菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ナイツ独演会 其の二』

ナイツ独演会 其の二 [DVD]ナイツ独演会 其の二 [DVD]
(2012/01/11)
ナイツ

商品詳細を見る

漫才協会所属の漫才師、ナイツ。彼らが初めて単独DVDをリリースしたのは、2008年12月のことだった。DVDのタイトルは『ナイツのヤホーで調べました』。当時、塙がネットで調べてきたという間違った情報を喋り続け、それに土屋が制止するでもなくツッコミを入れていく“ヤホー漫才”で人気を博していたナイツは、この作品に当時のベスト“ヤホー漫才”、そして彼らの拠点ともいうべき浅草を漫才調で案内する“浅草紹介”を収録した。テレビで目にするナイツの漫才を堪能できると同時に、彼らが浅草を中心に活動しているということを深く印象付ける、まさに入門書と呼ぶに相応しい一枚である。この翌年、2009年2月には『21世紀大ナイツ展』をリリース。ここでは、ヤホー漫才を開発するより以前にナイツが演じてきた、様々なスタイルの漫才を観ることが出来る。要するに、彼らの漫才師としての紆余曲折の歴史が理解るわけだ。

この二作品で、ナイツは自身の“基礎知識”と“漫才師としての歴史”を、視聴者に提示している。一部のファンのみをターゲットとしたDVDも少なくない昨今において、ここまで自らを理解してもらうために徹底している若手芸人を、僕は他に知らない。実に賢く、堅実である。

『21世紀大ナイツ展』のリリースから二年近く経過した2010年12月、彼らは『ナイツ独演会』をリリースする。独演会と銘打っているが、その内容は単独ライブのそれと同様だ。但し、舞台は国立演芸場。そしてゲストには、漫談の中津川弦、漫才の宮田陽・昇、落語家の三遊亭小遊三を招いていて、いわゆる単独ライブとは少し違った雰囲気を醸し出している。ここでナイツは、若手芸人のファンにはあまり馴染みのない、寄席の空気を再現してみせたのではないだろうか。彼らの主戦場である演芸場が、果たしてどういう場所なのか、またどういう芸人が登場するのか、それを見せようとしたのではないだろうか。翌年の2011年1月には、ナイツとともに漫才協会に所属しているWコロン、ロケット団で結成された“浅草三銃士”(※現在はU字工事も加わっている)によるDVD『浅草三銃士』をリリース。三組の漫才と同時に、浅草芸人たちのディープな話題が散りばめられている。この二作品で、ナイツは浅草演芸の表と裏を切り取っている。彼らなりの、浅草演芸に対する愛情表現といってもいいのかもしれない。

そして、2012年1月11日。ナイツはおよそ二年ぶりとなる独演会DVD『ナイツ独演会 其の二』をリリースした。本作には、2011年9月に国立演芸場で行われたライブ、「ナイツ独演会2011」の様子が収録されている。

開口一番、登場するのは主役のナイツ。お馴染みのスーツに身を包んで、ゆったりとトークを始める。ライブ当日、関東に接近していた台風についての話から、どうしても触れざるを得ない震災の話題へ。瞬間、重たい空気になるも、「塙:考えた結果、今日は自粛にさせていただきます!」と、逆手に取ったボケを見せつける。こういう時だからこそ、笑わなくてはならないんだ……というメッセージが込められているのかどうかは分からないが、実に力強い開き直り宣言である。挨拶もそこそこに、漫才を開始。最初の漫才は、ヤホー漫才と同じ系譜を踏んでいる、お馴染みの自己紹介漫才……と思いきや、ところどころで身内ネタが。塙の友達、家族、漫才協会の人々など、観客の理解が届かないボケがどんどん飛び込んでくる。一筋縄じゃいかないナイツの本分が見える漫才といえるかもしれない。「塙:このネタ、昨日嫁に見せたら爆笑だったよ!」。

続いて、現れたのは三四郎という漫才師。「M-1グランプリ2010」では準々決勝に進出した、若手の注目株だ。ナイツと同じマセキ芸能社に所属している。今回、彼らが披露した漫才は、『悪魔ゲーム』なるもの。ルール不明の悪魔ゲームを強いられる、創作型の漫才だ。正直、内容はくっちゃくちゃで、とても見られたものではない。ただ、ところどころで飛び出してくるナンセンスなボケが、妙に面白い。大爆発の予感を匂わせながらも、まだまだ不器用で上手くコントロール出来ていないといったところだろうか。三四郎の漫才が終わると、続けてカントリーズという漫才師が登場する。彼らもまた、マセキ芸能社に所属しており、現在は漫才協会にも籍を置いているという。『夏バテ』という実に分かりやすいテーマで、オーソドックスな東京漫才を見せつけてくれた。華やかさはないが、だんだんと面白くなっていくコンビではないだろうか。

