菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ラーメンズ第5回公演『home』

ラーメンズ第5回公演『home』 [DVD]ラーメンズ第5回公演『home』 [DVD]
(2009/03/18)
ラーメンズ

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僕がまだ、大学一年生だった頃の話。当時の僕は、まだお笑いの世界をそれほど知らない、単なるテレビっ子だった。そんな僕をお笑いの世界(というよりお笑いDVDの世界)に引き込んだのが、ラーメンズだった。販売店で偶然に見かけた、彼らのライブベストDVD『Rahmens 0001 select』を突発的に購入したことで、僕のお笑いDVDバカな日常が始まったのである。実に罪深い。

その頃、ラーメンズが単独でリリースしていたDVDといえば、この『Rahmens 0001 select』を除くと、NHKのボール転がし番組で披露したコントをまとめた爆笑オンエアバトル ラーメンズと、第8回公演『椿』から第10回公演『雀』までのライブビデオをDVD化したボックスラーメンズ The Box Set of Four Titles Rahmens』の二作品のみ。これ以後、2004年に第二弾DVD-BOXラーメンズDVD-BOX』がリリースされるまで、彼らが単独DVD作品をリリースすることはなかった。

ところが当時、このDVD-BOXとは別にDVD-BOXがリリースされる予定があったことが、ラーメンズの某ファンサイトで伝えられていたことを、皆さんは御存知だろうか。それは単なる噂や妄言ではなく、その某ファンサイトの管理人がDVDのリリース元であるポニーキャニオンに問い合わせて、得た情報だった。つまり、信憑性はあったのである。

そのDVD-BOXとは、ラーメンズの初期公演である第5回公演『home』から第7回公演『news』までのライブビデオをDVD化したものだ、と伝えられていた。多くのラーメンズファンが、そのリリース情報に歓喜した。何故なら、『news』以前の公演を収録したビデオの多くは、既に手に入りにくいものだったからだ。

中でも第5回公演『home』は、リリース元が倒産すると同時にビデオ版も廃盤となり、プレミアが付くほどに稀少性のある作品となってしまっていた。しかし前述の通り、このDVD-BOXがリリースされることはなかった。一部では、権利関係が拗れたのではないかという噂も立っていたが、その真相は現在も定かではない。

それから、七年。もはや多くのラーメンズファンが、そのDVD化を諦めきっていた2009年に、突然の吉報が飛び込んできた。ラーメンズ第5回公演『home』が、DVD化される。まさか。そんなことがありうるのか。権利関係が解決したのか。そのあまりにも唐突な速報は、多くのラーメンズファンの心を震わせ、疑心暗鬼にさせた。しかし、その情報は誤報ではなかった。何故なら今、『home』のDVDは一般のCD・DVD販売店で、確かに売られているからだ。七年越しの贈り物。「待ってました!」の一言では表現できないほどの、大きすぎる感動。今それは、確かに僕の手にあるのだ!(オオゲサ)

第5回公演『home』のDVD化が予定されていたのは、今から七年前のことだが、実際の公演が行われていたのは、それよりも更に二年前の2000年。つまり、今作に収録されている演目は、今から九年前に作られたものということになる。当時、ラーメンズ結成三年目の若手芸人。「爆笑オンエアバトル」に出場するようになって、まだ一年も経過していない頃だ。当時、ラーメンズの二人はともに27歳。まだまだ青さを感じさせる顔つきが、時の流れの無常さを匂わせている。

近年のラーメンズは、芝居調のコントを主としているところがあるが、この時期のラーメンズは、まだまだコントではないと表現できない笑いを追及しているようなところがあった。発想重視とでも言うのだろうか。例えば、用途・類が無いと何も出来ない人たちの有様を描いた『無用途人間』『無類人間』、朗読の内容で戦う初期の人気シリーズ『読書対決』、なわとびのわらべ唄で世界を構築する『縄跳び部』などが、それに当たる。この辺りのコントが、現在も「ラーメンズはシュール」だと言われている所以だと言えるだろう。

また一方で、ただナンセンスなキーワードを盛り込んだだけの、いわば“悪ふざけ”と受け取られかねないコントも、今作には収録されていた。ことあるごとに架空の映画のシチュエーションを再現する映画オタクな二人を描いた『映画好きのふたり』と、架空のミュージシャンのライブに行く途中の二人を描いた『ファン』が、それだ。近年のラーメンズは、この悪ふざけの様なスタイルに独自のシチュエーションを混ぜ込んだコント(例えば第15回公演『アリス』で披露された『イモムシ』)を、よく演じている。恐らく、この時期のラーメンズは、彼らが影響を受けたというシティボーイズのコントスタイルを、自分たちなりに昇華しようとしたのではないだろうか。シティボーイズのコントもまた、他愛の無い会話の中に潜む悪ふざけの様な笑いで成立していた。

この時期のラーメンズは、「シュールな設定コント」と「ナンセンスな会話」、この二つのスタイルを重視してコントを作りこんでいたようだ。とはいえ、芝居調のコントをやっていなかったわけではない。なんとなく感動できそうな雰囲気が漂ったコントも、この時点で既に作り出していた。

『漫画家と担当』というコントがある。小林演じる漫画家が、片桐演じる編集者に頭を悩ませるというコントだ。途中までは、あまりにも下らない内容の会話が続く。薬ビンに書かれた“食間”というのは、食事と食事の間のことなのか、それとも食事中のことなのか、とか。その会話の途中、ふとしたきっかけで場に緊張が走る。そこからのシリアスになりそうでならない展開。まだ芸人として、泣けるコントを気恥ずかしいと感じていたのかもしれない。

シュール。ナンセンス。そして、泣き。今作で披露されているコントは、確かに今の彼らのスタイルの根っこからのものであり、小さな蕾だった。そのことを意識すると、単なるタイトルでしかない筈の『home』にも、何か深い意味があるのではないかと勘繰ってしまう。思えば、第4回公演まで、立方体にこだわったタイトルをつけてきた彼ら。その立方体を捨てて、この『home』というタイトルを付けたことにも、何か深い意味を持たせているのかもしれない。例えば、『home』……全ての始まりの場所、というような。


・本編(105分)

『無用途人間』『読書対決』『映画好きのふたり』『縄跳び部』

『ファン』『百万円』『漫画家と担当』『無類人間』