菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「椿」(ラーメンズ第8回公演)

ラーメンズ第8回公演 『椿』 [DVD]

ラーメンズ第8回公演 『椿』 [DVD]

 

 今、改めて観るラーメンズの感想文。

 

●「時間電話」
ある部屋の両側に置かれた糸電話は、少し発言がズレて伝わる時間電話だった……というコント。設定自体はSFチックだけれども、展開は割とオーソドックス。ただ、このコントの面白いところは『発言を受ける側』と『発言する側』とでは二人の口調が変わる点。発言を受ける時は弱気に、発言する時は強気になる。その辺りに、中間管理職的なイヤラシサを感じたり。オチに至るまでのくだりが少し雑。この種類のコントは、もう少し練ったオチに期待してしまうので、少し残念。

●「心理ゲーム」
ひたすら的外れな心理ゲームを繰り広げるコント。不条理というかナンセンスというか、適当に繰り広げられている会話が心地良い。どこか心理ゲーム自体に対するアンチテーゼを感じなくもない。フレーズで笑わせる部分も多く、「新幹線なごみ」「だるまちゃんとてんぐちゃん」「木目」などの単語は、さりげなく面白い。このコントもオチは雑、しかしこちらの場合は展開を楽しむタイプのコントなので問題は無い。

●「ドラマチックカウント」
様々な言葉の並びに合わせたコント。「10→1」「春夏秋冬」「あいうえお」を上手に使ったコントの展開。下ごしらえに時間をかけて、仕上げで爆笑させるという中華料理の様な流れは一撃必殺。何度も観ることができないのは残念だが、初見の衝撃は他のコントを寄せ付けない。ちなみに、山村浩二のアニメ作品に「ひゃっかずかん」という作品があるが、このコントと共通した上手さがある。

●「インタビュー」
とある芸能人を学生アルバイトがインタビューするコント。芸能人相手にテンパッている片桐と格好つけている小林の奇妙な会話から始まる。しかし、最初は遠慮していたのに少しずつ片桐がやりたい放題やってしまう様子は面白い。この時の片桐は実にシティボーイズ的不条理で、イチゴを食べて「赤い!」と叫ぶ姿は、まるで斉木しげるの様。オチへの流れで両ボケの様相を呈しているが、やはりここは片桐仁という素材を活かした内容を堪能すべきだろう。

●「心の中の男」
普通の男の食堂での様子を心の声とともに描いたコント。「時間電話」同様、設定には凝っているが流れはオーソドックス。男の心を演じる片桐のテンションが男を演じる小林と違いすぎて、そのギャップを楽しむコントになっている。ただ、それだけではなく小林と共感する男が小林に指示を出しているような、そういう印象を受ける。その姿は、なんだか「電車男」における「2ちゃんねらー」。これといった大きな流れはないが、寸劇としては存分に楽しめるものになっている。

●「高橋」
高橋だらけのコント。登場人物の名前の大半が高橋。いかにもラーメンズらしい不思議空間が作り上げられている。とにかくコロンブスの卵のようなコント。高橋同士の会話がナンセンスである。途中から、不思議なドラマが繰り広げられていく点も注目しておきたい。ただ不条理なだけではなく、裏打ちされた設定が見えているのも良いコント。

●「斜めになった日」
自分で自分のドッキリパーティーを画策する男と無理やり付き合わされている男のコント。この世界では『年に一度だけ斜めになってしまう日』がある。この設定を深く掘り下げており、また上手く誕生日パーティーと結び付けており、このコントもまた、ラーメンズらしいコントである。その世界の常識が、我々の世界とは違うというパラレルワールドっぷりが実に上手い。それでも、その設定に頼りきっていないドラマも素晴らしく面白い。もう一回言っておこう。上手い。

●「日本語学校アメリカン」
アメリカンにおける日本語学校コント。過去に様々な国の日本語学校があったが、その中でもウケを狙っている感がある。ただ『言葉のチョイス&イントネーション』で笑わせていた日本語学校が、今回は語呂踏みでの遊びを加えたものになっている。それで下手なダジャレになっていないところが彼ららしい。「平賀ゲットナイトミュージック、中ONOJFM」のくだりは最高。やや頭が柔軟な人間でないと笑えない可能性は否めないが。

●「悪魔が来たりてなんかいう」
二匹の悪魔がとある家庭に乗り込んで地獄に連れて行こうとするコント。格好つける悪魔の人間性が見え隠れ。そのギャップも面白いが、途中から悪魔と家庭の関係性が見えてくるようになり、それもまた面白い。近年におけるラーメンズの“優しい人間ドラマ”の元が垣間見えているようにも思える。

・総評
いかにも中期のラーメンズを彷彿とさせるコントが目白押しで、まさにラーメンズの入門書のような内容になっている。そのコントは全体的にシュールに見えるが、展開や内容は意外とキャッチで分かりやすい。アングラの入口に差し掛かっている、といったところか。この後、少しずつ濃度を上げていくラーメンズワールドに入るための低いハードルとして飛んでいただきたい。