菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー「タイトル未定」 ~このライブのタイトルはタイトル未定です~』

フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー吹越満【タイトル未定】~このライブのタイトルはタイトル未定です~ [DVD]フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー吹越満【タイトル未定】~このライブのタイトルはタイトル未定です~ [DVD]
(2009/09/04)
吹越満

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吹越満の舞台は、小林賢太郎ラーメンズ)の一人舞台に似ている。いや、実のところ吹越は小林の何年も先輩に当たるので、この表現は正しくない。正しく書くとすれば、小林のソロ公演の演目が、吹越のそれに類似しているのである。しかし現実問題として、小林のソロ公演と吹越の舞台とでは、その知名度という点で大きな差が開いている。

そもそも、吹越満が年に一度、一人コント師として舞台に立っているということを知っている人間が、とても少ない。今現在、吹越は演芸人というよりも俳優として知られている。事実、彼がテレビ番組に出演するときは、俳優としての演技が求められていることが殆どだ。今や、彼がかつてのように、パントマイムを駆使した『ロボコップ演芸』だの、オナニーをし続けることに決めた男の一日を描いた『日本一のせんずり男』の様な演目を、テレビで披露することはない。求められてもない。求められていたとしても、出来ない。ド下ネタだから(ちなみに、これらのネタは昨年リリースされた『シモキタ・コメディ・ナイト・クラブ』に収録されている)。

そう。吹越の舞台には、多分に下ネタが用いられる。「セック○」程度の軽いモノだけではなく、「クリ○リス」「フェ○チオ」などのフレーズも当たり前に飛び出す。恐らく、彼がかつてお下劣な舞台を繰り広げている劇団として知られている“ワハハ本舗”に籍を置いていた時代があったからだろう。そりゃ、テレビで求められるわけがない。まず、放送できないのだから。だから小林の様に、吹越の舞台がNHKで放送されたり、特別番組がNHKで放送されたりすることはない。やろうと思えば、出来そうだけど。最近のNHKはかなり自由みたいだし。

そんな吹越満の最新作。タイトルは『タイトル未定』。公演タイトルがタイトル未定というのが、実に捻くれている。しかも、舞台が始まって早々に、「タイトルが無いとややこしい」という理由でタイトルが決定される。捻くれから、更に捻くれるという超変化球プレイが、オープニングから行われているのである。実にたまらない。

その後も、吹越ならではの捻くれた笑いが続く。見えないものが存在しているという体で成立している世界の家族を描いた『無対象家族』。白鳥の湖をBGMに六畳一間を掃除する男の視点を映した『昭和六畳一間一人暮らしバレエ』。タイトル通りの『過去最多の人数が登場する一人芝居』。こちらの予想の斜め上を揺れ動く笑いは、今回も健在だった。

中でも強烈なインパクトを見せていたのが、本公演の最後に披露された『命を賭けてみる。その、一』だ。「命をかけて舞台を務めたことがない」という吹越が、舞台上で命をかけてみようというのである。で、何をするのかというと、専用の装置に吊るした二か所のロープにそれぞれボーリング球を引っかけ、それを前後に揺らし、その間をくぐって芝居をするというものである。ぶつかったら死ぬことはないだろうけど、かなり危険だ。かなり危険だけれど、かなりバカバカしい。しかし、こういったバカバカしさこそが吹越の笑いの本質であり、また吹越と小林が似ていると感じさせられる最大の理由なのである。

テレビではシリアスな役者を演じ、舞台ではバカでコミカルな芸人を演じる吹越満。二つの顔を持つ男は、これからもそれぞれに違った顔を見せ続けていくことだろう。でも、もうちょっと、ほんのちょっとでもいいから、演芸人としての吹越満も知られてもらいたいなあ、とか思ってしまう僕なのである。まあ、ニコ動でこっそり紹介されているくらいが丁度良いのかもしれないけれど。


・本編(99分)

『タイトル決定』『無対象家族』『物の状態に関する質問1』『スタンバイA』『仕草の装飾品店』『物の状態に関する質問2と3』『昭和六畳一間暮らしバレエ』『スタンバイB』『不完全なタイトル』『過去最多の人数が登場する一人芝居』『命を賭けてみる。その、一』

・ボーナス

『ボツネタコーナー』『過去最多の人数が登場する一人芝居の登場人物紹介』『決定タイトル全集』