菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バカリズムライブ 科学の進歩』

バカリズム ライブ 「科学の進歩」 [DVD]バカリズム ライブ 「科学の進歩」 [DVD]
(2008/11/26)
バカリズム

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「科学の進歩」は、バカリズムのオーソドックスな一人コントから始まる。舞台は現代。博士と助手がタイムマシンを完成させ、歓喜の声を上げている。早速、タイムマシンに乗り込む二人。マシンの中は乗り心地が良く、シートは革張りだ。二人はタイムマシンでジュラ紀に向かうが、マシンを何かにぶつけるわ、スピード違反で切符を切られるわで、もうウンザリ……。

ところどころで見られる、ちょっと捻くれた感じのボケは、確かにバカリズムのそれ。でも、これまでバカリズムが作ってきたコントに見られた発想の鋭さは、そこにはない。鋭利な笑いは丸くなると同時に、バカバカしい方向へと肥大を始め、シュールからシンプルなナンセンスへと変わっていった。これは退歩なのか、それとも進歩なのか。少なくとも以前より、その笑いに余裕が出てきたようだ。

例えば、『DFの高飛びFWの餌食』というタイトルのコントがある。大会一週間前の日、サッカー部の顧問が部員の一人を呼び出し、実は彼がサッカー部ではなく将棋部だということを告白する、というコントだ。「シュートを打つときに“王手!”と叫ぶ癖がある」など、シュールなボケが挟み込まれることもあるが、その「サッカー部部員が実は将棋部部員」シチュエーションの持つシンプルなナンセンスさが、シュールなボケをマイルドにしている。以前のバカリズムは、ボケのインパクトの方が勝っていた。

ただ一方で、悪代官と越後屋の定型句をこれでもかと掘り下げた『WARUYONO!』の様に、従来のバカリズムが持つシュールな言葉遊び全開のコントも披露されている。新しい笑いを見出しつつも、その鋭さを完全には捨てていない。その意味で、この公演は非常にバランスの取れた内容になっていたと言えるだろう。

個人的には『にゅーす』というコントが、妙に印象に残っている。バカリズム演じるニュースキャスター(ダボダボのスーツを着て、鼻の下にチョビ髭をくっつけている)が、子どもっぽい語り口でニュースを伝えていく……という内容のコントだ。ニュースキャスターを子どもにしただけのシンプルな置き換えコントなのだが、バカリズムの子ども演技が妙にリアルなためか、それとも“ニュースキャスターを子どもにする”というシチュエーションに風刺の様なものを感じたからなのか、笑える・笑えないを超越した緊張感を覚えてしまった。

過去にソフト化された公演(「宇宙時代 特大号」「生命の神秘」)と比べて、その完成度が格段に上がっていたように思う、この「科学の進歩」。それなのに、バカリズムの笑いにはまだまだ伸びしろがあるように感じられるのが、恐ろしい。感じるだけなので、ひょっとしたらこれが限界なのかもしれないけど。

ちなみに、オープニングテーマ「科学の進歩のテーマ」とエンディングテーマ「どき2がつづくなら」は、バカリズムライブでお馴染みのオクムラアイコ作曲によるもの(ちなみに、作詞はバカリズム)。前作同様に良い仕事をしている。いつか、まとめてCD化されれば良いのに。


・本編(70分)

『プロローグ「科学の進歩」』『オープニングテーマ』『DFの高飛びFWの餌食』『総合医者』『あの坂をのぼれば』『贈るほどでもない言葉』『俺とお前とブラットピット』『WARUYONO!』『にゅーす』『誰がために』『エンディングテーマ』

・特典映像(18分)

『科学ポエム』