菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ナイツ独演会』

ナイツ独演会 [DVD]ナイツ独演会 [DVD]
(2010/12/29)
ナイツ

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浅草を中心に活動する漫才師、ナイツ。彼らが注目されるようになったきっかけは「爆笑レッドカーペット」で披露した“ヤホー漫才”であることは間違いないが、漫才師として評価されるようになったのは「M-1グランプリ2008」決勝進出によるところが大きい。少なくとも、彼らが関東を代表する漫才師の一角として語られるようになったのは、M-1で評価されてからのことだ。また、これまであまりテレビでは語られることのなかった“演芸場”という舞台が注目されるようになったのも、この頃からのことだったように思う。

実際の“演芸場”を知らない人間にとって、そこは非常に閉鎖的で古臭い雰囲気の漂う場所だ。舞台に上がる芸人はどうしようもなく古典的で、バラエティ番組の華やかさなど感じられることはない。客席を見れば、時間を持て余している老人たちがポツポツと座っている。そういうイメージが強かった。しかし、“演芸場出身”であることをアピールポイントにしたナイツの漫才が評価されることによって、演芸場に対するイメージは変化した。少なくとも、そこに面白い何かが埋まっているように匂わせることには、成功したのではないだろうか。かつて、M-1で優勝したますだおかだ増田英彦が、その優勝会見の場で「テレビに出ている芸人だけが面白い芸人じゃありません!舞台には面白い芸人がいっぱいいます!」と叫んでいたが、ナイツはその漫才で「演芸場には面白い芸人がいっぱいいます!」と叫んでいたといえるのかもしれない。

「ナイツ独演会」は、ナイツが結成10周年を記念して、東京の国立演芸場で行った独演会の様子を収録した作品だ。今作において、ナイツは三本の漫才を披露している。ちなみに、そのネタは『自己紹介』『2010年の出来事』『女性にモテる話題』。言葉遊び、時事ネタ、野球ネタとナイツの魅力溢れたラインナップだ。特に三本目の漫才は18分と長尺のネタで、これが今作の一つの売りになっている。

だが、今作の最大の見どころは、ナイツが普段立っている演芸場の舞台の空気を出来るかぎり再現している点だろう。漫談の中津川弦と、漫才の宮田陽・昇。テレビでのみナイツの漫才を楽しんでいる人たちに、彼らの様に演芸場を中心に活動している芸人たちのネタを見てもらうきっかけを設けている事実が、ナイツの演芸場に対する並々ならぬ思いを感じさせてならない。

中でも、中津川弦の漫談は、如何にも演芸場のネタといった雰囲気を醸し出していて、実に味わい深かった。

中津川「皆様方、ようこそいらっしゃいました。塙さんと土屋さんによります、若さ弾けるグランドショー!『ナイツ独演会』でございますけれども、出て参りました私はと申しますと、本日光栄にもお招きいただきました、漫才協会に所属します、シャープでホットな漫談家中津川弦でございます!(拍手)ありがとうございます、すぐ終わります」

丁寧かつ繊細な喋りの中でさりげなく放り込まれる言葉が、実にたまらない。この中津川氏、ナイツに余程気に入られているのか、2011年1月にリリースされるナイツ・Wコロン・ロケット団によるDVD『浅草三銃士』にも、ゲストとして出演している。いずれテレビにも引っ張り出そうという魂胆なのかもしれない。なお、ナイツの副音声解説によると、今作では普段の舞台で披露している時事ネタを封印してもらった、とのこと(その後でナイツが時事ネタを披露するため)。『浅草三銃士』では、普段の漫談を見ることが出来るのだろうか。

また、「笑点」の泥棒キャラこと三遊亭小遊三師匠の落語を堪能できるのも、今作の素敵なところ。先にも書いた様に、今はじわじわと継続している落語ブームの真っ只中。とはいえ、やはり自ら落語に触れようという気持ちが無い人に、落語の良さを届けるのは難しいというもの。そういった人たちの目に届くように……と、ここから先は、既に演芸場の芸人云々のくだりで書いたことと被るので、説明を省く。ちなみに、演じられている噺は『ん廻し』。「ん」がつく言葉を一つ言うごとに、田楽を一枚進呈する遊びを始める若者たちの姿を描いている。江戸っ子の言い回しが心地良い!

東京の演芸場に足を運ぶ予定のある方は、今作を観て予習するのもいいかもしれない。


・本編(89分)

「ナイツ漫才1」「中津川弦」「宮田陽・昇」「ナイツ漫才2」「三遊亭小遊三「ん廻し」」「トークコーナー」「ナイツ漫才3」

・特典映像

ナイツによるネタ解説「中津川弦」「宮田陽・昇」「ナイツ漫才3」