菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

バカリズムライブ『クイズ』

バカリズムライブ「クイズ」 バカリズムライブ「クイズ」
(2010/09/22)
バカリズム

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バカリズムの単独ライブを観るときは、いつも単独ライブを観ていないような気分になる。というのも、いわゆる芸人の単独ライブというものは、全体の流れを意識しているが故に“捨てネタ”(手抜きではないが、テレビなどのネタ番組では決して演じられることのないネタ)が作られるものなのだが、バカリズムの単独ライブにはそういったネタがまったく見られないのである。どのネタも、きちんと一つのネタとして独立している

バカリズムは、そんな単独ライブをいっつもやっている。考えてもみれば、おっそろしい話じゃないか。今やライブ主義として確固たるポジションを得ているあのラーメンズでさえ、時に単独で遊び要素を含んだネタを演じているというのに、バカリズムは全てがマジなのだ! しかも、そのネタの鋭さは、彼の活動期間とともに鋭利になっている。今現在、最高のお笑い司会者の一角を担っている今田耕司が、かつて「今最も面白い後輩」としてバカリズムのことを称賛していたが、彼の実力はあの頃に比べて格段に伸びている。この勢いは何処まで伸びていくのか、もとい何処まで伸ばしていくつもりなのか。

バカリズムが2009年9月に行った単独ライブ『クイズ』を収録した今作では、そんなバカリズムの才能が如何無く発揮されている。オープニング、生前クイズに答えることが出来なかったおバカたちが落ちる地獄の鬼に扮した『クイズ地獄』のクオリティに、ひとまず驚かされる。通常、単独ライブのオープニングコントは、あくまでもオープニングとしての役割以上の主張を求められることはない。ライブ全体のクオリティを予感させるような内容でありつつ、ちょこっと笑えるようなコントであれば、成立するのだ。しかしバカリズムはこの『クイズ地獄』において、そのオープニングコントとしての役割をきちんと果たしつつ、それ一本だけでもきちんと勝負できる完成されたコントを提示したのである。

もちろん、頭でっかちでは終わらない。バカリズムは、その後もきっちり笑いをもぎ取っていく。某ドラマの主人公に明らかに影響を受けている教師が生徒にそのことを指摘されてしまう『暮れなずむ町』、経営している不動産屋の屋上から飛び降りようとする人に別の物件を薦める『図るなら』、ある有名な童話の登場人物の名前が全員普通な『日本要するに昔話』、お見合いしようかどうか悩んでいる娘に回りくどい話をくどくどと続ける父親の『久保家の縁談』、特にヒーローというわけでもない男が正義感を持って女性を救おうと試みる『正義感』。どれもこれも徹底的に下らなくて、しかしまったく違った手法の笑いを生み出していた。

中でも圧巻だったのは、今作の最後に収録されているコント『正直村と嘘つき村』。これは「どんな質問にも正直に答える“正直村”とどんな質問にも嘘で答える“嘘つき村”のどちらかに住む人に、正直村に行く道を教えてもらうためにはなんと質問すればいいか?」というお馴染みのクイズを、バカリズムの視点でコント化した作品だ。その内容は、“正直村”と“嘘つき村”というクイズのためだけに作られたが故の不条理な設定を、バカリズムならではの視点をもって更に不条理に斬り返している。これまでにバカリズムが生み出してきたコントの中でも、稀に見る傑作だといえるだろう。

この作品を持って、2009年に行われたバカリズムライブは全て映像ソフト化されたことになる。そして2010年10月現在、バカリズムは既に年間四度のライブ公演を行うことが決定している(単独ライブ二回・番外編『バカリズム案』二回)。はっきり言って、やりすぎだ。自己流の笑いを決して劣化することなく、しかも大量に生産する“お笑い精密工場”バカリズム。この存在は、もはや恐怖だ。他のピン芸人は、もっと「ピンチ!」を感じなくてはならないと……と、特に上手くないオチで〆。


・本編(68分)

「プロローグ「クイズ地獄」」「~オープニング~」「暮れなずむ町」「図るなら」「日本要するに昔話1」「久保家の縁談」「3.14」「日本要するに昔話2」「正義感」「正直村と嘘つき村」「~エンディング~」

・特典映像(14分)

「非常識クイズ1」「非常識クイズ2」「非常識クイズ3」「非常識クイズ4」「頭痛クイズ」「偏見クイズ1」「偏見クイズ2」「日本要するに昔話3」