちがさらっと登場する遊び心も丁度良い。12週連続リリースという連続企画モノだからといって、決して手は抜かないという姿勢が感じられた。10月14日リリースの第二弾『ジャルジャルのえじゃら』にも期待が持てる。楽しみだなあ。

 


■本編【32分】

「大尻・凡尻」「ハズい」「リアル漫才コント」「ダダこねサッカー選手」「頭おかしい奴」「南」

 

■特典映像【10分】

「上京物語~ミュージシャンを目指して~」