菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ジャルジャルのいじゃら』

ジャルジャルのいじゃら [DVD]ジャルジャルのいじゃら [DVD]
(2012/01/01)
ジャルジャル

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 後藤淳平福徳秀介によるお笑いコンビ、ジャルジャル

 大阪で活動していた彼らが全国的に注目されるようになったのは、ゼロ年代後期にショートネタブームを巻き起こしたネタ番組爆笑レッドカーペット」に出演したから、と考えていいだろう。

 番組出演当時、彼らにつけられていたキャッチコピーは“ネクストコントジェネレーション”。直訳すると“次世代のコント”となる。確かに、ジャルジャルのコントには、それまでに見たことのない新しさがあった。

 ジャルジャルのコントの新しさ、それは徹底的にシンプルな構成にある。

『しつこいひったくり』というコントがある。

 後藤扮する通行人がカバンを持って歩いていると、福徳扮する不審者がそのカバンをひったくろうとする、ただ、それだけのコントだ。

 ……本当に、それだけである。それ以上でも以下でもない。

 後藤はひったくられまいとカバンを引っ張り続け、福徳はひったくろうとカバンを引っ張り続ける。そんなやりとりが、最後まで続けられる。

 勿論、ジャルジャルのコントが、全て『しつこいひったくり』の様に、シンプル過ぎる内容であるわけではない。

 同い年の二人が家庭教師と生徒という上下関係になってしまう『同い年家庭教師』、会社をサボッたことを悟られないように嘘をつき続ける『嘘つき通す奴』、何も知らないことがないと思っていた仲良し同士がふとしたきっかけで意外な真実を知ることになる『幼なじみ』などの様に、いかにもコント的な設定のネタも多い。

 ただ、それらのコントもまた、最初の展開を何度も何度も繰り返すという、『しつこいひったくり』と同様の構成を取っている。この構成こそが、ジャルジャルのコントにおける肝といってもいいだろう。

 では、どうして徹底的にシンプルなジャルジャルのコントが、ウケるのか。

 人間は年を重ねることで、様々な経験を得る。

 そして、その経験を参考にして、未知なる事案を容易に処理できるようになる。

「亀の甲より年の劫」という古いことわざがあることからも分かるように、人間にとって、経験することはとても大切なことなのだ。

 しかし、時に経験は、油断や障害を生み出すこともある。

 例えば、車を運転している場合。

 普段は人通りの少ない通い慣れた道だからといって、確認もせずにアクセルを踏んだ途端、脇道から子どもが飛び出してきた……という話は、よく耳にする筈だ。

 これと同じことが、ジャルジャルのコントにも生じている。

 先の『しつこいひったくり』を見てみよう。

 ひったくりが現れてカバンをひったくろうとする姿を見て、観客はどう考えるだろうか。この後に、まだ何か展開が待っていると考えるのではないだろうか。よもや、これだけで終わる筈がない、と。

 何故ならば、通常の「ひったくり」は、文字通り荷物をひったくって逃亡するものだからだ。ひったくりが現れて、まず初めに考えることは、「ひったくりが荷物をどうこうして、それからどうなるか」であろう。

 それに、彼らが演じているのはコントだ。コントというのは、幾つかのやり取りがあって成立するものである。何か事件が起きれば、その後になにかしらかの展開があって、そしてオチに至る……それがコントというものだ。

 ……ということを、観客は経験ないし知識として認識している。

 ところが、ひったくりがカバンをひったくろうとする状態が、なかなか終わりを見せない。どんなに時間が過ぎても、二人は引っ張り合いを続けている。

 やがて観客は、このやりとりがそう簡単に終わらないことに気付く。

 そして、思わず笑ってしまう。

 その、日常ではあり得ない光景の持つ、ただならぬ不条理を感じて。

ジャルジャルのいじゃら』は、ジャルジャルにとって五枚目となる単独DVDだ。

 ジャルジャルが単独DVDをリリースするのは、『ジャルジャル イン ロンドン』(2010年9月)以来およそ一年三ヶ月ぶりとなる。

 ジャルジャルにとって、2010年は激動の一年だった。二年連続で「キングオブコント」決勝戦に進出、更に最初で最後の「M-1グランプリ」決勝戦に進出、主演映画「ヒーローショー」が公開され、フジテレビの看板番組「めちゃ×2イケてるッ!」の新レギュラーにもなった。それに加えて、ロンドン公演も行っていたのだから、とてつもないバイタリティだといえるだろう。

 本作には、2011年10月に行われたDVD収録用ライブの模様が収められている。本編では全11本のコントが披露されており、中には今回初めてDVD化されたネタもある。また、特典映像には、2011年7月に行ったロンドン公演の模様を収録。……もはや単独では商品にならないと判断したのだろうか。確かに、『ジャルジャル イン ロンドン』は、さほど充実した内容とはいえなかったが。

 収録されているコントは、どれもジャルジャルの徹底的にシンプルな構成力によるものばかりだ。誰かが近付いてくる足音かと思ったら……『屁の足音』を初めとして、文化祭を仕切ろうとする男の風貌にいよいよメスが入る『角刈りのくせにクラスのメインになろうとする奴』、新入社員に必要な事を提示し続ける『新入社員説明会』、キングオブコント2010決勝でも披露された『おばはん絡み』などなど。以前よりも構成に力の入ったコントが揃っている。

 中でも目を引いたのは、『めっちゃふざける奴』というコント。その内容は、就職の最終面接の会場に事前連絡するなど、きちんとした態度で面接にやってきた後藤扮する学生が、福徳扮する面接官と対峙した途端に、それまでの発言からは想像できないような一面を見せ始める……というもの。はっきりいってしまうと、ただただ下ネタを言い続けるだけのコントなのだが、その内容がどうにもこうにも下らない。まるで、ウ○コだとかチ○コだとかを見て、大袈裟にはしゃいでいる小学生の様だ。

 だが、それが、どうにもこうにも面白かった。

 2012年、ジャルジャルはコンビ結成十年目を迎える。

 才能のあるお笑いコンビは、結成十年を節目に大きく変化するという話を聞いたことがある。果たして彼らは、このシンプルかつバカバカしい世界を、どのように成長させていくのだろうか。

 今後の展開に期待がかかる。


・本編(日本公演/79分)

「屁の足音」「角刈りのくせにクラスのメインになろうとする奴」「放浪口笛師~第1話~」「めっちゃふざける奴」「新入社員説明会」「放浪口笛師~第6話~」「おばはん絡み」「屁我慢してる面接官」「男か女かわからん奴」「放浪口笛師~最終話~」「逆ー!!!」

・特典映像(ロンドン公演/91分)

「リストラ」「相撲」「消臭」「仕立て屋にて」「KUMO」「椅子とりゲーム ~なんかおかしい~」「鼻くそ」「ひったくり」「日本の商談」「大きな車」「写真撮影」「サイクル」

・後藤の新居で収録した副音声