菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『トータルテンボス漫才ライブ 漫遊記』

トータルテンボス 漫才ライブ「漫遊記」 [DVD]トータルテンボス 漫才ライブ「漫遊記」 [DVD]
(2012/04/25)
トータルテンボス

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それまであまり評価が高くなかった芸人が、何の前触れもなくいきなり人気を集めるという劇的なドラマが最近の流行であるらしい。まあ、考えてみると、その傾向は以前からあったように思う。例えば、長く不遇の時代を過ごしたサンドウィッチマン。彼らのM-1優勝後のメディアでの取り上げられぶりは、物凄いモノがあった。サンドと同様、長く売れない時代を過ごしたオードリーも、大会終了後には数多くのバラエティ番組に出演していた。とどのつまり、日本人という人種は、とにかく苦労してきた人間が報われる姿に共感を覚えるのである。特に、芸人というジャンルにおいては、その美学が顕著に表れる。その魅力を否定するつもりはない。ただ、ドラマに目を奪われて、その芸に対する評価を甘んじている人をたまに見かける。いつか掌を返す日が来るのではないかと、他人事ながら不安に思う。

とはいえ、私もあまり人のことはいえない性質である。というのも、私もまた別のドラマを愛でているからだ。そのドラマとは、実力派と呼ばれた芸人がドン底にまで落ちるものの、どうにかして再び表舞台に這い上がってくる、いわばリベンジの物語である。M-1グランプリ2007において、サンドウィッチマンに優勝をもぎ取られてしまった漫才師、トータルテンボスもまた、そのリベンジの物語の最中にいるコンビだ。彼らの漫才は一度、ドン底まで落っこちた……と、私は捉えている。練り上げられているのに笑いに繋がらないシチュエーションと、相方イジリへの逃避行を繰り返すボケ……あれは、まさしくドン底であった。ただ、今にして考えてみると、あれはただただ暗中模索していただけなのかもしれない。それまでとは違うスタイルで浮上してみせようという、意志の表れだったのかもしれない。まあ、これらが純然たる的外れである可能性は否定できないが、ともかく今の彼らは浮上しつつある。

本作『漫遊記』において、トータルテンボスは再び言葉選びの才能を解禁する。決して新しくはないが、妙に印象に残る言葉の数々。これだ。これこそが、トータルテンボスの漫才だ。それに加えて、模索していた頃に培われたシチュエーションの独創性も、その面白さに拍車をかける。大村がオーソドックスなおっさんに憧れる『正統派のおっさん』と、大村が「腹が立った」というエピソードを話すも、それらの全ての怒りのポイントがズレ続ける『ズレた怒りポイント』は、本作のベストアクトといっても過言ではない。これらの柱がしっかりとしているので、以前はうすら寒さすら覚えた相方イジりも活き活きとしている。絶頂期ほどの勢いはないが、ここには確かにトータルテンボスの進化した漫才が在る。

なお、特典映像には、ギャグ村トモヒロなる人物のライブと、ギャグ村のライブを見守る笑い屋のオーディション風景を収録している。まさか、21世紀の真っ只中に、あの番組のパロディを見ることになろうとは……。


・本編(123分)

漫才「怒り方」「ズレた怒りポイント」「交渉人」「正統派のおっさん」「金の斧、銀の斧」「サトラレ」「毛ミングアウト」「部活の親友」

今日のいたずら「壊れ自転車」「火綿灰皿」「シャワートイレ」「誕生日ケーキ」「コロコロパンティー」「おっぱい携帯」「タコさんウィンナー」

・特典映像(23分)

「ギャグ村トモヒロ 一発ギャグライブ」

「壮絶!「ギャグ村トモヒロ 笑い屋オーディション」」