菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

「雀」(ラーメンズ第10回公演)

ラーメンズ第10回公演 『雀』 [DVD]

ラーメンズ第10回公演 『雀』 [DVD]

 

 ●「お時間様」
時間を巻き戻してくれるという人物「お時間様」の元に、時間を戻してもらえないかお願いに来た男のコント。設定の不思議さは、これまでのラーメンズと同様。ただ、雰囲気は少しだけ大人臭さが感じられる。仕事に失敗して時間を巻き戻してもらおうとする小林が切なくも面白い。また、時間を巻き戻す代価として寿命が取られるというのも、後々に見られるブラック・ユーモアの雰囲気を感じさせる。

 

●「音遊」
仕事をしている男と、一緒に飲みに行こうと思って仕事が終わるのを待ち続けている音大出身の男のコント。深い設定は存在せず、ただなだらかな時間が流れていく。ここでメッセージになっているのは「自分本位に生きませんか?」ということ。このメッセージはコントの流れで隠れてしまってるけれども、なにげにラーメンズ(もとい、小林賢太郎)の中では大きいテーマとなっている感がある。小林自身、そういう生き方に憧れているのかもしれない。大体、そういうコントで暴れているのは片桐仁ですし。

●「プレオープン」
とある遊園地のあるアトラクションのプレオープンの様子をコント化。片桐が宇宙船の船長ロボット役を演じるという点以外は、ほぼ完全に遊園地のアトラクション。それなのに面白い。彼らには珍しく、このコントは「あるある」なのだ。ああ、こういうことを言うアトラクションってあるよね……と同意しながら笑ってしまう。また、こういうことってあるよね……という事件も発生する。その雰囲気を楽しめる、珍しいコント。

●「許して下さい」
何かで誰かを怒らせた男が、とにかく許してもらうために奮闘するコント。片桐は黙り続け、小林が必死に動き続けるという珍しいパターン。このコントは、とにかくオチについて語られることが多いのですが……まあ、つまり……どうして小林が片桐を怒らせてしまったのか、ということがオチで分かるのですが、ちょっと分かりづらいんですね。捻りすぎ、と言いますか。だけど、それについて考えるのもまた楽し。考えてください。

●「人類創生」
人類創生体験ルーム。アダムとイブから始まるはずだったのに、何故か部屋には男が二人。どうやら、どちらか優秀な人間がアダムの権利を得ることが出来るらしい……というコント。なんだか人間のイヤらしさが見えると言いますか。圧倒的に劣っている小林が、必死に勝とうとしている姿は「人間」臭い感じでなんともかんとも。しかし、この設定は凄いなあ。現実にありえそうだけど、やっぱりちょっとありえない。

●「ネイノーさん」
遊びに来たネイノーさんが言いたい放題、やりたい放題のコント。小林大暴れの巻。なんだか日本人ではない感じのネイノーさんがオモシロすぎるし、そのネイノーさんの発言に翻弄される片桐も面白い。突然、憑依とかするし。もうあかん。これは真面目に語れへんわ。ただひたすら、客も翻弄されっぱなし。面白いんやからしゃあないやんけ。回るし。

●「男女の気持ち」
女にフラれた男と友人。「フラれたらつらい」と言う男に対し、「フルほうもつらい」と言い返す友人。互いに譲らない二人は、自分の意見をコントで表現してみることに……というコント。あまり印象に残らない、地味なコントではある。だけども、二人の妙なテンションがジワリジワリと伝わってくる。爆発する面白さではないけれど、じっくりくる面白さがある。少しナルシストなところがある小林の姿も、なんだか楽しいですね。

●「雀」
雀を飼っている動物好きな男と、その友人のコント。動物相談のメールを送る子供がバカすぎてたまらないのですが。それ以外に印象に残るボケがあんまりないという悲しさ。色々やってるんだけどなあ……今回はこれが切な系のコントなのですが、まあ、それなりに。今回の公演の中で最も地味なコントかもしれません。まあ、シメとしての後味は良い。

●総評
やや演劇志向の前公演から、少し笑いの質が軽くなった感。良くも悪くも大衆的で、少しオーソドックスな雰囲気のコントが多かったように思えます。「椿」「鯨」よりもセット・脚本ともに妙な明るさを纏っており、なんだか胡散臭い。これはこれで面白いのだけれど、これまでのラーメンズで慣れた目で見ると少し物足りなさを感じる。これから後は、この芸風を深めていく傾向にあるラーメンズ。まだまだスタート地点の本公演は、少し地味である。