二組のゲストによる漫才が終わると、再びナイツの二人が登場。立て続けに三本の漫才を披露する。国際化社会に向けて英語でヤホー漫才をしてみる、ツッコミがしっくりこないのでボケとツッコミを入れ替えて漫才をしてみるなど、独演会ならではのネタが並んでいる。ようやく、漫才のフォーマットで遊ぶ余裕が出てきた、ということなんだろうか。その中で披露された、塙が夏バテの症状を理解できずに、病院で診察してもらう漫才が秀逸の出来。ボケの手数は少なく、決して賞レース向けではないのだが、実にナンセンスでバカバカしいネタだった。もしかしたら、本来の彼らは、こういう漫才をやっていきたいのだろうか。「土屋:だから夏バテだからでしょ!?」。ちなみに、この時のナイツは私服っぽいラフな格好で登場している。気軽に楽しんでくださいといわんがばかり。

三本の短い漫才が終わると、今度はゲストの春風亭昇太師匠が登場。五十を過ぎているとは思えない若々しい足取りで、高座へと上がる。マクラは勿論、ナイツについて。昇太師匠はナイツと同じ落語芸術協会に所属している。「昇太:久しぶりに見ましたね。見る見る、顔が変わっていって、売れていく芸人の姿を」。それ以前のナイツは、まったく違う表情をしていた。「昇太:なんか、ただ生きてるだけ、みたいな。そんな二人だったんですよ」。ネタは『力士の春』。息子を相撲取りにしようとしている両親が、英才教育を施す様をナンセンスに描いた新作落語だ。昇太師匠の新作でも鉄板の名作といわれているが、ここでも確実にウケていた。……強い!

昇太師匠が引っ込むと、ナイツによる最後の漫才が始まる。ピシッとしたスーツに戻り、2011年の話題を総ざらい。伊達直人八百長問題、カンニング問題など、2012年になった今となっては懐かしい話題が多い。……当然か。その消費されまくった時事ネタに、さらりと「塙:M-1グランプリ八百長あったんです」とエッジの利いたボケをブチ込むあたりが、実にらしい。これもM-1の風化とともに、通用しにくいネタになっていくのだろうが。ところが、この時事ネタ漫才が、後半に突入して国民栄誉賞の話に突入した途端に、ガラリと雰囲気を変えていく。詳しくは書けないが……「塙:ちょっと可愛過ぎるんですよね……顔が」「土屋:……まあ、個人の見解なんでね」。彼らの悪意が剥き出しになった秀作といえるだろう。実に満足だ。

ところで、本作には特典として、ライブでは披露されたものの、版権的な理由で編集せざるを得なかった漫才が、ナイツ自身の解説と合わせて収録されている。編集した上で収録してくれたことは有難いのだが、解説を外せる仕様にしていないため、実際のライブではどういう漫才が演じられていたのかがイマイチ理解できないのが実に残念。まあ、そもそも収録できなかったネタを収録してくれているのだから、文句をつけるほどのことではないのかもしれない。それよりも問題なのは、音声特典。ナイツによる「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」のネタに対する音声解説が収録されているのだが、実際の録音収録では立て続けに映像が流れていたらしく、三組のネタに対する解説がぶっ続けで繰り広げられているのに対し、DVDでは単独チャプター扱いになっている(※要するに、「三組ぶっ通しで解説を録音しているにもかかわらず、三組ぶっ通しで再生できない」)のは、どういうことなのか。おかげで、解説がブツ切りになって、聴こえないところがある。どうしても聴きたいわけではないが、こういうちょっとした粗が印象を悪くする。本編が上々の出来だっただけに、残念である。

……ただ、「ナイツ漫才1」の音声特典は必見。いや、必聴。漫才をしている最中の塙が、どういうことを考えて話題を展開しているのかが分かる、割とガチンコな解説になっているので。ナイツの漫才が好きな人なら、聴くべき。


・本編(87分)

「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」「ナイツ漫才2」「ナイツ漫才3」「ナイツ漫才4」「春風亭昇太」「ナイツ漫才5」

・特典映像(14分)

「ナイツ特典漫才(音声解説バージョン)」

・音声特典(ナイツによるネタ解説)

「ナイツ漫才1」「三四郎」「カントリーズ」