菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

敬愛なる先輩へ『Rahmens presents GOLDEN BALLS LIVE』

 2005年に行われたラーメンズライブ特別編『GOLDEN BALLS LIVE』が、2008年にやっとこさDVD化された。本当、やっとこさだ。ラーメンズ関連のDVDはなかなか発売されないことで有名だが、ここまで実際の公演からソフト化までに時間が掛かったライブは珍しい。珍しいといえば、ラーメンズのDVDの価格が4,286円(税抜)と、芸人のライブDVDとしては高額で売り出されるのも珍しい。これまで、ラーメンズのDVDは比較的安価に提供されていたのだが……。
 内容もまた、珍しい。
 まず、ライブがストレートに始まらない。オープニングに、KKPでお馴染みの室岡悟による新撮映像を挟み込んで、それからライブの映像に入る。ライブの模様をそのままソフトにして発表し続けてきたラーメンズとしては、この作りは非常に珍しい。会場に流れた撮影映像をそのまま収録したことはあったが、DVD用の新撮映像を収録したのは今回が初めてなのではないだろうか。
 演出も珍しい。ラーメンズのライブといえば、背景無し・小道具過少・衣装過少の超シンプルな舞台がこだわりになっているが、今回のライブはその逆を行っている。背景には片桐仁が描く花鳥風月に満ちた巨大な白黒イラストが置かれ、小道具はこれでもかと使用され、衣装もコントごとに大きく変化する。これまでのラーメンズが構築してきた世界を、あえて具現化しているかのような……そういう印象を受ける演出になっている。
 ライブ自体もまた、珍しいものだった。ラーメンズライブの脚本は、そのブレインである小林賢太郎の緻密な計算によって構築されたものであり、決して客に不満を抱かせない完成度は素晴らしいの一言で片付けるには、あまりにも勿体無いほどだ(褒めすぎかもしれない)。ところが、今回のライブはどうにもこうにも、おかしい。コバケンコンピューター(略してコバコン)がプチ故障を起こしてしまったような、笑いの計算からちょっとズレた世界が出来上がっており、総じて、どうもユルい。普段ならコバコン方程式を優先するところを、自分たちのやりたいことをやりきっている感が今回はあった。タカが外れたコントとして知られている「タカシと父さん」「バニー部」だって、ここまでヤリタイホーダイじゃなかった筈だ。
 それにしても、このユルさ。どうも、あるユニットを思い出す。そのナンセンスな世界観のライブが高く評価されていて、ラーメンズの先駆者とも言えるユニット、シティボーイズのことを。
 思えば本作には、シティボーイズを意識したような場面も少なくない。西田がピンスポの中で「いいのに団」を早口で説明する手法は、シティボーイズが頻繁に用いる手法だ。「愚問道」での片桐ツッコミはまさに「もしかして、あなただけかもしれません」の大竹によるツッコミそのものだし、『就職浪人ホームドラマ』の山盛りフルーチェなんか、某コントのムヒ以外の何物でもない。コントの幕間に流れるVTRもシティボーイズのそれに近い。最終的に各コントの小ネタが収集する構成なんか、まさに三木聡演出時代のシティボーイズそのものではないか!(これはラーメンズ本公演でもやっているけど)
 つまり、このライブはラーメンズの先駆者であるシティボーイズに対する、オマージュライブなのだ。そう思えば、全てに合点がいく。背景の凝りよう、映像を盛り込む手法、雑多な小道具……全て、ラーメンズによるシティボーイズに対するリスペクトであり、オマージュなのだ。ああ、美しき温故知新。
 しかし、単純に一つの公演として本作を見ると、少々物足りなさを感じる。まあ、ラーメンズには無いシティボーイズの要素を取り込んだライブなのだから、仕方が無いことなのだが。ある程度、ラーメンズについて認識している人じゃなければ、あまりオススメ出来る内容ではないかもしれない。あと、シティボーイズの公演を知っていると、普通に見るよりも楽しいのではないだろうか。少なくとも、僕は楽しかったなあ。

・本編(約100分)
「ムローカー・シャトル氏 1」「擬音祭り」「いいのに団」「愚問道」「ゴリラの松岡さん」「屋上バレー with ゴリラの松岡さん」「ジンティラー・ヨーガ」「ムローカー・シャトル氏 2」「チャンスハンター」「チャンス図鑑」「就職浪人ホームドラマ」「大人になって分かったこと」「ちょっといいか」「Ending」「語感祭り」「ムローカー・シャトル氏 3」