菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

小林賢太郎プロデュース公演#6『TRIUMPH』

K.K.P.♯6『TRIUMPH』 [DVD]K.K.P.♯6『TRIUMPH』 [DVD]
(2010/02/17)
小林賢太郎YUSHI

商品詳細を見る

ラーメンズ小林賢太郎が、初めて芝居の公演をプロデュースしたのは2002年のことでした。ラーメンズが結成されたのは1996年ですので、彼はお笑い芸人として舞台に立つようになってから、わずか六年で芝居をプロデュースしたことになります。一般的に、お笑い芸人が芝居をプロデュースするために必要な期間というのは、どの程度なのかは分かりませんが、この六年という数字は、かなり短いのではないかと思われます。

小林賢太郎プロデュース(以下、KKP)による最初の公演『good day house』(2007年8月~9月)は、非常に簡素なものでした。改装前のアパートを舞台にしていることもあってか、背景はコンクリート打ちっぱなしの壁だけ。舞台に置かれている小道具も、徹底的に必要最低限。それはまさに、ラーメンズによる舞台と、殆ど変わらないものでした。おそらく、当時の彼にとっての芝居とは、あくまでもラーメンズとしての活動の延長線上にあったといえるのではないでしょうか。

しかし、その後の芝居は、ラーメンズとはまったく違った様相を呈するようになっていきます。第二回公演『Sweet7』(2003年6月~7月)、第三回公演『PAPER RUNNER』(2004年4月~5月)、第四回公演『LENS』(2004年7月)と、その舞台は回を増すごとに芝居としての特色を強めていきました。また、背景や小道具にもこだわりを見せるようになり、かつての簡素な印象は、もはや影も形も見えなくなってしまいました。

そんなKKP舞台公演は、第五回公演『TAKE OFF ~ライト三兄弟~』(2005年5月~6月。2007年9月~11月に再演)にて、一つの絶頂を迎えます。「飛行機を作る」というシンプルなストーリーを、たった三人の限られた出演者たちによって、コミカルかつアクティブに演じられたこの舞台は、2007年度演劇ランキング第1位(演劇ぶっく調べ)に輝きました。オーソドックスに笑えて泣けるこの舞台は、“小林賢太郎プロデュース”と純粋な芝居の公演として完成されたのです。

その初演から、およそ二年後に行われた公演が、今作に収められている第六回公演『TRIUMPH』(2008年8月~10月)でした。見慣れない英語のタイトルですが、これは“トライアンフ”と読みます。様々な意味を持つ単語ですが、この舞台においては“大成功”という意味で使われています。

この物語の主人公の名は、カフカ。夏の日に生まれた彼の名前は、漢字で“夏歩香”と書きます。しかし、昔から結果が出るのが遅いことの多かったカフカは、ある時からこう考えるようになります。「そうか!結果を求めなければいいんだ!」。かくしてカフカは、可もなく不可もない人生を送ることを決意します。つまり、“夏歩香”ではなく、“可不可”になってしまったわけです。そんなある日、カフカの前に奇妙な紳士が現れます。紳士はカフカに告げます。「魔法使いになってみませんか?」……果たして、青年カフカの運命や如何に?

物語は全体的に、パフォーマンスとマジックによって成立しています。これまでのKKP公演では、あくまでもオマケ的に扱われていた要素が、今回はメインとして用いられているわけです。しかし元々、人間同士の会話だけで世界観を成立させることの多かった小林の作風において、今回の様な「目で魅せる」スタイルの舞台は、かなりの冒険だったのではないでしょうか。実際、今作は過去の公演に比べて、ちょっとチグハグに感じられた部分が少なくありませんでした。魔法という名のマジックタイム、やや無理やりなマナー講座、後半で唐突に入り込んでくるドラマ路線……話の筋としては決して破綻してはいないのですが、なにか不具合が生じているような違和感が、そこにはありました。ただ、前回の公演を成功させた彼が、こうして新しい手法に手をつけようと試みているという意欲は、評価されるべきなのかもしれません。

『TRIUMPH』から間もなく二年が経過しようとしている、2010年。近年は、ラーメンズとしての活動や、ソロでの活動が目立っていた小林賢太郎ですが、そろそろ芝居公演の発想がまとまってきているのではないでしょうか。『TRIUMPH』で新しいスタイルを見出そうとした彼は、果たして次にどのような芝居を構築するつもりなのでしょう。小林賢太郎の新しい“トライアンフ”に、御期待下さい!(ジャンプかよ)


・本編(83分)

出演:YUSHI、犬飼若博、森谷ふみ、小林賢太郎